婚約披露―控室―
レディーナ視点
「さぁ、出来ましたわ。ゆっくり目を開けてください。」
今朝、婚約披露が行われるセント教会へ連れられ、男子禁制の控室に案内された私は、そこにいた3人のシスターに着付けられ、化粧を施された。
言われた通りゆっくり目を開けると、そこには無表情の私がいた。
「可愛らしいですわ。さぁ、お立ちになって。全身を見たいでしょう?」
シスターに促され手を引かれ、大きな鏡の前に連れられる。
ウェディングドレスに似せた白のロングドレスを着た私が映る。
(他人みたい…)
「羨ましいですわ。こんな素敵なドレスを贈って頂けるなんて、レディーナさんは愛されてますのね。」
どうやら、他人にはそう見えるようだ。
今日、ここでラッセル様は婚約を発表される。私を隣に連れて。
そこで異議が無ければ、神の許しを得て、晴れて正式に婚約者となる。
招待されたのはラッセル様の親しい方達ばかりだ。異議を唱える者はいないだろう。
「天候にも恵まれ、喜ばしい事です。神も祝福しておりますよ。さぁ、これを。」
手元に小さな花のブーケが渡された。
(本当に神がいらっしゃるのなら…)
私は何か罪を犯したでしょうか?
望みも、望まれもしない結婚をしなければいけない程、何か罪を犯しましたか?
「ラッセル様に早くお会いしたいでしょうが、お待ちくださいね。」
(会いたくなんか、ない。)
ずっと私が会いたい人は、ただ…一人。
「準備が整いました。さぁ、参りましょう。」
外へ様子を見に行ったシスターが満面の笑みで迎えに来た。
前を一人のシスターが、後ろを二人のシスターが付いて教会までの廊下を渡る。
(塔の中と変わらない…)
ふと、光に誘われ空を見上げた。
私の心とは正反対に、太陽がさんさんと輝いている。
「レディーナさん?」
促されても、上げた顔を戻す事は出来なかった。
涙が溢れてしまったから。