私の婚約者
レディーナ視点
アルバートの新しい婚約者が決まった2日後、お父様が承諾した事で私とラッセル様の婚約も決まった。
「レディーナッ!」
「お父様っ!」
ガシッと力強く抱き締められてほっとする。
アルバートの次に大好きな、お父様の匂い。
「打ち合わせを始める。」
久方ぶりの親子の対面を無視して、ラッセル様が低く言った。
ラッセル様との婚約が決まった翌日の今日、今後の話し合いと言う事でお父様との面会が許され、今日この場所に私は来れた。
塔1階の騎士待機室と言う名のこの部屋にある、黒いソファに腰掛ける。
隣にお父様が座ると、体が少しだけお父様側に傾いた。
「準備に少々手間取っているが、婚約披露を来週末に行う。」
「「は?」」
ラッセル様の言葉にお父様と私が声を上げる。
「ら、ラッセル様、レディーナはまだ未成年です。」
お父様の言葉にうんうん。と頷いて見せる。
「知っている。だが、私は成人しているのでな。来週末に行うのは私の婚約披露だ。隣には勿論、レディーナ。君に立って貰う。」
書類を読み上げるかのように淡々と告げられた言葉。
普通は両人が成人になってから行われる婚約披露を強行する、という事は、もう私に逃げ場は無い。
来週末に行われる婚約披露がラッセル様のみだとしても、その隣に立てば、相手は私だと周知する事になる。そうなれば、婚約解消又は王家が反対しない限り、神の花嫁になる事も許されない。
もう誰も私に手を出せなくなる。お父様も、お兄様も…アルバートも。
私に手を出せば、それはラッセル様、ひいては王族を敵にするのも同然。
(もう私は、ラッセル様と結婚するしか…ないんだ。)
分かってた。分かってた…つもりだった。今日まで。
そして、今、ようやく、理解する。
私は、心の何処かで、誰かがどうにかして自分を助けてくれると、期待していた。
(嫌だ。嫌だ。イヤだ、イヤだ、イヤだ!!)
(こんな事になるなら…)
こんな事になるなら、そうしてよぎった後悔に寒気がした。
(この想いはそんなに軽いものじゃないのに…)
自分が一番、自分の気持ちを馬鹿にしている。
「分かりました…と言うしか、ないんですね。」
お父様が声と肩を落とした。初めて見る父の姿に、心が痛む。
「そうだ。婚約にしてもそうだった。承諾を渋るなど、この俺に逆らうつもりかっ!」
ぐっ、とお父様の喉仏が動いた。言いたい事を堪えたのだろう、眉間の皺が深くなる。
「…申し訳、ありませんでした。」
「その素直さに免じて、暫し娘との時間をやろう。」
お父様の謝罪に満足したのか顔を崩したラッセル様が、長い脚を優雅に組んだ。