面会の後
アルバート視点
「…手を離せ」
カチャッ。と、退出するや否やラッセルの胸ぐらを掴んだ自分の喉元に、ダンの剣先が伸びた。
「どういうつもりだ!」
「何が、かな?」
自分の問いに薄く笑顔を見せながら、奴が手を上げ合図すると、喉元の剣が引かれる。
「レディーナを婚約者だと言うのなら、ちゃんと扱え!」
「ちゃんと、とは?」
「あんな、罪人の部屋に閉じ込めるな!」
「ふむ、罪人だしなぁ。仕方ないんだよ。」
「お前の婚約者だろ!!」
「そう!私の婚約者なのだよ。」
お前は他人だ。と言外に匂わされぐっと込みあがる思いに言葉が詰まる。
ふと浮かべたラッセルの満足げに笑う顔に、既視感を覚えた。
(この顔、どこかで…)
「…お前、剣術大会の…」
確信を持って問えば、奴がニヤリと口元を上げた。
「そうだよ、アルバート。私だ。あの日、お前から受けた屈辱を私は、一日たりとも忘れた事は無かった。あの日からずっと、お前の歪む顔が見たかった。」
まるで唄うかの様に大げさに両腕を広げ、奴は語った。
(俺の、せいで…レディーナが)
力が抜け手元が緩み彼の服を手放すと、奴は嬉しそうに顔を崩し言った。
「あぁ、…その顔が見たかった。」
胸元の衣服を整えると、ラッセルが階段を降り始め、その後ろにダンが続いた。扉を振り返ると、後から出てきた白い騎士に目で促され、自分もダンに続く。
後ろでガチャリとレディーナを閉じ込める音が聞こえ、手を握り締めて感情を抑え、心の中で彼女の名を呼んだ。
「彼女は随分痩せていましたが…?」
冷静を装って声を掛ければ、振り返らずにラッセルが答える。
「あぁ、あの子は食が細くてね。なかなか食べて貰えないんだ。」
「食事は何を?」
「今はスープのみだ。報告では固形物を受け付けないと言うんでね。」
「…」
「まったく、我儘なお嬢様だ。なぁ、ダン」
「はっ。殿下の言う通りです。」
「…。でしたら、プリンは如何でしょう?」
自分の言葉に、ラッセルが足を止め、ダンも足を止めた。ので、自分も足を止める。
「プリン、だと?」
ラッセルのあざけ笑う顔が振り返る。
「お願いします。物はこちらで手配致しますので、どうか…。」
暫しの間考えた後、ラッセルが下品な笑みを強めた。
「披露の際、我が婚約者が痩せていては衣装も映えまい。助かるよ。礼を言う。」