プレゼント
レディーナ視点
ガチャリ。
ノックもなしに開錠され扉が開かれるが、今更驚く事は無い。
ダンさんを従えたラッセル様が、知らせなく私の部屋を訪れるのは、最近良くある事だ。
お昼ご飯を食べていないので、今は恐らく午前中だろう。
「お前にプレゼントだ。」
そう言ってラッセル様から私の足元に投げ渡されるのは、ゴシップ新聞。
「ありがとうございます。」
私はその新聞を拾う事も無く、頭を下げた。
先週、アルバートと私の婚約が解消されてから渡される様になった新聞の内容は、読まなくても分かる。
「読まないのか。」
「えぇ、私には必要ありませんので。」
それに読まなくても教えられる事になるので、変わらない。
「仕方ない、今日も私が読んでやろう。」
(ほら、ね。)
動揺を悟られない様、俯く事で表情を隠した。
「なになに、ほう!アルバートの新しい婚約者候補達が早速公表されたぞ!一番最初に名乗りを上げたのは…、アンジェリカ・ウォーイング。ほうほう、良いな。アルバート大出世だ!まぁ、妥当な所で言えば、このリリア・リンクだな。おや、アレア・フィンクスの名もあるな。抜け目のない女め。」
楽しそうに読み上げる名は聞きたくなくても耳に入った。
私はただ、じっと床を見つめてその時間を耐える。
「泣きもしないのか、つまらん。」
(誰のせいで!!)
一瞬で膨れ上がる怒りを、手を握り締められない代わりに、唇を噛み締めて堪える。
(だって、受け入れるしかないじゃないっ!)
私とアルバートの婚約は解消されたのだから。
貴族の家に生まれたからには、家を守る義務がある。
ましてや、ジーク家を継ぐアルバートにとってそれは絶対だ。
(私だって、曲りなりにも貴族の娘。)
分かってる。覚悟を、しなくてはいけない。
アルバートの隣に、私じゃない、誰かが立つのを。
「まぁ、良い。気に食わないが、お前に面会だ。」
「面会?」
「上が煩くて堪らん。連中を黙らせる為に仕方なく、だ。面会時間は30分厳守だ。準備しろ。」
そう言い残すと、ラッセル様とダンさんは退室して行く。
間を空けずに侍女が顔を出した。
「食事と着替えを持ってきました。」