運命の夜
アレク(レディーナの兄)視点
夕方、国営騎士団にある自室。
控え目なノックの音の後、開いた扉から現れたのは憔悴した顔の妹の婚約者、アルバートだった。
「アレク様、また駄目でした。」
入口で立ち尽くす彼が手に持つ封筒は、今回も断られた面会申請の返答であろう。
「アルバート、もう良い。もう、良いんだ。」
そう言えば、言いたい事を理解した彼が、顔を歪めた。
手を尽くした。
お互い、出来る事、全て。
しかし、出来る事など、殆ど無かった。
駄目だった。
力が無い自分が悔しくて、情けなくて。
そしてそれは、彼も痛感している事だろう。
「レディーナとの婚約を、解消してくれ。」
「アレク様までレディーナを見捨てるのですか!」
「違う!…違うんだ、アルバート。だが、もう、どうしようも、無い。」
握り締め、手を震わす彼の側に寄れば、表情を隠すようにアルバートが顔を俯かせた。
お互い分かってる。分かっているのに、足掻いて足掻いて、足掻いた。
結果、レディーナは変わらず幽閉の塔に居る。
僅かでも年長者である自分が、動けない彼の背中を押すべきだ。
「もう充分だ。私も、父も、感謝している。勿論、レディーナも。」
「まだ、何かあるはずです!」
俯いたまま、それでも声に意思と力を込めて彼が抗う。
「レディーナの人生に、お前を巻き込む訳にはいかないんだ。」
「望んだ事です!」
「見捨てる訳じゃない。レディーナは私が守ると誓おう。私にはその責任と覚悟がある。」
「自分にもあります!」
「違う。私は家族だからある。でもお前は、違う。」
「…、自分はその中に、入れて貰えないんですね。」
寂しそうに、彼が言った。
アルバートに並び立ち、肩に手を置く。
「…、今までありがとう、アルバート。レディーナに変わって礼を言う。」
置いた手から微かな揺れが伝わる。彼が涙を流すのを、そう言えば初めて見るな。と思った。
その冬の年末。レディーナとアルバートの婚約は解消された。