自分の言い分
アルバート視点
「お手紙がいくつか、届いております。」
学園から帰って来ると、いつもの様にセバスチャンが出迎えた。
今日は長期連休中に何日かある学園の、臨時開校日だった。
正直、勉強等する気もおきないが、レディーナが戻って来た時困らない様に。ただそれだけの為に出席し、ノートをとった。
「こちらは、国営騎士団のアレク様より。こちらは王家直属騎士団の方から。」
アレク様の方からも申請してくれているが、ジーク家としてもレディーナへの面会を申請している。
2つの封筒を渡され、中身を確認する。
「申請通らず、か。」
すでに何度も断られているから、分かってはいた。分かってはいたが、苛立たしい。
もう2週間。レディーナの顔を見れていない。
「それから、こちらはビート様からです。」
もう一つ、封筒を渡される。
先程まで、会っていた友人からのわざわざの手紙。
急ぎ開封し、中を確認する。
「それから、旦那様がお呼びです。」
読み終えた事を察したセバスチャンが絶妙なタイミングで頭を下げた。
「お呼びですか」
開けられた父の部屋の扉から1歩、中に入ると尋ねる。
「取り敢えず、座りなさい。」
部屋中央にある黒い大きなソファーを顎で指し示された。
「こちらで結構です。」
「アルバート!」
渋々、入り口に近い方のソファーに腰掛けると、焦げ茶色のローテーブルの上にあるから余計目立つのか、嫌でも目に入る白い封筒。
「アルバート、そろそろ返事をしなくては」
同じ封筒を目に入れ、父が言う。
『婚約を解消して欲しい。』その旨が書かれたレディーナの父上、ジゼル様からの手紙。
「あちらが返事を待ってくれているのは、希望があるからでは無い。お前を気遣っての事だ。」
(分かってる。分かっている…)
王族、グレイ家からの婚約の申し出。
どう転んでも中流であるバレンティン家が断る事も、こちらのジーク家が阻止する事も出来ない話。
それでも、まだジゼル様が承諾せずに待っていてくれるのは、自分の為だ。
女側にしろ、男側にしろ、婚約を解消された。という事は、捨てられた。と世間では認識される。
一度でもレッテルが貼られると、問題があると見なされ、結婚が遠のく。
女性であれば、家族に養われたり神の花嫁になる等いくらか逃げ道が用意されているが、男はそうもいかない。結婚出来なければ、必要なし。と最悪家から出される事も少なくない。
「それでも、自分からレディーナを裏切りたくありません。」
膝に乗せた手を握りしめ、無意識に父親を睨んだ。
「では、どうする?何か策でもあるのか?」
それを受けても父は顔色一つ変えず、冷静に返す。
それが余計に自分の未熟さを感じさせて、苛立たしい。
「それは…、模索中です。でも、必ず!」
「それでは、遅い!」
「それでも、嫌だ!!こちらから婚約解消すれば、レディーナは捨てられたと思ってしまう!」
「お前はジーク家の跡継ぎだ!子供の様な我儘を言うなっ!」
「俺はレディーナしか認めない!ジーク家に相応しいのはレディーナだ!」
「…確かに、レディーナはジーク家に相応しい女性だ。」
「ならっ!」
「だが!…ジーク家に相応しい女性は、レディーナだけではない」