本当の理由
レディーナ視点
コンコンとノックが鳴って、ガチャリと開錠された。
その音を聞き、扉へ目を向けるとダンさん率いる4名の白い騎士が1脚のテーブルと2脚の椅子を運んで来て、部屋中央に置いた。
続いて侍女がティーセットと共に現れる。
用意されたそこに、先日と同じ様に座ると、紅茶が置かれた。
(久しぶりだわ…)
塔に閉じ込められてから出される飲み物は薬品臭い水のみだった。
だから、差し出されたそれが懐かしくて、嬉しくて、早速口を付けた。
「あつっ!」
慌てて取っ手を離すとカチャンとカップが嫌な音を立てて受け皿に戻った。
(あぁ、まただ。)
また、思い知らされる。
いかに今迄私が大切にされて来たのか、もう何度も思い知らされた。
言葉にも、言動にも、態度にも、目にも、そして…この紅茶にも。
(レナはいつも私が飲みやすい温度に冷ました紅茶を出してくれてたんだ…)
優しい笑顔を思い出していると、再びドアがノックされる。
入り口の騎士が頭を下げて迎えたのは勿論、ラッセル様だ。
「やぁ、調子はどうだい?あまり食欲が無い様だと聞いたけれど…」
上辺だけの言葉と笑顔を向けられる。
前回同様彼が対面に座ると、私の後ろに騎士が2人、ラッセル様の横にダンさんが立った。彼の前にも紅茶が置かれると、私は息を吸い込んだ。
「お伺いしたい事がありまして。」
「それで私を呼んだ訳だね、どうぞ。」
促され、頷き言葉を続ける。
「お伺いしたいのは私の罰の事です。確かに、私はラッセル様に酷い事を言いました。申し訳ありません。でも、それがここに無期限で幽閉される程、重い罪だとは思えません。」
「ほう。私がそれ程傷付いたのだとは、受け取って貰えないか?」
「だとしても。言い方は悪いですが、私より酷い事を言ったり、行った人が過去にもいましたが、彼等の罰も、これ程重くなかった。流石に危害を加えた者は死刑とされましたが、その他は期限付きの幽閉…だったと記憶しております。」
「ふむ、そうだな。」
「では、何故私だけ、他の方より重い罰を受けなければならないのでしょうか?」
(ここでそらしてはいけない。)
ラッセル様が面白そうに探る瞳に耐える。
「流石、と言うべきか。なかなかに…頭を使える様だ。」
少しだけ、ほんの少しだけ、空気が和らいで、体の強張りが解れる。
「御名答、罰はただの口実に過ぎない。」
「口実?では、私は何の為に…?」
「お前は、私の復讐に欠かせぬ、人質なのだよ。」
そう小さく呟くとラッセル様が自分の足首を撫でて、憎々しげに顔を歪めた。
「ここから出たいだろう?」
ふいにラッセル様の瞳が鋭く光った。
慌てて立ち上がると、後ろの騎士からそれぞれに剣が伸びて私の喉元に当てられた。
「わ、私、何も出来ません。」
「そうかな?」
怯える私を楽しそうに見て、彼が邪悪に笑う。
「まずは、アルバートとの婚約を破棄しろ。そして、喜べ。新たな婚約者は、私だ。お前の顔は好みではないが、悪くも無い。致し方ない、我慢してやる。」
「い、いや、嫌です!」
「お前の意思など、聞いていない。」
「私の婚約者はアルバートよ!」
ガンッとラッセル様が蹴ったテーブルが、私の腹部に当たる。
「うっ」
「勘違いしていないか?これにお前の意思は必要無い。」
「うぅぅ…」
更にグリグリと足でテーブルが押しつけられて苦しい。
「必要なのは、両家の合意。それだけだ。」