塔での生活
レディーナ視点
ふ、と差し込んだ光の眩しさで目を覚ます。
硬くて、冷たいベッドの上。灰色な景色。
この景色に、ようやく慣れた。
最初は起きる度、夢であって欲しかった。と泣いた。
目を覚まして、目を開ける度、映るのはレナであります様に。と何度も願った。
コンコン。と部屋の扉が鳴って、ガチャリと鍵が開く。
頭を下げて入室してきたのは一人の侍女。彼女とも顔見知りになった。
「食事と着替えを持ってきました。」
ありがとう。と何度笑い掛けても、彼女が笑う事は無い。
淡々と準備し、私を視界に入れる事も無く、頭を下げ出て行く。
ガチャリと重く鍵を掛ける音が聞こえた。
「いただきます。」
そう言って手を伸ばすのは具の入っていないスープ。
いじめ、では無い。私が食べ物を受け付けないのだ。
最初はパンとサラダに卵料理だった。
一口も食べられず返すと、サラダが減り、卵料理が減り、パンが消えた代わりにスープが出た。
「はぁ。」
溜息じゃない。温かい食べ物で冷えた身体が温まって出た息だ。
ここは寒い。特に夜は。
私に与えられたのは、固いベッドに敷かれたペラリとしたシーツと、薄い毛布と布団だけ。
1階の温かいお風呂に入っても、階段を上がってここに着く頃には体は冷めてしまっている。
用意され、置かれた生成りのワンピースへ腕を通す。
初めてこれを渡された時は着方が分からず手伝って貰ったそれを、今では難なく一人で着る事が出来る。
部屋にある小さな窓へ近寄って外を見る。
見えるのは茶色い木々だけ。
分かってる。分かっていても、何度も覗いてしまう。
会いたい。
きっと、心配してくれている。
(お父様、お兄様…)
会いたい。
(アルバート…)
会いたい。
ただ、ひたすらに。