謎の騎士
レディーナ視点
その日はとても気持ちの良い薄い青空で、上には雲一つ無かった。
冬なのに日中は、いつもより少し暖かかった。
アルバートに誘われて見た人形劇は凄く可愛くて、面白くて、感動した。
まだ日があるので寄り道しようと提案して、散策した広場も枯草がカサカサ鳴って楽しかった。
人形劇の話も沢山して、学園の話も沢山。それから今日ロビンさんと剣劇を見に行くと言うツバサの話も。沢山、沢山。楽しかった。
(いつか…)
少しずつでも良いから、いつか。
私の心も好転していけたら良い。ツバサと私の関係の様に。
そう、いつかの未来を願って祈った。
ふと前から数人、こちらに歩いてくるのに気付いたのは私が先だったのか、アルバートが先だったのか。
帯剣しているその姿から騎士である事は分かった。
しかし、白地に金色で飾られたその制服は初めて見る物だった。少なくとも国営騎士団の制服では無い。
沢山ある騎士団の一つだろうか。と一人納得しているとアルバートが歩みを止めた。
それにつられて私の足も止まる。
「レディーナ・バレンティン氏で間違いないか?」
私達の目の前で同じく歩みを止めた騎士の内、先頭に立っている男性が声を掛けた。
燃える夕日の様な橙色の髪が印象的だった。
「まずは何の御用か、お聞かせ下さい。」
私の代わりにアルバートが応える。
「私は彼女に聞いている。お前は黙っていろ。」
彼の高圧的な態度に無意識に体が一歩後ろに下がってしまった。
「レディーナ・バレンティン氏で間違いないか。」
「は、はぃ。」
背が高いからなのか、見下ろされると余計に怖い。
つい、応える声が小さくなる。
「来いっ」
私へと伸ばされた腕をアルバートの背に隠れる事で逃れる。と同時に、アルバートが彼の腕を掴んで止めた。
「一体、何の権利があって、彼女を連れて行くつもりだ。」
「お前に関係は無い。腕を離して貰おう。」
ぐっとアルバートが握る手に力を込めたのが分かった。
それなのに彼は表情を変える事無く、平然とそれを受け止めている。
「私は、アルバート・ジーク。正当な理由なく彼女を連れ去ると言うのなら、こちらもそれ相応の対応をさせて貰う。」
アルバートが家名を名乗る事で、暗にジーク家を敵に回すぞ。と脅す。
しかし、その言葉を聞いた彼は、ふっと笑った。
「こちらは、王家直属騎士、ダン・サイモン。」
「「なっ!」」
彼の言葉を聞いて私もアルバートも固まった。
王家直属の騎士…それは、国や民を守る為に存在する騎士団と違って、王族から直接指示され動く、言うなれば王家専属の騎士の事だ。
「これで、分かったであろう。さぁ、その娘を渡せ。」
驚き緩んでしまったのか、彼が腕を動かすと簡単にアルバートから離れてしまった。
アルバートが空いた両手で私を背に庇う。
「無駄な足掻きだ。大人しく渡せ。」
「渡さない。一体彼女に何の用があると言うんだ。」
「それは、お前が知るべき事では無い。」
ジリジリと彼が距離を詰めると、アルバートが同じ距離分、後ろに下がる。
「そうか、では仕方ない。」
彼が左腰に掛けてあった剣の鞘に手を伸ばす。
「だ、ダメ!」
「動かないで!」
アルバートの背から出ようとする私を、アルバートが止める。
「アルバート、大丈夫。大丈夫だから。」
「何が大丈夫だって言うんだ!」
「大丈夫。…話せばきっと分かってくれるわ。だから、ね?お願い。」
「ダメだ!大丈夫だって言う保証はどこにもないっ!」
「でも、こうしていても何も変わらないわ。ね?お願い。私は大丈夫だから。」
「話は纏まったか?」
ニヤリッと笑う彼が、私にはとても恐ろしく映った。




