女子会
ディー視点
「いらっしゃい。ツバサ」
「お邪魔しまーす。」
いつの間にか中期が終わり、12月中旬の長期連休のある晴れた日。
わたしはレディーナのお宅へお邪魔していた。
案内されたのは中庭だった。吹き抜けとなっているそこは、冬なのに天井から指す太陽の光で温かかった。そのお陰なのか至る所に鮮やかな花が咲いている。
その花々に囲まれた場所にマットを敷き、その上に座ってレディーナは本を読んでいた。
足音に気付いたのか、ふと顔を上げわたしを見るとふわりと笑って歓迎の言葉を口にする。
レディーナの横にわたしも座ると当たり前の様にブラックコーヒーが差し出された。
レディーナの家へ来るのは、もう何度目になるだろう。
こうして行動してみて、最近やっと分かった事がある。
前の、前世の戸叶翼であった自分は、ずっと受け身だった。
『トモダチ』を、『自分の状況』を嫌だと思いながら、誰かが声を掛けてくれるのを、助けてくれるのをずっとただ待っていた。
動かない自分を棚に上げて、助けてくれない他人をずっと恨んでいた。
「ディー、じゃ無かった。ツバサ、先週マリアさんと新しい雑貨屋さんに行ったんですって?ずるいわ。私も誘って欲しかった。」
「ふふ、ごめん。次は誘うよ。…それと、わたしの事、ディーで良いよ。」
「え?良いの?」
「うん、良い。レディーナがわたしの事、ツバサだって知っててくれるなら、良い。」
「…うん。分かった!」
元気一杯頷くレディーナのおでこ目掛けてつい、デコピンしてしまった。
なんで?っておでこを押さえながらレディーナが驚く。
なんか、つい。って返したら怒ってブツブツ文句を言っていた。
「あれから、ロビンさんとどう?」
「どう、って何が?」
「もうっ!分かってるでしょ!?」
「わかんない。」
「まったく、貴女ったら。彼の何が嫌なの?ロビンさんは良い人よ?気遣いと気配りの出来る人だわ。性格は私が保障する。それに、上流貴族だから、生活にも一生困る事はないのよ?」
「…ロビンが嫌、って訳じゃないのよ。」
「じゃあっ!」
「なら、あげる。」
は?と声にならない代わりに表情でレディーナが驚いて一瞬固まった。
「なら、ロビンをあげるから、アルバートを頂戴。」
「な、ななっ!ダメっ!ダメよ!」
「なら、早く仲直りしなさいよ。」
そう言うとレディーナがうぐっと言葉を詰まらせた。
「雨乞花鑑賞での事、誤解だってちゃんと説明したでしょ?」
「うぅ…。分かってる、けど。」
あの日、アルバートがわたしを選んだ理由はちゃんと説明した。
そうなるようにわたしが仕向けたのだと。
それには一応、レディーナは頷いてみせた。みせた…けど、納得出来ていないのか。
「何が引っかかってるの?」
「うん。引っかかってるって言うか…。」
「なに?」
「…。私はアルバートの事が…好き。だけど、アルバートは?アルバートも私の事を本当に好きなのか、分からなくて、…不安。」
(あんなに態度で示されてても、伝わらないもんなのか…)
「当たり前じゃん。他人の心なんて誰にも分からないよ。」
「うん。そう…、分かってるんだけど。」
「アルバートの事、信じてないの?」
「それは…。」
「…。じゃあ、レディーナはどうして欲しいの?」
わたしがそう言うと、少しだけ間を置いて、レディーナは手をぎゅっと握り込んだ。
「…、言葉…とか。」
「言葉?」
「私達の婚約って親同士が決めたものだから…それは当然なんだけど…でも、だから…信じきれなくて。でも!アルバートが、好き。とか、愛してる。とか言ってくれたら…。」
「無理ね。」
断言したわたしをレディーナが目を大きくして見返した。
「多分、今のレディーナにアルバートがどんなに心を込めて伝えても、貴女は何かしら理由を見付けて、それを否定すると思うわ。」
「うっ…。確かに。」
(信じる気持ち…か。)
それは、待ってるだけじゃ得られない。そう言うモノだと、最近目の前の人に教えられた。
「レディーナ、与えられるのを待ってるだけじゃ駄目なのよ。」
「え?」
ポカンとこちらを見つめる紅茶色の瞳。
「ぐずぐずしてると、本当にわたしがアルバートを奪っちゃうわよ?」