卒業発表会―夜―
ディー視点
『ねぇ、友達でしょ?付き合ってよ。』
『ウチら友達だよね?協力してよ。』
『友達だと思ってたのに、最低。』
わたしが知ってる『トモダチ』とは、都合の良い関係と言う意味で。
孤独を紛らわす為につるみ、足並みを揃える為に同調し、少しでも違えば弾かれる。
それらは、誰でも良かった。わたしでも、わたしじゃなくても。
・・・・・・・・・・
「お兄様に聞かれたの。私と貴女の関係。分からなかった。よく考えても分からなかったの。でも、もう会えないかもって思った時、悲しかった。会えても口を聞けない関係は嫌だって思った。だって、私、貴女と居る時怖かったけど、楽しかった。嫌われる事を恐れず何でも言い合えるってすっごく…楽しかった。」
耳の近くでレディーナの声がする。
「…レディーナにはマリアがいるじゃない。」
わたしはそれに反抗する。何故か心がいじけてる。
「そうね。でも、マリアさんは貴族の、バレンティンの私を見てる。マリアさんだけじゃない。皆そう。それは当たり前の事だけど、苦しかった。貴女と話すようになって、それに気付いた。間違えない様にって、嫌われない様にっていつも思ってる自分を。私をただの『レディーナ』として見て話してくれるのは、貴女だけだった。ツバサさんだけなの。」
レディーナの締め付けが強くなって、少し苦しい。苦しい、はずなのに。
「…本当に、レディーナって、馬鹿ね。」
本当に、そう思う。そう思うのに…嬉しくて悔しい。
(あぁ、…。)
あぁ、でも、そうだ。わたしはずっとコレが欲しかったんだ。
わたしを、わたしだけの存在を、必要として欲しかった。
(あぁ、…。)
あぁ、分かった。分かりたくないけど、分かった。
ここ最近、ずっと悲しいと感じてた、あれらは全て、『悲しい』じゃなくて『寂しい』だった。
わたしが好きだから、好きなのに必要とされなくて『寂しかった』んだ。
「今すぐじゃなくて良いの、友達になってくれる?」
背中に回されていたレディーナの腕が解けて、肩を支えられる。
温もりを感じられる程近かった距離が離されて、何だか、『寂しい。』
「ねぇ、ずっと付けてたって言ってたよね?」
わたしの問いに、こちらを窺っていた目をキョトンとした目に変えてレディーナが頷く。
「いつから?ってか、どこに居たの?」
「えっと、…受付近くの…」
「まさか…、あの厚着した変な人?変装してたの?」
照れながらエヘヘとレディーナが笑う。
「それより、お友達になってくれる?」
「ダメよ。」
「そんな。ツバサさん…」
「まずは、その“さん”付け止めなさい。」
「えっと、…ツバサ、さん。」
「次言ったら、絶交ね。」
「っ!?ツバサ!!」
「なに?レディーナ。」
「ふふ。これで友達ね。」
「いいえ、友達じゃないわ!ライバルよ!」
「そんなっ!!」
(あぁ、…。)
あぁ、心が温かく満たされる。
レディーナが笑うと嬉しくて、楽しくて、顔が緩む。
反応が楽しくて、つい、いじめちゃう。
(あぁ、…。)
あぁ、やっと分かった。
(本当だわ、アルバート。わたし、羨ましくて、憧れてた。)
レディーナとアルバートの関係に。
自然と当たり前に隣に居られる関係に。前世から憧れてた。
「私、ツバサが友達になってくれるまで諦めないから。」
「うわ、ウザッ」
「ひどいっ!」
もう、一人ぼっちじゃない。
わたしの居場所は、ここ。
違う、わたしが、ここに、居たい。
「そう言えば…レディーナもわたしもここにいて、卒業発表会はどうなったの?」
「あぁ、それなら大丈夫よ。」
ふふふ、と笑ったレディーナの顔はゲーム画面でも見た事の無い程の、初めて見る悪い笑顔だった。