卒業発表会―夕方―
ディー視点
「ツバサさん!!」
ドンッと背後からの衝撃で体が前に傾き、全身に恐怖が走る。
(落ちる!!)
この後来るであろう痛みに備えて竦む体に更にぎゅっと力が入った。
しかし、次いで感じたのは痛みでは無く、体を柔らかく包む温かさだった。
身体は確かに前に傾いている。けれど、腰元に回された腕に支えられていた。
「どう、して…。」
体勢はそのまま、後ろを振り返れば思った通り、自分に抱き着くレディーナが映った。
「び、びっくりしたー!落ちちゃうかと思った!」
おどけた様に明るい口調とは裏腹に、レディーナの顔は引きつって青ざめていた。
「どうして…。」
強い力でぐいぐい後ろに引かれその場から離される。
「うふふ。入り口からずっと付いて来てたの、気付かなかった?」
相変わらず青白い顔でレディーナが固く笑む。
抵抗せず引きずられた足が縺れてレディーナの上にお尻から倒れ込んだ。
「ぐぇっ」
レディーナからカエルに似た声が聞こえて慌てて退いた。
「ツバサさん」
ペタンと床に座り込むわたしの前に同じくレディーナが座る。笑うレディーナの目尻に涙が見えた。
「どうして…わたしの名前…。」
「だって、教えてくれたじゃない。廊下でお話した時。私の名前はトカノウツバサです。って。どうしてディーさんがツバサさんって名前なのか分からないけれど、貴女はツバサさん…なのでしょう?」
温かい物が頬を伝う感覚に、わたしは自分が泣いてるのだと気付いた。
「死にたかったのに…。」
「あら、それは困るわ。」
ヒクヒクと固まっている頬を上げて、レディーナが不細工に笑った。
「レディーナって、どこまで馬鹿なの?邪魔者がいなくなるチャンスじゃない。」
「ふふ。ホントね。」
笑ってレディーナがガタガタ震えているわたしを包んだ。
「ホント、私って馬鹿なの。貴女がアルバートに近づくのすっごく、すっごく嫌なのに、…なのに、貴女を嫌いになれないの。」
レディーナの腕の中は温かくて、ぽかぽかで、太陽の様で。懐かしい匂いがした。
「さらにね、驚く事に何と私は、貴女とお友達になりたいみたいなの。」
「…、…、…は?」
(は?)