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夜の雫 聖都事変 序  作者: 上総海椰
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2-2 夜襲

その夜襲があったのは宿舎を郊外の野営地に移して二日後のことだ。

ヴァロとフィアは別々のテントをそれぞれあてがわれたが、

フィアの強い希望により、一緒のテントに割り当てられた。

ミランダは最後まで難色を示していたが、結局はしぶしぶ同意した。

サイラムの意向もあったことはあとで聞かされることになる。


初めにその異変に気づいたのはフィアだった。

「ヴァロ…起きてる?」

「なんだ?」

テントの外から漏れるわずかな光は、明け方が近いことを暗に示している。

フィアの声に反応できたのはかつての訓練によるところが大きい。

フィアの声のトーンが微妙に違うことをヴァロはなんとなく察した。

「…魔力が使われている」

「魔女か?」

「わからない」

その言葉にヴァロはベットから静かに起き上がり、近くに置いてある剣を手にした。

できるだけ平静を装いながらヴァロはフィアの言葉に耳を傾ける。

「おそらく。フゲンガルデンで使われた睡眠魔法と感じが似てる…ヴァロは覚えてる?」

一年前のできことを忘れるわけがない。

一年前メルゴート襲撃の際にフゲンガルデンのすべての人間を眠らせた睡眠魔法。

それはヴァロの記憶にも新しい。

ヴァロとフィアは物音を立てないようにテントを出た。

「あれが使われてると?」

フィアは空を見上げながら独り言をいうように

「…風に乗せて拡散されてるみたい。

規模も効力もフゲンガルデンで使われたものとは比較にならないほど小規模だけれど、

同系統のもの。効力は小さいけれどこの付近一帯を眠らせるには十分じゃないかな」

入口にいた見張りの当番が松明の脇で倒れているのがみえる。

睡眠魔術は自分たち以外には機能しているようだ。

「術者の居場所は風上ということか」

「うん。あの丘の上あたり」

フィアは西にある丘のほうを指差した。

ヴァロは目を凝らしてみてみたが、丘に人影は確認できない。

外では侵入者用のトラップがカタカタなり始める。

偶然にこのタイミングで賊が来るということはほぼありえない。

しかも相手は盗賊狩りで知られる騎士団である。

つまり盗賊団側に魔法使いがいるもしくは手を貸していることは疑う余地はないということだ。

「フィアは隠れていろ」

「どうして?」

フィアの言葉にヴァロは渋い顔をした。

相手は盗賊団だ。しかも複数いるとみて間違いない

現在の騎士団の戦力はほとんど皆無とみて間違いはないだろう。

「私は魔法使いよ。自分の身ぐらいは自分で守れる」

「だからってな…」

こうなってしまってはフィアはテコでも動かないのは経験上わかっていたので、

ヴァロは途中で説得をあきらめた。

ここで言い合いをしている暇はない。

「…俺から離れるなよ」

その言葉にフィアは黙って頷いた。

相手はおそらく複数だ。魔法使いの彼女が加勢してくれることは正直ありがたい。

ただし、ヴァロは心情的に彼女を戦わせたくなかった。

ヴァロは頭を振ると、ゆっくりと剣を鞘から引き抜き、間もなく来るであろう賊を待ち構えた。

相手はこちらが術にかかったと考えている。

ならば回り道はせずにまっすぐこちらに向かってくるだろう。

ヴァロはゆっくりと呼吸を整え、その時を待った。


「よう」

その言葉に盗賊の一団が足を止める。数にして七名。

その言葉があまりに衝撃的だったのか、

仮面越しでも動揺がヴァロに伝わってくる。

「魔法抵抗が高い人間がいたか…あいつの危惧したことが現実になったな」

一人だけ動じない盗賊が声を上げる。

服装こそ一緒だが、一人だけ気配が妙に鋭い。

ここで戦闘になったとして、退かせるのは厄介だなとヴァロは状況を分析していた。

フィアが本番の戦で、どれほど戦えるのか不安ではあったが。

「このままおとなしく、引き返してくれればこちらは何もしない」

「仲間を引き渡してくれれば、無抵抗の団員には手をださない。不利なのはあんたのほうだろう」

低い声で端的にこちらの痛いところ指摘してくる。

またそれは暗に団員全員を人質に取っているといってると言い換えることもできた。

「不利かどうかはすぐにわかるさ。それに寝ていないのが自分だけだとでも?」

仮面をつけた男が肩をすくめた。

「どう見ても小娘一人だけしか見えないが…他にいるのか?」

「二人だけだと言った覚えはないんだが?」

はったりでもなんでも使えるものは使うべきだ。

フィアが魔法を使えるという事実はぎりぎりまで伏せておきたかった。

「はったりだ。本当にそうなら取引じみた真似をするものか」

その一言に周囲の動揺が消える。

ヴァロは直感した、この男場馴れしていると。

「交渉決裂のようだな?」

お互いにじりじりと間合いを詰めていく。

ヴァロは神経を研ぎ澄ませていた。一帯の空気が緊迫感を増していく。

その緊張を破ったのはヴァロの背後からの意外な一声だった。

「取引きに応じましょう」

ヴァロとフィアはありえない言葉を聞き、思わず振り返る。

「サイラム…」

そこには独立騎士団の団長が立っていた。

この場では魔法抵抗力のない一般人は意識を保てないはずではなかったか?

ヴァロはまるで存在していないものを見るかのような目でその男を見た。

驚いているのは盗賊団の連中も同じだったようだ。

「君らのお探しのものはこの男ですね。速やかにこの場から立ち去りなさい」

サイラムの脇には簀巻きにされている一人の男が転がっていた。

「話のわかる男はいるようだ」

「受け取ったらとっとと立ち去りなさい」


盗賊が視界から消えるのと同時にサイラムは片膝をついた。

ヴァロたちが駆け寄るとサイラムは片手でそれを制する。

「やれやれ、魔法耐性の有無でこれほど違いますか。これは一般人にはきついですね」

言葉とは裏腹に顔は真っ青で今にも倒れそうな感じだ。

「サイラムさん、どうして…」

「相手の手の内を知ってたから少しは対応できただけですよ」

サイラムの左手からは血が流れていた。

敵につけられたものではなく自身で傷をつけたのだろう。

そうすることによって睡眠魔法を克服したというのか。ヴァロは驚きを禁じ得なかった。

しかし、この男もそこまでが限界で、どう見ても意識を保つのがやっとのようだ。

「見るからに不服そうな面ですね」

「…まあ」

騎士として盗賊と取引きすることなどあってはならない。

ヴァロはサイラムを正視することができなかった。

そんなヴァロを見透かしたような瞳でサイラムは語りかける。

「ひとつ聞かせてください。

あなたはあの場で撃ち漏らすことなく、七人全員を倒すことができましたか?」

そのサイラムの問いにヴァロははっとした。

それは否と答えるしかない。

この男は選んだのだ。団員の命と盗賊討伐の功績を秤にかけ、団員の命を。

「相手がただの下衆な盗賊風情ならこんな取引き応じません。

相手は義賊を名乗り、体裁を取り繕っているからこそ有効なのです」

わかってはいたことではあるが、感情が納得しない。

「あなたの気持ちもわかります。ただこの状況は団員すべてを人質にとられている

ようなものだ。あなた方の腕を信用していないわけではない。

この場でやりあうにはリスクが高すぎると判断したまでです。

…なに、人間生きていればチャンスはめぐってきますよ」

淡々とサイラムはその言葉を口にした。

言葉とは裏腹に拳は固く握られていた。

ようはこの男も悔しいのだ。

ヴァロは目の前の男に敬意を覚えた。

「私のことは構わないで結構。ヴァロ君は自分たちの任務を果たしなさい」

聞きたいことは山ほどあったが、今はそれよりも優先されるべきことがある。

「フィア、行くぞ」

そういうとヴァロはサイラムに背を向け、走り始めた。


丘の上に魔女はいる。

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