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夜の雫 聖都事変 序  作者: 上総海椰
15/24

4‐1盗賊と魔女

陸路は独立騎士団と地元の騎士団が協力し、網の目状に配置され、徐々に狭まりつつある。

事実すでに一名と連絡が取れなくなっている。

蛇のサイラム。今更ながら対峙し仲間を引き渡した男がその名前であるということを知る。

一週間前にあの男を殺しておくべきだったと今更ながら後悔していた。

独立騎士団の展開は見事といっても過言ではなく、交通の要所に網の目のように張り巡らされている。

かといって慣れない土地で長居することはできるだけ避けたい。

騎士団領を独立騎士団と遭遇することなく抜けるには海路しかない。海路を進むには船がいる。

ただそれには相応の金が必要だった。


手持ちの金では盗賊団すべての人間を海路で移動させることは困難。

まして盗んだ品物を運び出すとなると、正規のルートは使えない。

マールス騎士団領内で二回ほど押し入りに入るものの、

富豪であるという情報をもとに、騎士団領に二度ほど押し入りを繰り返すも、家にはそれほど現金はなく、

二件目の押し入りの際に、めぼしい調度品を持てるだけ持って出てきてしまった。

リョカは制止はしたものの、慣れない異国の地からくるストレスや手持ちの金貨も底をつく不安から盗みに歯止めが効かなかった。

盗んできた品物に足をすくわれるなど冗談にもならない。

このフゲンガルデンのどこかに隠しておくという案も出たが、土地勘がない以上そんな危険な真似はできない。

なにより盗賊団内での反対が根強かった。

命令を無視して振り切り盗んだ品を、この騎士団領で換金しようとした部下も行方がしれない。

騎士団の包囲網の展開が著しく早いのも気になった。

自分たちの潜伏している宿もばれるのも時間の問題かもしれない。

リョカは自分たちを取り巻く環境が刻々と悪くなっていくのを感じていた。


現金がほしい。

騎士団領内はメルカ金貨が主流だ。

教会が発行している通貨でこの南の土地ではもっとも流通が盛んな通貨でもある。

その通貨ならば大概の取引に使えるし、何より足がつかない。

相方の魔女は睡眠魔法を使うことは可能だといった。

騎士団領まで行ってみたいという彼女の提案に乗ったのは自身だ。

リョカは頭を振りかぶり、魔女のいる部屋の前に立つ。

「入るぞ」

男はドアをノックし、部屋の中に声をかけた

「ええ」

魔女は宿の一室で薬の調合をしていた。

おそらく例の睡眠魔術に使う薬であろう。

調合はいつも仕事の三日以内に行っている。

宿の人間には相方は体が弱いので、寝込んであると伝えている。

「明日の夕刻商隊を襲う。大丈夫か?」

「わかった」

仕事の手を止めることなく、その魔女は簡潔に答える。

「先日例の騎士団の襲撃の際に二人の男と娘に会った」

ここぞとばかりに魔女に疑問をぶつけてみる。

「そう、奇遇ね。私もよ」

そっけなく魔女は答える。

「あんたの魔術を疑っているわけじゃない、疑っているわけじゃないが…」

魔女はふうとため息をつくと、手を止めて男を見やる。

「…男の一人は、異端審問官『狩人』。対魔専門のスペシャリスト。

一言でいえば私たちの天敵ってやつ。娘のほうは私の後輩。まさかこんな場所で会うなんてね」

「後輩?あんたの仲間か?」

「…落ちこぼれのね。安心して、アレでは私の術をどうにかできる力はない。

せいぜいできて私の魔術にかからないぐらいかしら」

「そうか…」

騎士団にも魔女がいることは驚きだった。

「できるだけ独立騎士団とは距離を置くことを勧めるわ」

「…もしまた出会ったなら…」

「速やかに殺すことね。落ちこぼれとはいっても魔女は魔女。大人数人がかりでも面と向かって対峙した場合倒すことは困難」

その言葉に少しだけ背筋が寒くなった。

男一人ならばどうにかできたかもしれない。

実力はどうであれ相手は魔女。もしあの場面で戦いになっていた場合、全滅もあり得た。

「いいのか?同胞なんだろ」

「あちら側についた以上…同胞だとしても容赦しない」

…彼女はそういうと凄惨な笑みを浮かべた。

彼女の眼光には憎悪と憤怒、そして狂気が宿っている。

いつみても男はこの表情に寒気を覚える。

「それなら安心だ」

「…ここまで連れてきてくれたことに多少は感謝してる。最後まできっちり仕事はさせてもらうわ」

思いがけない言葉に男は驚いていた。

「へへ…魔女に感謝っていうのも悪かねえな」

魔女の表情はうかがい知ることはできないが、男は少しだけ満たされた気がした。


この魔女と出会ったのは一年前の季節外れの雪の日だ。

もともと彼らは、北の地で傭兵団まがいのことをしていた。

一年前のあの日、付近の住民が誰も近づかないとされる雪山の警備を任された。

聞けばその山は年中雪に覆われているという。

事実夏だというのに山頂付近にはまだ雪が残っている。

その任にはリョカの傭兵団のほかに、近場の傭兵団が警備という名目で狩りだされていた。

命令はその地から出ようとするものの排除。

不思議なことにそれが何の目的で誰が、どうして行われたのかだれも知らないという。

金の支払いは悪くなく、知っている傭兵団も参加するという。

いぶかしみながらもリョカは理由を聞かずその命令を受け入れた。

平原に一人の女性が倒れていた。

「…追手…か…。

リョカたちが近づくと女はよろめきながら立ち上がった。

女は満身創痍。服にこびりついた血の量から、相当弱っているのがわかった。

ただその姿とは対照的に、その瞳にはぎらりとした光が宿っている。

「…一人でも多く道連れにしてあげる」

彼女の声はその容貌と相まって

仲間たちが恐れおののく中、重傷を負いながらも立ち上がり、牙を自身に向けるさまに

リョカは心の底から美しいと思った。

自分の女にしたいとかは思ったことがないといえば嘘になる。

ただ、彼女は手を出してはならないような気高さがあった。

ただ、部下の中にはちょっかいを出して痛い目にあった人間がいるという。

さらに魔女という存在の不気味さも手伝って、

気づいたときには、盗賊団の中で彼ひとりしか声をかける人間はいなくなっていた。

怖いもの知らずとか、物好きとかさんざん部下に言われたが、とくに気に留めなかった。

「借りは返したわ。私は行くべき場所がある」

彼女を拾ってから半年後、その言葉はあまりに唐突だった。

盗賊として数回の襲撃を成功させた後、彼女は突然盗賊団から抜けようとした。

「どこへ行こうってんだい?」

リョカの問いかけにその魔女は少し考えた後、その言葉を口にした。

「南のマールス騎士団領首都フゲンガルデン」

魔女から聞かされた意外な言葉にリョカは驚いていた。

「理由は…聞いてもいいのか」

「私なりのけじめね…」

魔女の言葉には強い意志のようなものが感じられた。

短いつきあいだったが、止めても無駄であろうことは理解できた。

盗賊団の面々に南にいかないかと切り出すと

南方へのあこがれも手伝い、盗賊団の面々は皆喜んでついてきてくれた。

そうして現在に至るというわけだ。


「頼んだ」

リョカはそう言い残して部屋を去ろうとする。

「…それと盗賊行為も今回を最後にしなさい。向いてないわよ、あなたたち」

かけられた意外な言葉にリョカは少し驚いた。

魔女は相変わらず薬の調合を行っている。

「おや、心配してくれるのかい」

「…知ってる顔が捕まるのは寝覚めが悪いのよ」

魔女は振り替えるそぶりをしなかった。

「そうか。考えておく」

リョカは魔女の部屋を後にした。


陸路は独立騎士団と地元の騎士団が協力し、網の目状に配置され、徐々に狭まりつつある。

事実すでに一名と連絡が取れなくなっている。

蛇のサイラム。今更ながら対峙し仲間を引き渡した男がその名前であるということを知る。

一週間前にあの男を殺しておくべきだったと今更ながら後悔していた。

独立騎士団の展開は見事といっても過言ではなく、交通の要所に網の目のように張り巡らされている。

かといって慣れない土地で長居することはできるだけ避けたい。

騎士団領を独立騎士団と遭遇することなく抜けるには海路しかない。海路を進むには船がいる。

ただそれには相応の金が必要だった。


手持ちの金では盗賊団すべての人間を海路で移動させることは困難。

まして盗んだ品物を運び出すとなると、正規のルートは使えない。

マールス騎士団領内で二回ほど押し入りに入るものの、

富豪であるという情報をもとに、騎士団領に二度ほど押し入りを繰り返すも、家にはそれほど現金はなく、

二件目の押し入りの際に、めぼしい調度品を持てるだけ持って出てきてしまった。

リョカは制止はしたものの、慣れない異国の地からくるストレスや手持ちの金貨も底をつく不安から盗みに歯止めが効かなかった。

盗んできた品物に足をすくわれるなど冗談にもならない。

このフゲンガルデンのどこかに隠しておくという案も出たが、土地勘がない以上そんな危険な真似はできない。

なにより盗賊団内での反対が根強かった。

命令を無視して振り切り盗んだ品を、この騎士団領で換金しようとした部下も行方がしれない。

騎士団の包囲網の展開が著しく早いのも気になった。

自分たちの潜伏している宿もばれるのも時間の問題かもしれない。

リョカは自分たちを取り巻く環境が刻々と悪くなっていくのを感じていた。


現金がほしい。

騎士団領内はメルカ金貨が主流だ。

教会が発行している通貨でこの南の土地ではもっとも流通が盛んな通貨でもある。

その通貨ならば大概の取引に使えるし、何より足がつかない。

相方の魔女は睡眠魔法を使うことは可能だといった。

騎士団領まで行ってみたいという彼女の提案に乗ったのは自身だ。

リョカは頭を振りかぶり、魔女のいる部屋の前に立つ。

「入るぞ」

男はドアをノックし、部屋の中に声をかけた

「ええ」

魔女は宿の一室で薬の調合をしていた。

おそらく例の睡眠魔術に使う薬であろう。

調合はいつも仕事の三日以内に行っている。

宿の人間には相方は体が弱いので、寝込んであると伝えている。

「明日の夕刻商隊を襲う。大丈夫か?」

「わかった」

仕事の手を止めることなく、その魔女は簡潔に答える。

「先日例の騎士団の襲撃の際に二人の男と娘に会った」

ここぞとばかりに魔女に疑問をぶつけてみる。

「そう、奇遇ね。私もよ」

そっけなく魔女は答える。

「あんたの魔術を疑っているわけじゃない、疑っているわけじゃないが…」

魔女はふうとため息をつくと、手を止めて男を見やる。

「…男の一人は、異端審問官『狩人』。対魔専門のスペシャリスト。

一言でいえば私たちの天敵ってやつ。娘のほうは私の後輩。まさかこんな場所で会うなんてね」

「後輩?あんたの仲間か?」

「…落ちこぼれのね。安心して、アレでは私の術をどうにかできる力はない。

せいぜいできて私の魔術にかからないぐらいかしら」

「そうか…」

騎士団にも魔女がいることは驚きだった。

「できるだけ独立騎士団とは距離を置くことを勧めるわ」

「…もしまた出会ったなら…」

「速やかに殺すことね。落ちこぼれとはいっても魔女は魔女。大人数人がかりでも面と向かって対峙した場合倒すことは困難」

その言葉に少しだけ背筋が寒くなった。

男一人ならばどうにかできたかもしれない。

実力はどうであれ相手は魔女。もしあの場面で戦いになっていた場合、全滅もあり得た。

「いいのか?同胞なんだろ」

「あちら側についた以上…同胞だとしても容赦しない」

…彼女はそういうと凄惨な笑みを浮かべた。

彼女の眼光には憎悪と憤怒、そして狂気が宿っている。

いつみても男はこの表情に寒気を覚える。

「それなら安心だ」

「…ここまで連れてきてくれたことに多少は感謝してる。最後まできっちり仕事はさせてもらうわ」

思いがけない言葉に男は驚いていた。

「へへ…魔女に感謝っていうのも悪かねえな」

魔女の表情はうかがい知ることはできないが、男は少しだけ満たされた気がした。


この魔女と出会ったのは一年前の季節外れの雪の日だ。

もともと彼らは、北の地で傭兵団まがいのことをしていた。

一年前のあの日、付近の住民が誰も近づかないとされる雪山の警備を任された。

聞けばその山は年中雪に覆われているという。

事実夏だというのに山頂付近にはまだ雪が残っている。

その任にはリョカの傭兵団のほかに、近場の傭兵団が警備という名目で狩りだされていた。

命令はその地から出ようとするものの排除。

不思議なことにそれが何の目的で誰が、どうして行われたのかだれも知らないという。

金の支払いは悪くなく、知っている傭兵団も参加するという。

いぶかしみながらもリョカは理由を聞かずその命令を受け入れた。

平原に一人の女性が倒れていた。

「…追手…か…。

リョカたちが近づくと女はよろめきながら立ち上がった。

女は満身創痍。服にこびりついた血の量から、相当弱っているのがわかった。

ただその姿とは対照的に、その瞳にはぎらりとした光が宿っている。

「…一人でも多く道連れにしてあげる」

彼女の声はその容貌と相まって

仲間たちが恐れおののく中、重傷を負いながらも立ち上がり、牙を自身に向けるさまに

リョカは心の底から美しいと思った。

自分の女にしたいとかは思ったことがないといえば嘘になる。

ただ、彼女は手を出してはならないような気高さがあった。

ただ、部下の中にはちょっかいを出して痛い目にあった人間がいるという。

さらに魔女という存在の不気味さも手伝って、

気づいたときには、盗賊団の中で彼ひとりしか声をかける人間はいなくなっていた。

怖いもの知らずとか、物好きとかさんざん部下に言われたが、とくに気に留めなかった。

「借りは返したわ。私は行くべき場所がある」

彼女を拾ってから半年後、その言葉はあまりに唐突だった。

盗賊として数回の襲撃を成功させた後、彼女は突然盗賊団から抜けようとした。

「どこへ行こうってんだい?」

リョカの問いかけにその魔女は少し考えた後、その言葉を口にした。

「南のマールス騎士団領首都フゲンガルデン」

魔女から聞かされた意外な言葉にリョカは驚いていた。

「理由は…聞いてもいいのか」

「私なりのけじめね…」

魔女の言葉には強い意志のようなものが感じられた。

短いつきあいだったが、止めても無駄であろうことは理解できた。

盗賊団の面々に南にいかないかと切り出すと

南方へのあこがれも手伝い、盗賊団の面々は皆喜んでついてきてくれた。

そうして現在に至るというわけだ。


「頼んだ」

リョカはそう言い残して部屋を去ろうとする。

「…それと盗賊行為も今回を最後にしなさい。向いてないわよ、あなたたち」

かけられた意外な言葉にリョカは少し驚いた。

魔女は相変わらず薬の調合を行っている。

「おや、心配してくれるのかい」

「…知ってる顔が捕まるのは寝覚めが悪いのよ」

魔女は振り替えるそぶりをしなかった。

「そうか。考えておく」

リョカは魔女の部屋を後にした。


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