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夜の雫 聖都事変 序  作者: 上総海椰
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3‐5 星空

報告が終わりサイラムのいる天幕から出るころには、外はすでに暗くなりかけていた。

遠目からソーンウルヒの街灯が見える。

日は沈み、そろそろ街全体が食事の匂いで包まれるころだ。

ヴァロたちは騎士団から配られるパンと干し肉を受け取る。

本来なら割り当てられた騎士団員が特性のスープを作り、配給してくれるところだが、

担当が明日の作戦のために出払っているらしい。

ヴァロたちはせめてもの慰みに小高い丘の上から街の明かりを眺め、食事をとることにした。


「今日のは特に固いパンだな」

丘の上にあった石上に腰かけ二人は食事をとり始める。

「やっぱりスープが欲しかったね」

ヴァロの隣でフィアはそういって微笑む。

「フィアは…その大丈夫なのか?」

「何が?」

「なんか無理させてないか?」

聖堂回境師という肩書はあるが十四歳の少女であることは変わりない。

そんな少女に騎士団の集団生活を一緒にさせてしまうことに負い目はあった。

ただ今まで言い出すタイミングがなかった。

「私は大丈夫。ミランダさんも気を使ってくれるし、団員さんたちも」

ミランダはフィアのことを妹のようにかわいがってくれているし、

独立騎士団の団員達も気のいい人たちで、何かとフィアのことを気にかけてくれている。

「…それならよかった」

フィアの晴れやかな表情に胸をなでおろした。

「ところでフィアが駆けつける前に、例の魔女と少し話したんだが、あれは魔法でなく、魔術と言っていた」

「ええ。今回使われたのは睡眠魔法というより睡眠魔術といったほうが正しい」

「気になったんだが、魔術と魔法の違いってなんだ?」

ヴァロは気になった疑問をフィアにぶつけてみる。

「魔法は単独で世界に干渉するもの。この世界の何かを媒介にして作用するものはただの魔術。

動力として魔力を使うのはどちらも同じだけどあり方が全然違う」

ヴァロの表情を読み取ったのか、フィアは少し間をおいて答える。

「要は魔力を入れるものがあるか、ないかという違いだけ。

一年前のフゲンガルデン襲撃の時、町中に白い粉が町中に降ったのを覚えてる?」

ヴァロは一年前の事件を思い出していた。

あの事件の後、一夜明けて城壁内の街に雪のように積もっていた白い粉のようなものは

まるで夢のようにきれいさっぱり消え失せていた。

「魔法で作られた粉のようなものは一定の時間を置くと消えてしまうものがある。

ここからは推測。あの魔法はある薬物を使用してると推測される。

魔力に反応する薬物を調合して一定の比率で混ぜ合わせる。

多分その薬と比率はメルゴート最秘奥であり門外不出の情報。

長老卓にまで呼ばれていた彼女ならば知っていてもおかしくはないと思う」

「長老卓?」

聞きなれない言葉をヴァロは反芻する。

「メルゴートの方向性を決定づける最高意思決定機関。

そこで決められた決定はメルゴートの中では絶対なの。

言ってみれば騎士団の幹部会…円卓会議みたいなものかな」

円卓の名前を出されて、ヴァロは少しだけ納得がいった。

「睡眠魔術の媒介はは魔力を吸い取ってしまえばただの粉。

この札は魔力を吸い取る効果がある。魔力を吸ってしまえはただの粉になり効果もなくなる」

「あの札がね」

ヴァロはテントに広げてあった札を思い浮かべた。

「…魔力に反応する素材は、人の生活している場所ではほとんど手に入らない。

魔法の結社に属していない人間には、調合に使う薬物は入手困難のはず…だとしたら…」

「つまりあの睡眠魔術には回数制限があるということか」

「おそらく」

ヴァロはの製法を第三者が知って、同じ薬物を作りだしてしまうことがないことに少しだけ安堵した。

回数制限のある魔術を盗賊行為に使ってまで待っている者。

誰かを待っているというよりは何かをおびき出しているというのが正しいのかもしれない。

「…彼女は多分投げやりになっているんだと思う」

ヴァロの考え出した答えにフィアも達しているらしい。

「だとしてもあの魔女が盗賊行為に加担しているのは明らかだ。許されることじゃない」

次はお互い命がけになる。

相手はかなりの使い手である、気の迷いがあるのなら今この場で断っておかなくてはならない。

一瞬の迷いが生死を分けることもあるのだ。

「わかってる。彼女は私がなんとしてでも捕らえてみせる」

フィアの決意に満ちた表情に少しだけ安堵し、同時に不安になった。

相手は間違いなく殺すつもりで来る。そんなのを相手に捕らえるなどできるものだろうか。

「大丈夫。私も伊達に聖堂回境師の名前を背負っているわけじゃない」

フィアは微笑んで見せた。

「それに今回は私が望んだこと。私がけりをつけなきゃならない」

ヴァロはフィアの横顔からから覚悟のようなものを感じ取る。

「…わかったよ。ただしこれだけは約束してくれ。あまり無茶はするな。やばくなったら引いてくれ」

「うん。約束する」

フィアを信用していないわけではない。狩人のことといい、魔女のことといい不安材料が多い。

気休めの口約束でもないよりはましだろう。

「フィア、先にテントに戻って散らかっている札を片づけておいてくれないか?」

「ヴァロは?」

「俺は少し星を眺めてから戻るよ」


「こんばんは」

フィアが去ってからしばらくして、背後から突然聞き覚えのある声がかかる。

振り向くとウルヒが相変わらずの笑みを浮かべながら立っていた。

ヴァロは一瞥すると再び星を眺める。

「本当に脈絡もなく現れますよね。…なんとなく予想はしていましたけど」

「例の二人と話した感想は?」

どうやらこの男は川で遭遇したことも知っているらしい。

「手強いですね。」

ヴァロは振り返ることなく返事をする。

「ウルヒさんは今まで何を?」

「いやー、作戦が始まるまですることがなくてさ、暇つぶしにこの団員の弱みとかさがしていたわけだよ」

この男一日姿を見ないと思っていたらそんなことをしていたらしい。

ヴァロはげんなりとした表情になった。

「一番すごかったのは単身赴任で各地方に愛人を三人ほど…」

「それはしゃべらんでいいです」

ヴァロは思わず声を張り上げた。知らぬが仏という言葉もある。

「狩人の二人は見張らなくてもいいんですか?」

「自分より上位の狩人相手に尾行なんて、仕事以外にはごめんだね。

ただお互いプロだ。だからこそ次の行動もある程度予測がつく。今はほうっておいても問題はないよ」

「今は…ね」

ウルヒの言葉にヴァロは反応する。ウルヒは二人との対決は必至と見ているのだろう。

「あの二人の狩人の情報をおしえていただけませんか?」

「君も相当な物好きだね」

「常に最悪の想定もしておかないといけませんから」

「…本当に命をかけるほどのものかい?」

魔女の捕獲は言うまでもなく相当な危険が伴う。それは魔女との戦闘を専門としている狩人も同じなのだ。

さらにその上、現役の狩人まで出し抜かなければならないという。

「わかりません。ただ、あいつの手前ひっこめるわけにはいきません」

「そういう石頭なとこだけはギヴィアによく似てるよ」

「ウルヒさんはどうするんです?」

「…今回は乗りかかった船だ。最後までご一緒するよ。

君らにも興味があるけど、あの魔女にも少し興味がわいた。

それに現役の狩人を新入りが一人で出し抜こうなんて、考えが甘いにもほどがある」

ウルヒの言葉には説得力があった。

「すみません」

「言葉よりも報酬で頼むよ」

そういってウルヒは語り始めた。

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