表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夜の雫 聖都事変 序  作者: 上総海椰
12/24

3-3 対話

天幕に入ると、サイラムが中央のテーブルに座って何やら書類を眺めていた。

自傷した腕には包帯が巻かれている。

「こんにちは、ヴァロ君」

机の上にある書類に向けていた目をこちらに向ける。

「サイラムさん、けがのほうは大丈夫ですか」

「自傷する際に利き腕は避けたのですが…意外と不便なものだと思い知りました」

サイラムは微笑みながら、他人事のように言う。

「今そこで見かけたのは…」

「ええ。今回の一件に関して伺いたいとのことでしたので、一通り今まであったことを話しました。

ヴァロさんの気を悪くさせたのならば謝っておきます」

「かまいません。面子などより盗賊を捕まえることが優先です」

ヴァロたちが魔女を取り逃がしたことは事実であるし、

何よりサイラムの判断は盗賊を確実に捕まえるという点から見て間違っていない。

「初めまして、自分の名前はウルヒ。今回の盗賊退治に協力すべく参上しました」

ウルヒは深々と会釈し、サイラムに向き合う。

ヴァロはその姿に道化を連想した。

「私の名前はサイラムこの独立騎士団の団長を務めさせてもらってる」

サイラムは立ち上がり机越しに、手を差し出した。

サイラムの差し出してきた手をウルヒは握り返す。

「君が例の盗賊を捕縛した人間かな」

しばらく値踏みするような目でウルヒはサイラムを見つめると、ふっと笑った。

「…ご明察。できれば今回は影に徹したかったんだけど、状況が変わってね」

「まずは捕縛していただいたことに対して感謝したい。その手並み、名のある方とお見受けするが…」

「名前はウルヒ。あまり公にできる立場ではないのはわかってもらいたいね」

「ならばいない人間として対応させてもらうが、よろしいか」

「そちらのほうが自分としてもありがたい」

そういうと二人はお互いに示し合わせたかのように笑った。

その妙にテンポの良いやり取りにヴァロはある意味感心する。

「話が分かる人でよかったよ。念のためにヴァロ君連れてきたけれどその必要もなかったし」

「盗賊を捕縛できるなら、悪魔とでも手を結ぶのがモットーでね」

「ご立派」

ウルヒは薄い笑みを浮かべた。

「サイラムさんは今日の早朝の襲撃を予測していましたね」

あの場ではぶつけられなかった疑問でもある。

「ああ。最悪の事態として想定はしていた。とらえた男の特徴から判断するに

あの男は盗賊団の中でも鍵師という重要な位置にいる男だ。

相手がもしも本当に魔法というオカルト的、そして絶対的な未知の力を使えるのであれば

何としてでも取り戻そうとするだろうと考えていた。

なにせ相手は絶対的優位な立ち位置にいるわけなのだから」

「宿から野営地に変えたのも…」

「睡眠後、放火という最悪の事態を避けるためだ」

その言葉にヴァロははっとなり、いかに自身が盲目であったかを悟った。

もし仮に盗賊団が仲間を救出した後、建物に火を放たれたならば、証拠も残らない。

さらにだれも気づかず眠ったままならば全滅もありうる。

盗賊たちはその混乱に乗じて国外にたやすく逃げることもできただろう。

盗賊たちにとってはこの上ない状況だが、こちらにとっては想定しうる最悪の状況だ。

「相手は盗賊、襲撃するなら当然明け方を狙うと考えていた…結果その考えは当たっていたわけだ。

君もそうなることはわかっていたんじゃないか?」

サイラムはウルヒを見てそう言った。

「まあね」

ウルヒ顔に亀裂のような笑みが現れた。

その笑みは本物の悪魔をヴァロに連想させた。

「君はあの男が盗賊団の鍵師であることを知っていたね」

「男の歩き方、服装に違和感があった。話してみたら北方訛。

…さらに指が細くて妙なところに指だこがあったから、探ってみたら当たりだったわけさ。

行商をしている鍵師なんて珍しいからね」

ウルヒが盗賊の一味を捕えられた理由に、ヴァロは合点がいった。

同時にウルヒの洞察力の鋭さに舌を巻く。

「捕まえたにせよ、自分では処分できないから困ってたというのが本当のところなんだけど」

「全くおかげでこっちはとんだとばっちりだ」

「相手が魔術を使うことを確認できた。損害なく、それだけわかれば収穫といっていいんじゃない?」

「ものは言いようだな」

「うわ、ひどいいわれよう」

そういうウルヒの顔には悪びれたようすなどはみじんも感じられない。

「本題に移ろうか。団長さんは今後の動きをどう見ている?」

「君は…どう見る?」

ウルヒは少しの間のあと、団長の問いに応じる。

「ここ数日の間にもう一度騎士団領内で襲撃があると俺はにらんでいる」

「私もだ」

二人は納得ずくの笑みをうかべた。

既にこの場にはある意味独特な空間が作られている。

「公表はしていないが、すでに一名ほど盗賊らしき人間を拘束している。

盗品を換金しようとしたところを張り込んでいた騎士団の人間が取り押さえた」

「つまり連中は換金しなくてはならないほど困窮していると?」

ウルヒの言葉にサイラムが首肯する。

「私たちはそう見ている。騎士団領内で盗まれたものに現金は少ない」

「わからない点はもう一つある。

…連中が南方の騎士団領まで来た動機がわからないのがどうもね」

騎士団領は周囲よりも比較的裕福な場所ではあるが、東に行けば交易都市ルーラン、北を見れば聖都コーレス。

大陸でもっとも富の集まる場所が隣接している。

そこをあえて避けてまで土地勘のない騎士団領に来る理由がない。

「材料不足ですね」

「もう一息のような気がするんだけど」

サイラムは天を仰ぎ、ウルヒは顔を伏せた。

お手上げということだろうか。

ヴァロは疑問に思ったことを口にしてみることにした。

「あの…」

「なんだい?」

「自分が連中と対峙した際も動揺はしましたが、ひるむ気配は全く感じられなかった。

かといって統率がとれていないわけでもない。

あくまで…勘なのですが、連中…もともとは傭兵とかじゃないでしょうか」

ヴァロの一言にその場が静まり返る。

気まずい沈黙の中、二人の視線を受けヴァロは苦笑いを浮かべる。

「ヴァロ君…」

「多分正解」

サイラムが言い終わるのを待たずに、ウルヒがヴァロの背中を思い切りたたく。

ヴァロはいきなり叩かれて思わず咳き込んだ。

サイラムはヴァロの言葉に頭をたたいた。

「…それは考えてなかった。なるほど、元傭兵団か。

だとすれば…妙に旅慣れしてるのも、統率がとれているのも理解できる」

「ははは…逃走経路に川沿いを選んだのも実戦経験のある傭兵団だからこその発想ってわけか。

こちらの盲点だったわけだ」

「盗品をどこかに隠してほとぼりが冷めたらっていうのもあるんじゃないか?」

「ヴァロ君、自分たちの知らない土地にきて、わざわざどこかに宝を隠すと思うかい?」

「そういうこと」

宝を隠す選択がないのならば、移送手段が必要になる。

「そして、安心できる場所に移動した後、自分たちの土地勘のある場所で盗品を売りさばけばいい」

「一度に大量の品物を運べる馬車?」

「マールス騎士団の陸路封じからは逃げるのは厳しいんじゃない。

徹底してるからね。知っていれば絶対そんな無謀な冒険はしないと思う」                                                                               

「…すると海路か」

ヴァロの言葉にサイラムとウルヒが頷く。

船ならば一度に大量の荷物を運ぶことができる。

さらに騎士団領南部にある港は交易都市ルーランに近いため一日に行きかう数は相当なものだ。

商人が大量の品物を持っていても不思議には思われない。

「連中はもう一度だけ襲撃を成功させなくてはならない。理由は北に戻る資金を稼ぐために」

「失敗はできないうえに金のありそうなところというと…

場所は限られてくるよね。団長さんのことだからその辺の目星はついてるんじゃない?

…もしくは目星をつくるとか」

ウルヒの言葉にサイラムはどこか観念したように嘆息した。

「まったく、本当に油断ならない御仁だ。大きな取引がソーンウルヒの西の街で行われるという

噂は騎士団がソーンウルヒに入る前に協力者から流してもらっている。傭兵の集まりそうな場所にはこれから流すつもりだ」

その一言にヴァロは舌を巻く。

既にこの男はソーンウルヒに入る前から準備済みだったのだ。

独立騎士団の行進の前から流れている情報ならば食らいついてくる可能性は高い。

「食えない人だね」

「相手は睡眠魔術を使う。状況も見えてきた、前回とは違う。

相手は魔法をかけ終えた後に襲ってきている。

仲間がいる場所には例の魔術は使わないと考えるのが自然だろう」

「つまり一度使った後ならば魔術を再び使われる可能性は低いと」

二人は視線をフィアに向ける。

この中であの魔術を一部でも理解できているのはこの中ではフィア一人。

フィアは黙って首肯し、サイラムの推理を裏付ける。

「…次の作戦では騎士団内からおとり役の有志を募るつもりです」

多少の犠牲は承知の上だということだろう。

騎士ならば当然のことだ。

「あの…その件なのですが、私に任せていただけませんか?」

覚悟を決めた面持でフィアは声を上げた。

「作戦の決行は明後日を考えている。それまでに対応できるのかね」

「大丈夫です。私も聖堂回境師の端くれです。相手が扱う魔術がわかれば対策もあります」

フィアの言葉には妙な説得力があった。

サイラムは少し考え込んだ後、フィアの顔を見た。

「…わかった。ならばお願いしましょう」

「はい」

「失礼します。団長、そろそろ会議の時間です」

天幕の外から聞こえてきたミランダの声に、サイラムはゆっくりと席を立った。

「わかった。すぐに向かいましょう」

「…これからその件で会議がある、できれば君たちも参加してもらえますか?」

「よろこんで」

ヴァロは笑顔で言葉を返した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ