3-1 提案
「待ってたよ」
数日前にきた廃墟を訪ねると、当然のごとくそこにはウルヒがいた。
先日と変わった点があるとすればヴァロの脇にフィアがいることだ。
ウルヒの言葉が本当ならば、ウルヒは彼女に手を出す動機がない。
それにフィアは現在、聖堂回境師という立場にいる。
ウルヒが彼女に手を出す可能性は低いが、ヴァロは目の前の男を完全に信頼しきれなかった。
「あんた知ってたな。盗賊の連中が仲間を助けに来るって」
ヴァロはいらだちと一緒に疑問をぶつけた。
「まさか!君らを囮にして相手の出方を見ようとか、これっぽっちも考えてないから」
険悪な顔のヴァロに対してウルヒはいつもと変わらない笑顔でいけしゃしゃあと言い放つ。
「…」
ヴァロは嘆息して頭を抱えた。
今回どうもこの男の掌で踊らされている気がしてならない。
ただこの男に感情をぶつけるのは非常に疲れる。
「わかる?」
人を食ったような笑みとはこんな笑みのことをいうのだろうなと思いつつ、会話を続ける。
「それで、連中の逃げた先は?」
「途中から川を使って逃走したから、追跡は断念したよ。連中思いのほかやるもんだ」
やっぱりあの場にいたんかいと突っ込みたいのをかろうじてこらえた。
「ところでさ、あの魔女、メルゴートの生き残りだよね」
「…だとしたら」
ヴァロの言葉に緊張が混じる。
メルゴートの魔女には狩人に抹殺命令がだされている。
彼なら知っていても不思議ではあるまい。
「そう警戒しなくてもいい。深い意味はないよ。
俺の探してるものも彼女が持っていると思って間違いはないだろうと思ってね」
「例の詩集か」
「実のところ、その詩集はメルゴートの図書館にあったものだ。
メルゴート掃滅戦に参加した時に手に入れたものなのさ」
その言葉にヴァロはちらりとフィアの顔を見る。
フィアの顔には動揺はみられない。
どうやら彼女は掃滅戦の事実を知っているようだ。
「あの魔女の身柄は生きたまま私たちが引き取る」
「これはこれは」
ウルヒが大げさに驚いたふりをして見せる。
フィアがヴァロの前に立つ。
「私たちのことを利用したのだから当然でしょう」
「利用というのはそちらもだろう?自分だけ咎められる立場ではないよ。
そもそも自分は盗賊を捕らえて引き渡しただけなんだけど?」
見事な二枚舌である。
ヴァロ自身あの時の選択は間違いなかったと思っている。
なにしろ探していた手がかりをいきなり取引材料に出されたのだ、しかも破格の条件で。
取引に応じたことは当然ともいえよう。
ただし、心情的にはこの男の手の上で踊らされている気がして不快ではあったが。
「なら話を変えるわ。魔女の身柄はこちらでどうにかする。あなたは手を出さないでほしい。
これならどう?そちらにはデメリットはないはずよ?」
「罪を犯した魔女相手は即殺だ。まして相手はメルゴート出身者。生かしておく理由はないよ」
ウルヒの声のトーンが低くなり、瞳に冷たい光が宿る。
普段の彼を知っている人間なら、後ずさるほどのものだ。
彼の狩人としての顔なのだろう。
「ならあなたはどうやって彼女のこと…彼女の罪を証明するの?」
フィアは臆することなく彼の前に立つ。
「証明する必要はない。そもそも一般人に魔力を使ったと疑われる魔女は抹殺対象だ。
もっともそれ以前に、はぐれ魔女の時点で狩りの対象でもあるんだけどね」
表情は笑みを絶やさない。ただその笑顔の奥の瞳にはどこか値踏みしているような感じがある。
「…はぐれ魔女には…自身を弁護する権利はおろか、生きことすら許されていないのね…」
彼女は悲しそうな瞳でそうつぶやいた。
ヴァロは見るに見かねて話を切り出した。
「魔女の捕縛の件、自分からもお願いする」
ヴァロは一礼した。ウルヒは肩をすくめたそぶりを見せた。
「こちらから一つ聞かせてもらっていいかい?小さな魔女さん」
「ええ」
「身柄を引き取りたいというのは聖堂回境師の立場から?それとも君自身の立場から?」
「両方。個人的には死んでほしくない。彼女は私の知り合いでもある。
けれど彼女は罪を犯した。彼女が今までしてきた罪をはっきりさせ、償わせる」
それを聞いた後ウルヒは何がおかしいのか急に笑い出した。
「ククク…魔女が魔女に罪を問うとか…存外、面白いね君」
「それでどうするの…?」
「…いいよ。君の提案を受けよう。あの魔女の身柄は君らに引き渡すよ。
生きたままね。そのあとは煮るなり焼くなり君らの好きにすればいい」
彼ら狩人なりの魔女の扱い方なのだろう。
彼らにとって魔女は憎むべき敵であり、狩りの対象なのだ。
「頼む。こちらもそちらの要望にできるだけ添えるように動くつもりだ」
「その言葉頼りにしてるよ。じゃ、改めて取引成立だ」
差し出された右手をヴァロは握り返した。
乗せられている感じもしないもないが、今回に限りウルヒは頼りになる。
「それと今回は自分も同行させてもらう。
ヴァロはその言葉に耳を疑った。
「…裏で動くのが性に合ってるんじゃなかったのか?」
「少し気になる点があってね」
ウルヒの提案にヴァロとフィアは思わず顔を見合わせた。
「同行は別にいい。ただし、フィアには手は出すな。絶対にだ」
「りょーかい」
ウルヒは人懐っこい笑みを浮かべて同意した。




