第一章 殺戮彼女 〜tempest〜
衛兵、軍兵、部隊長と兵制階級を昇格させた私は、4年に1度行われる隊長昇格試験に申し込んだ。
受験者は1人、そう私だけだ。部隊長の階級を持つ者にはこの試験の受験権利が与えられるが、試験内容の難易度の高さから皆、受験しない。
大まかに、超大量兵器を保持し、多少体質を強化した相手7人を1日1人のペースで無力化(殺傷可)しなければない。という内容だ。部隊長と言っても所持出来る武器は限られる。武器統一国家日本が掲げる政策は国民が起こし得る人的災害を最小限にすること、勿論澱楯兵士にも当てはまる。それ故に武器と認定されるナイフ、包丁、鈍器等の使用が制限された。
これにより、調理師はその才能を最大に生かせる時代となったわけだ。
話を戻すが、部隊長が所持出来る武器は澱刀と非殺傷武器のみ。
因みに私は非殺傷武器に警棒を選んだ。
殆ど澱刀で銃や爆弾を使う相手を倒さなければならない。
7人全員無力化出来た暁には非殺傷武器の代わりに殺傷可の武器が手に入り、神ノ杯の使用も無制限となる。
戦いの殆どを神ノ杯に頼っている澱楯兵士には多少なりとも賭ける価値はあると思ってしまう。実際は地獄だ。外国戦力を想定しての試験内容だが、流石に割に合わない。そう思う部隊長が殆どなのだ。
皆は揃って私に言う。
「お前さんみたいな子供に部隊長が務まってることでさえ、驚きなのに隊長昇格試験? 有り得ない」
「例えお前が特異体質だとしても7人目には勝てない。彼女はもう20人近い部隊長を殺しているんだぞ、殺戮彼女って言う異名が付くくらい最悪の相手だ」
「7人目、あいつは人間じゃない。殺戮彼女は最後に澱刀で相手の首を切り落とすんだ。生き残ったのはたった2人だけ、お前の俊敏さでも敵わない相手なんだ」
全く酷い言われようである。
これでも既に6人は攻略完了したのだが。幼い子供、老人、採用される人材は幅広いらしいが、これは人情を捨てろという戒めのようにも感じられる。実際、確かな事は皆が恐るのは7人目、殺戮彼女と呼ばれる人物だった。
錆び付いた臭いが私の嗅覚を刺激し、時々風が地面の砂を舞い上げる。
鉄骨化したビルに地割れが酷い道路、銃痕の付いた標識に折れた信号機、場所は違えど雰囲気は同じ。戻って来たか、戦場に。
区画内で試験場所が変わるのは初めてじゃない。銃を抱えた幼い子供を無力化した時はもっとビルが少なかったはずだ。
推測からするに外国の無法地帯を試験場所としているのだろう。そうでなければ駆逐艦に乗ってここまで来る必要性がない。
まぁそんな事はどうでも良い事か。
私と殺戮彼女の未来を掛けた戦いが始まるのだ、無駄なことは考えるもんじゃない。
「試験開始まで1分前、青霞部隊長は準備を完了してください」
アナウンスが新しく備え付けられたスピーカーから響く。
「試験開始5秒前、4、3、2、1、試験を開始して下さい」
私の生命の針が動き始めた。
【所持武器:澱刀、警棒 神ノ杯所持残量:50本】