第零章 プロローグ
核兵器数個分の戦力を有した軍兵で組織された軍隊が日本に存在した。
超回復薬"神ノ杯"を始め、軍兵専用武器"雨刀"の開発が本軍隊を世界の頂点まで伸し上げたのだった。
日本政府軍隊司令部、通称"澱楯"は、国を九つに分け近代的御城を築いて天皇家の娘"蒔女"に各々を統治させた。北海道、九州は政府の直轄地となり士官学校、公共施設等で利用されることとなった。
澱楯兵は衛兵、軍兵、部兵に区分けされ、その戦力から所持出来る武器も制限された。
そして、部兵を超えた階級"No.+"、神ノ杯の恩恵を桁違いに受け、その個体で国一つ滅ぼせる程の戦力を兼ね備えた九人の隊長達が日本の秩序を維持している。
武器保有制限条約、世界が日本に課した絶対遵守の掟。
過去の交戦で3人の隊長が世界を相手に宣戦布告した。
その結果、日本を含む連合軍は快勝不穏物質は全て闇に葬られた。
以後、澱楯兵に誓約が取り付けられたのだった。
雨刀以外に殺傷武器一つの所有で合意された条約はある意味、澱楯に対する戒めでもあったのだ。
そして、日本の景気が安定期に入った頃、"奴隷狩り"という人権を無視した政策が行われ始めた。
奴隷狩り、国にその生活を賄ってもらっている貧困層の人間、罪人が年齢、性別問わず、兵士に連行される制度、近代開発が進み、北海道には学園都市が、九州には近代御城の他に棺守都市が開発された。
棺守都市は九州の北東に位置し、棺守都市の要である二つ目の近代御城"棺守城"、城から延長させた高層壁で旧市街地を囲うように建造を進めた政府は完成と同時期に人口の18%を占めていた貧困住民を標的とした狩りが始まった。
居住区を壁に囲まれた彼らに逃げ場はなく、あるのは絶望のみだった。
私も狩られた一人である。
狩られた人間の末路など目に見えていた。異議を唱えれば処刑され、御城に連行されても実験体か玩具という運命が待ち受けている。
犯され続けて生地獄を味わうか薬漬けされながらも生にしがみ付くか二つに一つ、私は貞操を守った。
私は実験体として充分過ぎる個体だった。肉体は様々な薬に耐え、逆に薬を取り込み自身の身体能力を向上させた。
実験体から試験体へと運命が変わった頃、私に名前が付けられた。
「私は香子、香子という名前である」
試験体への昇格は、ある意味自由を手にした事と同義だった。
昇格したことで教育、訓練を受ける権利を与えられ、試験体としての使命を与えられた。
それは
「多量武器を用いて、部兵階級の兵士を無力化(殺傷可)させる」
というものだった。
その対策として、教育は全般士官学校と同じものを、訓練 は銃、刀、槍、爆弾、地雷等々の使用訓練を課された。
青をモチーフにした澱楯兵とは対照的に黒をモチーフにした制服を着用し、実戦に備えて私と同じ境遇の者達と訓練を積む毎日、年に数十回の実戦、多少強化された私達と神ノ杯で強化した兵士との死闘、肉体的には劣るものの物量では圧倒していたのは事実であった。
彼らの持つ雨刀は性能上どの武器よりも優れているが、対処を間違えれば命取りになってしまう。
そんな危険な賭け勝負をする理由は、隊長格への昇格という誘惑があるからである。
No.+、最強地位の称号を持つ兵士はこの死闘を勝ち抜いた者にしか与えられない。