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6.戦いと成長1

 俺はラフォリスの西門を越えた先にある森へと来ていた。

 当然、モンスターと戦うためだ。

 防具は金銭的な理由から初期のままだが、武器はリーズの店で購入したし、ここに来るまでにスキルもさくっと修得して、やる気は十分。少しでも早く新武器とスキルを試したくてうずうずしている。

 

 『危険察知』、『パリング』、『ブロック』か。


 修得したスキルはこの3つだけ。

 とはいっても、そもそもスキルは最大5つまでしか覚えることはできず、さらにはその中から3つしかセット――装備することができないので、セットできる限界までスキルを修得したことになる。

 状況に応じてステータス画面でセットするスキルを変更できる仕様ならば、しっかり5つ修得してきただろうが、生憎それはできないらしい。仮にスキルを上限である5つまで覚えていたとしても、セットするスキルの入れ替えにはスキル販売所まで行かなければならないとのことだ。

 つまり、一度街を出ればセットしている3つのスキルでやりくりしなければならないことになる。   

 残りの2枠は、戦闘もしたいけど生産もしたいという我が侭さんや、ソロとパーティーで戦闘スタイルを切り替えたいというイケメンなどのために設けられた枠なのだろう。将来的には俺も後者のタイプになる予定だが、少なくとも現状で予備枠の2つを埋める必要はないと判断した。


 それにしても、我ながら偏ったチョイスだな。

 個性が出てるとも言い換えれるが……。


 俺の修得したスキルに攻撃系のスキルは一つもない。

 別れ際に聞いたリーズの格言『これといったものがないなら、初めてのスキル修得は直感で選ぶべし』という言葉に従った結果だ。

 剣道や弓道など武道の心得があるなら、それに関わるスキルを修得するのが強くなるための近道らしいが、俺にはそれがない。


 いや、でもあれなら確かにリーズの言うことも納得だよな。


 スキル販売所に到着した当初は、リーズの教えなど何処吹く風で、じっくりスキルを一つ一つ詳細説明から吟味するつもりで満々だったのだが、俺の考えが甘かった。

 とにかくスキルの数が多かった。膨大すぎた。

 スキル販売所にはスキルのカタログが用意されており、そこから修得したいスキルを選んでリストクリスタルバンドに念じるという、なんとも前世代的かつ次世代的なものだったわけだが、そのカタログの分厚さといったらもう。加えて、そんな辞書のような本が、生産スキル編と戦闘スキル編の2冊並んでいたのだ。俺はそこでリーズ先生の教えの必要性を理解したのである。

 修得したスキルが自分に合わなければ、スキル販売所で削除して貰えばいいだけだし、使い勝手など修得してみなければわからないことも多いはずだ。

 

 結局、現段階では直感くらいしか頼るものがないのも事実だからな。

 精々、試行錯誤してみるさ。


 新たな武器『藤娘ふじむすめ』を手に森を進む。

 この辺りにはレベル3~5のゴブリンが生息していると、ラフォリスで見た案内図に書かれていた。

 現在レベル3の俺にとって適正な狩場なのかは正直わからないが、前に戦ったスライムでは相手として面白くない。

 どうせ死んでもラフォリスにある『魂の安息所』とかいう場所で復活するだけだ。自殺と寿命を除けば、アトフでは本当の意味での死というものは存在しないなんてことは常識だし、そこは何度もマニュアルで確認している。

 レベル10以上になると手数料が必要になってくるらしいが、今の俺には関係ない。


 せっかくこんな環境にいるんだ。

 無茶してなんぼだろ。

 いざ、ゴブリン狩り!!



 ラフォリス西の森といっても、俺が以前通ったラフォリス南の森と繋がっているため、森の中の雰囲気はまったく変わらない。

 それを証明するかのように、南の森に生息していたのと同種のスライムが所々で蠢いている。

 スライムから襲ってくるのなら相手するのもやぶさかではないが、今回はスライムを狩りにきたわけではないので無視だ。


 さらに森を進んでいくと、スライムの姿を見ることも少なくなってきた。

 そろそろゴブリンの生息地域かと、気を引き締めなおし目を凝らして周囲に目を向ける。


 …………。

 心地よい緊張感。

 これがたまらない。

 速度を緩めて慎重に足を進める。

 

 ――見つけたっ!

 ゴブリンだ!!


 草木の間から見える薄い緑色をした生命体。二足歩行で猫背になりながら、よたよたと俺の前方を横切るように歩いている。

 背丈は俺の胸元にも届かないくらいだろう。もしかすると、腰にも満たないかもしれない。


 数は1匹。

 こちらには気付いていないな。

  

 ゴブリンの手には何も握られていない。

 武器を隠し持っていることもなさそうだ。

 

 だって、全裸だもん。

 うーん。毛皮で覆われてるわけでもないし、堂々として格好いいじゃないか……。


 性別の概念があるとは言い切れないが、俺の目に映るゴブリンはオスの象徴を持っている。

 衣類を着る文化や羞恥心という感情を持っていないとわかっていても、思わずその生き様には見惚れてしまう。


 ――って、見惚れてる場合じゃないな。

 ゴブリン狩りといこうじゃないか。


 右手に握る扇子『藤娘』を親指で一間開き、残りを左手でゆっくりと開いていく。


 扇子『藤娘』。

 さっそく使わせてもらうぞ、リーズ。 


 本来、扇子というのは開けば扇面に山と谷ができるのが一般的だが、藤娘は一本一本の骨が平たく横に広くなっているため、開いた際も扇面が平らになるよう工夫されている。

 扇形を成す先端部分には刃が備わり、扇子を開いて使えば刃物としてしっかり機能するはずだ。


 少しずつ狭まる俺とゴブリンの距離。

 近いけど……遠い。そんな乙女心があったりなかったり。

 可能な限り足音を抑えて近づいていたつもりだが、もう少しというところでゴブリンがこちらに振り返る。


 ――っち、気付かれたか!!

 だが、気付くのが少し遅かったな!

 先手必勝!!

 

 ゴブリンは背後の物音に反応して振り向いただけだ。俺を敵と完全に認識するまでに若干のロスがある。

 この僅かな利を生かせるかは俺次第。気付かれたことにも構わず、俺は距離を詰め、藤娘をゴブリンの首元目掛け真っ直ぐ横に振り切った。


「ギャ……ッ!!」


 悲鳴は一瞬。

 首を切断したため、それ以上ゴブリンが声を上げることはなかった。

 

 スライムのようにほぼ無反応な相手とは違い、ゴブリンにはしっかりとしたリアクションがある。

 右手に残る肉を断った感触もはっきりと残っており、俺の中に狩りをしているという実感が沸いてくる。


 俺は仕留めたゴブリンの体に触れ素材の回収を念じた。

 たったそれだけで、ゴブリンの死骸は消滅する。


 戦利品の回収が楽で助かる。

 解体作業は苦手じゃないが、手間がかかるからな。

 1匹狩るたびに皮やら肉やら剥ぎ取ってたら面倒でかなわん。

 ……さあ、ゴブリンはなにをくれるのかなー。

 取得品の確認っと。


  

 【素材・その他】

 ・グリーンゴブリンの骨:ラフォリス近郊に生息するグリーンゴブリンの骨。

 質:F【級】  重さ:0.1【kg】  耐久度:60 / 100  分類:素材


 

 骨か。

 んー、食べることはできなさそうだな。残念。


 ……待てよ。

 リストクリスタルバンドを通さないで、モンスターをその場で調理したらどうなるんだ?


 リストクリスタルバンドを使ってインベントリに収納すると、0.1キログラムの『グリーンゴブリンの骨』しか残らないが、ゴブリンの体を構成する物質がそれだけってことはありえない。

 次にゴブリンを倒したら試してみよう。

 

 そういや、スキルも使ってないな。

 すっかり忘れてたぞ。

 使わないとスキルレベルが上がらなさそうだし積極的に使ってくか。

 んじゃ、さっそく次のゴブリンを――って、ちょうどいいところに!!


 俺の視界に入ってくる新しいゴブリン。

 縄張りの巡回でもしているのかもしれない。

 数も1匹だし、スキルの実験台に貢献してもらおう。

 

 先ほどのように、奇襲で一撃で終わらせてはスキルを使う暇がない。

 なにせ、俺のスキルは3分の2が防御系のスキルなのだ。残り3分の1に該当する『危険察知』にいたってはアクティブスキルですらない。

 俺はあえてゴブリンに声をかける。


「こんにちはー。今日もいい天気ですね」


 ゴブリンが俺を見る。

 どうやら気づいてもらえたようだ。

 返事は貰えなかったが、ゴブリンの気分は嵐といったところか。俺を不機嫌そうに睨んで威嚇してくる。

 

「ほれ、はよこい」


 手招きで挑発してやると、ゴブリンが勢いよくこちら側へと走りだした。

 俺はゴブリンとの距離を慎重に測りながら、一間開きした藤娘を構える。


 スライムとは移動速度が段違いだ。

 あっという間に俺とゴブリンの距離は縮まり、互いの攻撃の間合いが触れるのにそう時間はかからないだろう。

 だというのに、ゴブリンの走る足は止まらない。

 

 体当たりか。


 武器を持たないゴブリンの攻撃など限られているため、体当たりなど当然予測済みである。

 力の流れが複雑である体当たりには、『パリング』という受け流し行為は難しそうだ。

 『ブロック』で堅実に防御するのが得策だろう。

 藤娘を斜めに振りかぶることで一気に開き、その扇面をゴブリンに向けて備える。


「ブロック!」


 藤娘の扇面を意識して俺は叫んだ。

 『ブロック』のスキルは、身体や装備品を魔力でコーティングして防御を高めるものらしい。

 使い方がこれで正しいかなど知ったことではない。物は試しだ。


 ドンッという鈍い音とともに、ゴブリンはまるで壁にでもぶつかったかのように弾き飛ばされた。

 ブロックの効果なのか、それともゴブリンが弱いのか。俺には大した衝撃もなかったように感じられた。

 

 ステータス確認。



 【ステータス】

 名前:萩原陸

 年齢:19

 性別:男


 レベル:3

 HP:180 / 180

 MP:148 / 150  


 

 HPの減りはないな。

 んで、MPが減ってるってことはブロックは発動したってことだな。

 無事成功したか。

 

 ラフォリスを出発したときには自然回復でMPは全快していた。

 MPが全快してから今までで、MPを消費するような行動といえば、たった今使用したスキル、ブロックくらいだ。


 こりゃMP管理はしっかりしないとまずいかもしれんな。

 防御スキルを発動したつもりが、MP不足で発動できなかったなんて洒落にならないぞ。

 もうちょい回数をこなして体に覚えさせんとな。


 ……と、いうわけでだ。

 もうしばらく付き合ってくれよ、ゴブリンちゃん。


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