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8.ネル洞窟2

若干やりすぎた感はありますが、今回の話までで妹関係の書きたかったことは大体書けましたので、少しだけ妹成分は控えめになる予定です。

 ネル洞窟の広間に俺達3人はいる。

 宝箱を回収するや四方から現れたスケルトン達。3体は開幕にディズが大技で仕留めたので、残りは9体。

 それに対して柚奈が発動したのは『クリエイト・ゴーレム』というスキルだった。


「ディズ、これから何が始まるんだ……?」

「私にだってわからないわよ。柚奈が任せてって言うんだから任せてみましょ」


 ダンジョン内でここまで取り乱したのは初めてのことである。柚奈が俺とそっくりなゴーレムを召喚したから、という理由なのは不服以外の何者でもないが。

 そんな俺とは違い、ディズは落ち着きを取り戻しているように見える。これが冒険者としての熟練の違いというやつだろうか。


「安心して下さい、兄さん。私の7人の兄さん(ファントムクライム)はこの程度のモンスターに引けを取りません!」


 そのファントムクライムだとかなんとかのせいで、こんなに動揺してるんだが……。


 引けを取らないとかそういう問題ではなく、ぼんやりとこちらを見ている7体のゴーレムは、ただただ気味が悪い。

 俺の妹はなんて恐ろしいものを生み出してしまったのだろうか。

 これが罪の意識に苛まれたゆえの結果だというなら、あまりにも残酷すぎる。


「…………なあ、ディズ。ゴーレムってのは武器が使えるのか?」

「無理ね。攻撃、防御、待機の命令しか受け付けないから、武器を手に取ることができないもの。ゴーレムも一応使い魔に分類されるから、武器さえ持たせられれば不可能ではないと思うけど」

「じゃあ、柚奈は何をしてるんだ?」

「私が聞きたいくらいよ。凄く興味があるわ」


 俺とディズが見つめる中、柚奈が、大剣、大盾、ダガー、弓といった様々な武器をインベントリから実体化し、ゴーレムの足元に放り投げていく。

 ただ、肝心のゴーレム達は地面に転がった武器に見向きもしない。瞬きもせず、ひたすらこちらを見ているだけだ。


「柚奈、さすがにもう時間がないぞ」


 スケルトン達がジワジワと近づいてきている。

 スケルトンナイトはともかく、スケルトンアーチャーは間合いが広いので、矢がいつ飛んできてもおかしくない。


「仕上げです! ファントムクライム、力を貸してください――コマンド!!」


 柚奈の叫びと同時に、ゴーレム7体が動き出す。

 先程柚奈が放り投げた足元の武器を手に取り、それを構える姿は、もはや人間としか思えない。

 

「――コマンドだと!?」

「はい、私と兄さんは一心同体ですから」

「いやいや、そうじゃないだろ! オリジナルスキルってのは絶対に重複しないんじゃないのか!?」


 アトフに住む全ての人間が、例外なく最初から覚えているというオリジナルスキル。同じものは二つとないはず。


「陸の『コマンド:アイテム』とは別物よ、柚奈のは。だって、ゴーレムはアイテムじゃないもの。そうでしょ? 柚奈」

「うっ…………そうです。残念ながら私のは『コマンド:マジック』です……」


 ディズに看破され、柚奈が項垂れる。

 ここまで似たオリジナルスキルを覚えているというのに、そんなに不服なのだろうか。

 俺としては、『お兄ちゃんと一緒がいい!』みたいな感覚でオリジナルスキルまで一緒にされては、たまったものではない。


 ……それにしても、なんで気付かなかったんだろうな。

 ゴーレムがアイテムじゃないってのもそうだけど、ゴーレムに触れずにスキルを発動してたことだってそうだ。


 落ち着いて考えれば俺の『コマンド:アイテム』と異なる点は他にもあるのではないか。

 それなのに、柚奈が俺とまったく同じオリジナルスキルを覚えているなどと勘違いしてしまうとは。


 とまあ、それはいいんだ……


「――よっ!! とりあえずさ、スケルトンを片付けようぜ? さっきか、ら!! 矢がね、飛んできてるんですよ」


 呑気にお喋りしてるようだけど、実のところ俺は必死だ。

 扇子の藤娘で、飛んでくる矢をペチペチと打ち落としている。


「そうね、フレイム・プロミネンスの詠唱も丁度終わったし、もういっちょ食らわしてあげようかしら」

「私も準備万全です!」


 ディズと柚奈だけでいいというのに、7人のゴーレムも『いつでもいける』と訴えるような目つきで俺を見ながら頷く。


「……よ、よし! 行くか!!」


 ディズ、柚奈、そして8人の俺による、壮絶なスケルトン狩りが幕を開けた。




 結論から言おう。

 柚奈のゴーレムは滅茶苦茶強かった。

 

「兄さん、そこです!!」


 ここで使われている『兄さん』とは俺のことではなくゴーレムのことである。

 紛らわしすぎて、戦闘中俺は何度も騙された。


「今!! 兄さん!!」


 ゴーレムのことである。


「守ってください、兄さん!!」


 ゴーレムのことである。


「チャンスです!! 兄さん、一気に攻めましょう!!」


 以下略。


 鈍く単純な動きしかできないというゴーレムが、柚奈のコマンドにより、多彩な動きをみせる。

 スケルトンの矢や剣を武器で防御するのは当たり前。軽快なステップで攻撃を回避するだけでなく、飛来する矢を手掴みで止めた時は感動すら覚えた。

 7体のゴーレムはそれぞれ違う武器を持ち、特徴を生かした戦い方をしている。連携だってばっちりである。


 うーむ、なんというハイスペック。

 俺にも一体わけて欲しい。

 あ、外見はチェンジで。


「駄目、兄さん危ない!!」


 ゴーレムを庇い、自ら傷つく柚奈。

 その行動はどうなんだ。

 それ兄さんちゃう、ゴーレムや。


「――って、大丈夫か!?」


 残りスケルトンは2体。

 柚奈が『兄さんとディズさんは見ていて下さい』と言うので、俺とディズはスケルトンを3体倒した後、柚奈とゴーレム達の戦いを傍観していた。

 圧倒的な力でスケルトンを蹂躙していく柚奈に安心しきっていたのだが、まさかゴーレムを庇うような行動にでるとは。


「はい、かすり傷です。兄さんが心配してくれたおかげで、もうすっかり治りました」

「どんだけだよ……まったく、無茶はやめてくれ」

「ふふ、ありがとうございます」


 もちろん俺が心配したから傷が治ったということはなく、柚奈の手の平はうっすらと赤く滲んでいる。

 ただ、本当に傷は浅いようで回復薬を飲めば数秒で完治しそうな程度である。

 

「――ブレイズショット!!」


 ディズがスケルトンを一体吹き飛ばす。

 残り一体は7人の俺によって集中砲火を受けているので、数秒もすれば全てのスケルトンが片付くことになるのだろう。


「ったく、ゴーレムを庇うってなに考えてるのよ! ほら、傷、見せなさい」


 ディズが周囲を見渡してから走り寄ってくる。

 こんな時でも警戒を怠らないところはさすがだ。


「いえ、大丈夫です。ヒールを覚えてるので」

 

 柚奈が傷口にもう片方の手を当て、スキルを発動した。

 淡い光が傷口に収束し、傷口を塞いでいく。


「――ちょっと、MP大丈夫なの? ゴーレム生成とコマンドで大分やられてるでしょ」

「…………そうですね、ちょっと見栄を張ってしまったかもしれません」

「もう……ほら、魔力回復薬よ。飲んでおきなさい」

「……すみません、いただきますね」


 ディズが回復薬らしきアイテムを柚奈に手渡し、柚奈がそれを飲む。


 7体のゴーレムを召喚し同時に操っていたのだ。柚奈のMP消費量は相当なはず。

 それに思い至らず、『ヒールすげー』などと心の内ではしゃいでいた自分が心底恥ずかしい。


「すまん、柚奈。MPにまで気が回ってなかった」

「いえ、謝らないといけないのは私の方です。ごめんなさい、ご迷惑をかけてしまいました」

「いや、俺だって――」


 俺が私がと互いに謝る俺と柚奈。

 負のスパイラルはなかなか止まらない。


「――はいはい、この程度でそんなに気を使ってたら、この先やってらんないわよ。今後はもっと迷惑をかけるような場面も出てくるだろうし、今は勝利を喜びましょ」


 ぱんぱんと手を叩き、ディズが俺と柚奈の謝罪合戦を制止する。


「……お? ディズ、ってことは……?」


 『この先』、『今後』というディズの言葉の真意。それは、柚奈をパーティーに迎え入れようということだろう。

 

「ま、そういうこと。これからよろしくね、柚奈」


 ディズが柚奈に手を差し伸べ、「よろしくお願いします」と柚奈が握り返す。

 二人の表情は柔らかく、繋がれた手は固い。

 今の二人からは不思議と朝のような危なっかしさは感じない。


 なんだか俺一人だけ寂しかったので、二人の繋いだ手に、俺も自分の手を上から重ねておいた。



 

 正式に3人で狩りを始めてからというもの、俺達のネル洞窟探索はそれはそれは順調だった。

 危険察知で罠は避けて進めるし、モンスターとの戦闘にしても戦略の幅が広がったため安定度が段違いである。

 ディズの高火力っぷりは相変わらずだし、俺のタンクっぷりも我ながらなかなか好調。

 敵の戦力に応じて、柚奈がゴーレムの量を調整できるというのも忘れちゃいけない。MP消費量が多いということと、ゴーレム自体のステータスは低いという、二つの弱点はあるが、対雑魚モンスターの性能は絶大だ。



「こりゃまた随分、綺麗なところに出たな」


 景色は一変し、澄んだ小川の流れる広い空洞に出た。

 壁に埋まる謎の鉱石が青く光り、辺りを照らしている。


「丁度いいわね、今日はここで休みましょ」


 そそくさと小川の近くまでディズが歩いていく。


「え、ここで寝るってことか?」

「そうよ、今何時だと思ってるのよ。このダンジョンはワープゲートもないようだし、今日帰るのは諦めた方がいいわ」

「そうですね、私もそれがいいと思います」


 コンソールを開き、時刻を確認してみると20時を過ぎている。

 帰り道も罠を迂回して戻らなければならないことを考えると、少々厳しい時間かもしれない。

 ダンジョン探索が楽しすぎて時間の経過などまったく考慮していなかった。


 周りには、ぽつぽつと他のパーティーや、そのパーティーのものとみられるテントが張られている。

 どうやら、ここで夜を過ごすパーティーは俺らだけではないらしい。


「見張りは順番にやっていきましょ。罠も仕掛けておくし、ここら辺はモンスターの気配もないから大丈夫だとは思うけどね」


 ディズがそう言いながらインベントリから、テントやらなにやら色んなアイテムを出していく。

 俺も同じような道具は一式持ってきてはいるが、このぶんなら俺の出番はなさそうだ。


 ――いや、テントは出しとくか。


「こっちにもテントを建てておくな。一つじゃなにかと不便だろ」

「ありがと。じゃあ、そっちは陸用ね」


 俺は気遣いができる男。女性陣への配慮は忘れない。

 というか、テント一つを男女共用とするのは俺的にも気まずすぎる。




「――さて、そろそろ寝るか」


 野営の準備を整え、建ち並ぶ二つのテントの前で食事を楽しんだ俺達。

 もう少し話していたい気もするが、明日のことを考えると、そろそろ寝た方がいいだろう。


「んじゃ、手筈通り最初は俺が見張るから、二人は先に休んでてくれ」


 俺はこのまましばらく居残りである。

 俺、ディズ、柚奈の順番で見張りを交代していく予定となっている。


「はい、それでは先に失礼しますね。兄さん、ディズさん、おやすみなさい」


 そう言い残して、柚奈はなぜか俺用のテントの方へ歩き出した。

 テントは二つ。女性陣はディズの用意した広いテントを使うという話だったはずだが。


「なに言ってるの、柚奈はこっちよ」

「え? ちょ、ちょっと待ってください! 私は――」

「駄目なものは駄目! 妹とはいえ女の子なんだから。ほら、こっちに来なさい!」


 ディズに手首を掴まれ、柚奈がディズのテントへと強制連行されていく。

 言うことのきかない子供と、それを引っ張っていく母のようだ。


「ち、違うんですディズさん! 私はあちらのテントに行かなければならないんです!」

「あのねぇ……柚奈は少し陸に依存しすぎていると思うの。あなたのは、兄妹だからとか、久し振りに再会したからとか、そういうレベルじゃないのよ」


 よく言ったディズ。

 これが選挙公約なら、俺の票はお前のものだ。


「誤解です! これには深い訳が!!」

「へぇ、どういう訳なの?」

「え、えっと、その…………。そう! 前世の話になるんですが――」

「あら、それは長くなりそうね。じっくり聞いてあげるから、まずはテントに入りましょうか」


 咄嗟の言い訳も虚しく、柚奈がテントに引きずり込まれていく。


「――に、兄さん!! 助けて下さい!!」


 ついに自力での説得は不可能だと理解したのか、柚奈が俺に助けを求める。

 既に半身をテントにのまれ、絶望的な状況である。


 すまん、柚奈……。


 ここで手を差し伸ばしてはいけない。

 柚奈の為を思ってのことだ。


「ほら、大人しくこっちに来るの! 私がしっかりと更正してあげるから覚悟しなさい!!」


 やがて柚奈の姿は完全にテントの中に消えてしまった。


「柚奈、強く生きるんだぞ……」


 こうして俺達のダンジョン探索1日目は無事終了した。

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