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6.話し合い

 俺達は今、ラフォリス大通りのちょっと高級そうなカフェにきている。

 午前9時半という開店間際を狙ったことが功を奏したのか、店内奥の角席という俺的ベストボジションの獲得に成功した。



「……あっ、美味しい」


 正面に座るディズが口にケーキを運び、小さく呟く。

 

 よかった、この様子なら満足してもらえそうだな。


 ディズには昨日のお詫びにと、美味しいものをご馳走する約束をしていたので、ここは俺の奢りだ。もちろん”お詫び”というのは、柚奈が倒れた際に色々と面倒をかけてしまったことに対してである。

 リンククリスタルでケーキの美味しい店を調べたはいいが、ディズに満足してもらえなければ意味はないので、内心ハラハラしていた。超激辛!! って感じの髪色をしているくせに、ディズはかなりの甘党で、味にもうるさいのだ。



「――それで、最近、陸のスキルレベルが上がらないって話だったわね」

「ああ、6日前から変わってないんだよな」


 一人で悩んでいるよりディズに相談した方がいいだろうと、俺は自身のステータスの伸び悩みをディズに相談していた。



 【ステータス】

 レベル:31

 HP:2420 / 2420

 MP:1690 / 1690  

 

 【スキル】

 【オリジナルスキル】

 ・コマンド:アイテム

 【修得スキル】3 / 5

 ・危険察知 Lv.17

 ・パリング Lv.18

 ・ブロック Lv.16



 これが問題のステータス。


 肉体のレベルは、経験値さえ積み重ねれば上がっていく仕様のため特に悩むこともないのだが、スキルレベルに関しては違う。

 スキルレベルの上昇は、もはや理屈がどうとかそんなものじゃない。一気に3,4上がったりなんてこともあれば、急に上がらなくなったり。

 リンククリスタルの雑談チャットで聞いた話では、アトフに移住して1日で20持ちになったとかいう人物もいるらしい。なんでも、現実世界で弓の名手だったとからしく、アトフで弓関係のスキルを取得し、数時間で20持ちの仲間入りしたとか。

 とはいっても、上手くスキルを使いこなせれば、勝手にスキルレベルの方からついてくるということだけでもないはず。肉体を強化するパッシブスキルのように、上手く使えるという条件がそもそも成り立たないようなものだってあるし、そんなに単純なものではないのだろう。


「うーん、そろそろ狩場を変えた方がいいかもしれないわね……」

「狩場を? ラフォリス地下迷宮じゃ駄目なのか? まだまだ先に行けそうな気がするけどな」


 現在、俺とディズが狩場にしているラフォリス地下迷宮は12層まで攻略済みだ。

 ヒーラーなしの二人パーティーだというのに、大した苦戦もなく順調に進んでいる。

 ここまできたら、どこまでいけるか試してみたいと意気込んでいたのだが、ディズにはなにか考えがあるらしい。


「その『まだまだ行けそう』ってのが駄目なのよ。余裕がありすぎるってことだもの。私達の実力と狩場が見合ってないって言ってるようなものじゃない」

「だからこそ先を目指せばいいんじゃないのか? 先に行けばモンスターだって強くなるだろ」

「んー……ネタバラシになっちゃうんだけど、いいかしら?」

「ああ、構わないぞ」


 難しそうな顔をするディズに俺は説明を求める。

 12層までは簡単すぎて面白味に欠けていたことは認めよう。しかし、もう少し進めば面白くなりそうなことも事実。

 きっと、20層、30層になればスリル満点の狩場になるはず。俺はそう信じて先に進むことを楽しみにしていたのだ。

 そんな俺から玩具を取り上げようとはどういう了見なのか。


「あのね――」


 紅茶の入ったカップをテーブルに置き、ディズは深刻そうに話す。


「――ラフォリス地下迷宮は20層までしかないのよ」


 …………。


「え、マジで?」

「ええ、マジよ」


「え、どうして?」

「どうしてもよ。ちなみに、20層は入り口に戻れるワープゲートとラフォリス誕生の歴史が書かれた石版があるだけ。だから実質19層の門番が最後のボスってことになるわね」

「……そいつは強いのか?」

「私達なら余裕でしょうね」


 …………な、なんということだ。

 酷いネタバレを知ってしまったぞ。

 ――いや、でもこれは知ってよかった類のネタバレか。


 逆に知らないで20層に足を踏み入れていたら俺の精神が危なかった。フラストレーションゲージが80%は溜まっていたかもしれない。

 ディズには感謝すべきだろう。


「ディズ、ありがとう。おかげで俺の心が救われた」

「私こそ言うのが遅れてごめんなさい。ずっと言おうか迷ってたんだけど、楽しそうに地下迷宮を進む陸を見てたら言い出せなかったのよ」

「ディズが謝る必要はないさ」


 ともあれ、これでラフォリス地下迷宮を狩場にするという選択肢は消滅した。

 弱いモンスターばかり相手していても、経験値は期待できない。それにスキルレベル的にも、何か成長に役立つきっかけのようなものが欲しいところなのでなおさらである。ディズもそれを思ったからこそ、狩場を変えようと言い出したのだろう。


 ならばどうするか。

 これに関しては俺に一つの案があった。

 

「じゃあさ、最近南東のほうで発見されたっていう『ネル洞窟』に行ってみないか?」


 ラフォリス祭目当てでやってきた冒険者が、フィールドを散策中偶然見つけたとかで、今話題になっているダンジョンである。

 アトフでは、突如、フィールドにダンジョンが出現することがあるらしく、こうして新しいダンジョンが発見されることがちょこちょこあるようだ。


 平均レベル33の5人パーティーがダンジョン入場5分で壊滅したと噂で聞いていたため、さすがにどうかと考えていたのだが、他に候補もないなら行ってみるのもありかもしれない。というか行ってみるしかない。

 まだ誰も深層部まで辿り着いていないというのだから夢が溢れている。


「どんだけダンジョンが好きなのよ……。前にも言ったけど、ダンジョンは普通4人以上で潜るものなの。他のダンジョンもラフォリス地下迷宮のように上手くいくとは思わない方がいいわよ」

「思ってない思ってない、むしろその逆だ。困難だからこそ面白いんじゃないか」

「はぁ……それに付き合わされる私のことも考えてちょうだい」


 口ではそう言っているが、満更でもなさそうなディズ。

 ディズだって同じ冒険者。出来立てほやほやであろうダンジョンに興味はあるはず。

 もう一押すれば、陥落しそうだ。


「無理そうなら諦める、それでいいんじゃないか? 挑むだけ挑んでみようぜ」


 「な? な?」 と、俺は様々なアングルからディズを執拗に攻める。


「……はいはい、わかったわよ。でも、まったく情報のないダンジョンだから、どうなっても知らないからね」

「わかってるわかってる。ディズがなんだかんだ優しいことも全部わかってるぞ」

「まったく、調子がいいんだから……」


 こぼれた微笑を隠すようにディズがカップを傾ける。その頬は僅かに赤い。



「――いくつか、聞かせて欲しいのですが構いませんか?」


 今まで固く口を閉ざしていた、もう一人の同席者。その名も萩原柚奈である。

 ディズにお礼を言いたいとついてきたのはいいが、挨拶と感謝の言葉だけ告げると、それ以降は俺の隣で黙って座っていた。

 時折、カップに口をつけるだけで、あとはディズのことをじっと見つめていた恥ずかしがり屋さんの妹だ。

 このまま無言でいられても扱いに困ってしまうため、柚奈の方から口を開いてくれたのはありがたい。


「ん、私? いいわよ」


 慌てた様子もなく、ディズがゆっくりとカップを置く。


「それでは……」


 柚奈が深く息を吐き、姿勢を正す。

 二人の視線がぶつかり合い、よくわからない緊張感が場を包み込む。


「――ご趣味は?」

「読書とお菓子作りかしら」


「普段、家ではなにを?」

「趣味以外で、ということよね。……花壇の手入れとか、炎系魔法の研究したりってところね」


「好きな男性のタイプは?」

「そうねぇ……、ありきたりだけど、強くて優しい人とか? どこか頼りなくても、いざって時に引っ張ってくれそうな男性ひととかいいかも」


「なるほど……」


 気楽に答えるディズと、どんどん真剣な眼差しになる柚奈。二人の温度差が激しく、俺は風邪を引いてしまいそうだ。先程から寒気が止まらない。

 

 このお見合いのような流れは、柚奈なりにディズと仲良くなろうとしてくれている結果なのだろうか。

 互いの共通点を見つけて、そこから話題作りをしようという作戦だというなら俺は是非とも応援したいのだが、そんな平和的なものにはどうしても思えない。


「終わり?」

「はい、本当はもう一つ聞きたかったんですけど、それをここで聞くのは得策ではないので」

「そう、少しは参考になったならよかったけど」

「とても参考になりました、ありがとうございます」


 あ、そんな悪い雰囲気でもないかな?


 どことなく、柚奈から敵意のようなものが滲み出ている気がするのだが、俺の考えすぎだろう。

 柚奈の表情は緩んでおり、「紅茶のおかわりどうですか?」とディズを気遣っている。

 ディズは初めからフレンドリーだったので、柚奈がこの調子ならすぐに打ち解けてくれそうだ。

 もしかすると緊張していただけだったのかもしれない。





「それでね、陸ったらダンジョンワームを焼いて食べたのよ? 赤ちゃんでも口にしないようなものでも平気で食べるんだからびっくりよね」 

「ふふふ、兄さんらしいです。兄さんは昔から好奇心が旺盛でしたから」

 

 3人で過ごす穏やかな時間が30分程続いただろうか。

 柚奈の口数もいい具合に増え、俺も安心してデザートを食べられる。

 ディズと柚奈が険悪では、今後厄介事が増えるのは明らかだし、ディズを家に招くことも難しかったため、心底良かったといえる。


「あの――」


 会話が一度途切れたところで、なにかを決心したように柚奈が俺とディズを順番に見る。


「兄さんとディズさんにお願いがあります」


「ん? どうした、改まって」「どうしたの?」


 柚奈の言葉に俺とディズが返す。

 どうやら世間話がしたいということではなさそうだ。


「私を二人の固定パーティーに入れて欲しいんです」


 それは俺もいつか話をしなければいけないと考えていたものだった。

 俺一人で決められることでもないし、ディズに話そうにも、身内絡みのことでディズも反応に困るのではと躊躇してしまっていた。


「……柚奈は戦えるのか?」


 俺のイメージでは柚奈は冒険者というより、職人として生活していそうなものだったので、戦闘行為を行えるのかということに疑問があった。戦闘スキルなど一つも修得していない可能性だって考えられるのではないか。

 戦えない人間を身内贔屓でパーティーに加えるわけにはいかない。これは絶対に譲れないラインだ。

 こういった自分勝手な行動は、しがらみとしてパーティーと一緒に成長し、いつかはパーティーを崩壊させる原因になりえる。


「戦えます」


 俺の問いに対し、柚奈が断言する。


 『戦える』ってことは、少なくとも戦闘経験はあるはずだし、戦闘スキルも修得してるってことか。

 なら、俺からはなにも言うことはないな。


 俺だってまだまだ成長途中だし、レベルがどうだとかそこまでは言わない。

 パーティーメンバーであるディズが認めるなら、柚奈の加入も歓迎しよう。


「ディズはどう思う? 遠慮しないで言ってくれ」

「……見てみない限りにはなんとも言えないわね。実際に、次の狩場でパーティーを組んでみて様子を見るというのはどうかしら」


 次の狩場というと『ネル洞窟』になる。

 狩場の難易度は相当高いと予想されるので、柚奈には辛い試験になるだろう。

 ただ、それゆえに贔屓目がないということの証明にもなるかもしれない。


 俺は異論ないとディズに頷く。


「決まりね。先に言っておくけど、陸の妹だろうと私は容赦しないからね。どっちに転んでもそれだけは覚えておいて」

「はい、お願いします」


 試験会場『ネル洞窟』、試験官『ディズ』という高難度の条件が決まったというのに、柚奈はまったく動じた様子を見せない。


「自信がありそうだな」

「はい、兄さんとパーティーを組むことを想定して頑張りましたから」

「面と向かって言われると、ちと照れるな。ちなみに柚奈は何が得意なんだ? アタッカーとかヒーラーとかさ」

「一通りこなせます。兄さんがどの役割でも、一緒にパーティーを組めるよう努力しましたから」


 そう誇らしげに答える柚奈に、俺はどんな顔をすればいいのか。

 限られたスキル枠しかないというのに、努力でなんとかなる問題でもないと思うのだが。

 ただの器用貧乏でしたという落ちではないことを今は祈ろう。

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