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23.決闘

 ラフォリスコロシアム。ラフォリスの北部に位置する、石造りの巨大な円形闘技場である。

 建物の傷み具合が時間の経過を思わせるが、恐らくはそういう造りなのだろう。しっかりと手入れも行き届いており、風情を感じることはあっても、嫌悪感は感じられない。


 俺は今、そのラフォリスコロシアムの控え室に来ていた。


 控え室からは左右に2本の通路が延びており、そのうち一つにはご丁寧なことに『陸はこちらへ 良き決闘にしよう』と張り紙がある。

 こちら側から入場しろということらしい。


 大きな円を描くように続く通路。

 砂の地面を踏み進めて先を目指す。

 動悸がどんどん早くなっていくのが自分でもわかる。


 まったくどうしてこんな大事になったのやら。

 いや、原因はわかってるけどね。



 …………さて、ここか。

 

 鉄格子に阻まれ、これ以上進めない。

 だが、鉄格子からこぼれる日差しと、聞こえてくる観客の声から、そこが俺の目的地だということが窺える。




『さぁ、いよいよ時間です!! 皆さん長らくお待たせいたしました! これより、激闘! 初狩りのルベルクVS陸、開演です!!』


 アナウンスに続くようにして大歓声が聞こえてくる。

 ついに始まったようだ。


 盛り上がってるなぁ……。

 こんな中、出ていかないといけないのか。


『――はいっ!! それでは、さっそく選手に入場してもらいましょう!! まずは挑戦者の登場です!! 東の方角!! その経歴、実力は一切不明……。わかっていることは唯一つ。この男がアトフにきて10日ちょっとだということだけだ――』


 いつから俺が挑戦者になったんだ……。

 戦いを挑んできたのはルベルクだぞ。


『――期待の新人、陸選手の登場だああああ!』


 鉄格子がガシャンと上がり、戦場への道が開かれる。

 パッとしない紹介アナウンスと観客席から届く声援に足が重たくなるが、遅れれば遅れるほど目立つのも事実。俺は覚悟を決めて前へ出た。



 ――ッ!?


 その光景に絶句する。

 ぐるりと囲むように広がる観客席は圧巻。

 満席とはいえないまでも、それに近い観客のほとんどが俺一点を見ている。

 物語の主人公にでもなったかのような不思議な感覚。上手く言葉にできないが、謎の充実感が俺を満たしていることは間違いない。


 これは、なおさら勝ちたくなるな……。

 

 この地に立つまでは面倒なことになったとしか考えていなかったが今は違う。

 なんというかもう、この環境を用意してくれたルベルクに感謝してもいいくらいだ。



『対する、西の方角!! 我々は彼を待っていた! 多くは語らない……全ては愛すべき者のために。初狩りのルベルク選手!!』


 反対側の入り口から堂々と歩いてくるルベルクに、観客席が一層盛り上がりをみせる。

 俺とは違い紹介アナウンスも気合が入っている。十中八九、ルベルク本人が考えたものだろう。



「ふふ、いい眺めだろう? どうやら気に入ってもらえたようだね。僕も用意した甲斐があるというものさ」


 俺の正面に立ったルベルク。

 初めて会った時よりも服のキラキラ度が増している。


「ああ、正直こんな気持ちになるとは思ってなかった」


 それだけ話すと、互いに短く一礼し、距離を取る。



『それでは、両者位置についたようなので始めさせていただきたいと思います……』


「……ディズベール、この勝利を君に捧げたい……」


 手に握るレイピアを顔の前に構え、ルベルクがぼそりと呟く。

 ルベルクは炎属性の魔法使いだという話なので、レイピアが杖代わりということだろうか。対近接用のサブ武器ということもありえる。

 用心はしておこう。


 …………。

 あれだけ騒がしかった観客の声も聞こえない。


 いよいよだ……。

 いよいよ始まる。


『――はじめっ!!』


 銅鑼どらの音が響き渡る。


「――コマンド!!」


 魔法使いに時間は与えたくない。

 両手の指にそれぞれ挟むようにして、インベントリから石を8個実体化。それらをルベルク目掛けて飛ばす。

 同時に全力で走り、俺自身もルベルクとの距離を詰めていく。


 俺には危険察知もある。

 慎重になりすぎて近づく機会を逃すわけにはいかない。


「妙なスキルを使うね……しかし!!」


 ルベルクに焦りの色は見えない。

 それどころが余裕の表情を浮かべ、その場から動こうともしない。


「バリア!!」


 ルベルクの周囲1メートルほどを包み込むようにオレンジ色の障壁が発生する。

 俺が飛ばした8個の石は障壁に弾かれ力を失ってしまった。

 

 なんて恐ろしいスキルなんだ……。


 小学生時のトラウマを彷彿させる。 

 鬼ごっこにおいて最強といっても過言ではないチートスキルだ。

 あんな攻撃で勝てるとは微塵も考えていなかったが、俺への精神的ダメージは思いのほか大きい。


「これがある限り僕に敗北はない!! ……そしてこれがある限り君に勝利はない――」


 ルベルクがレイピアの先を俺に向ける。

 その瞬間、ぞわりと寒気がした。


「――ファイア・フィラメント!!」


 指先程度の細い光が真っ直ぐと俺に向かってくる。

 速度的には遅いが、その姿はまるでレーザーだ。


 目視で追えないことはないし、回避も十分間に合う……

 ってのに、この嫌な感じはなんだ!?


「ブロック! コマンド!!」


 ブロックを発動した藤娘をコマンドで空中に固定する。

 そして盾のようにした藤娘をその場に置いて、俺は後ろに軽く飛んだ。


 やがて、細い光が線となり藤娘に衝突する。


 ――なっ!?


 藤娘があっさりと貫通された。

 突き進んでくる光が弱まることはなく、たとえ藤娘を10本並べたところで結果は同じだったようにさえ思えてくる。


 ただ、幸いまだ回避は間に合う。

 僅かだとしても離れていて正解だった。

  

 心臓一直線に飛んでくる光を、俺は横方向に逃げることで回避した。


 避けるのは難しくないな。

 直線軌道なだけまだ――って、うしろ!?


 背後から迫る危険を察知し、俺は振り返る。


「んなのありかよ!?」


 ボールが壁を反射するように、ファイア・フィラメントが空中で一瞬静止し進行方向を変える。

 当然狙いは俺だ。


「僕のファイア・フィラメントからは逃げられない!! そう、絶対にね!!」


 ルベルクが自信満々にそう断言する。

 何度避けたところで、方向を変え、再び襲い続けてくるということだろう。


 かくして俺とファイア・フィラメントによる、命がけの追いかけっこが始まったのだった。

 

 


 

 ルベルクとの決闘が始まってから既に2~3分は経過しただろう。

 俺はいまだにファイア・フィラメントと追いかけっこをしていた。


 コマンドで空中に大量の足場を作り、あっちこっちに飛び回ることで被弾はしていないが、状況は良くない。

 こちらはファイア・フィラメントを一撃でもくらえば即死級だというのに、むこうは何をされても表情一つ変わらないのだ。

 サバイバルダガーや藤娘をコマンドでおもいっきりルベルクにぶつけてみたりもしたが、まったく効果はなかった。


 どうするかな……。


 ルベルクの戦闘スタイルは単純である。

 持続型のバリアで身を守り、攻撃は同じく持続型のファイア・フィラメントに任せる。

 以上だ。

 補足するなら、ルベルク本人はバリア内で魔力回復薬を飲んでいるということくらいか。

 

 たったそれだけなのに、破ることはできない。

 そもそもルベルクのバリアを打ち砕くだけの火力がない時点で詰んでいる。


 『絶対陸じゃルベルクに勝てない』……か。

 納得だな。

 


「さあ、攻めてこないのかい?」


 疲れた様子も見せないルベルクが煽ってくる。


 俺の手元には回収した藤娘が1本。

 扇面に穴は開いているが、武器としてまだまだ機能する。


 ふぅ……。

 一か八かやってみるか……。

 他に手もないしな。


「……そんなに攻めて欲しいなら行ってやるよ!!」


「どこからでもかかってくるといいさ。僕にバリアがある限り陸の攻撃は通らない!」


 ファイア・フィラメントを掻い潜り、ルベルクとの距離をなくしていく。

 元より、回避は難しくない。俺はあっという間にルベルクの近くまでたどりついた。


 藤娘を握る手に力をこめる。

 ルベルクは目の前だ。

 

「奥の手はとっておくものさ……。僕のファイア・フィラメントは――」


 あと一歩というところで、危険察知がかつてないほどのアラームを鳴らす。


「――加速する」


 前方斜め上方向から落ちてくるファイア・フィラメント。

 それが俺の眉間を目指して一気に加速した。


 回避は間に合わない。

 俺は庇うように左手で顔を隠す。


「さよならだ、陸」


 ファイア・フィラメントにより被弾した。



「ディズ、見ていてくれたかい……僕の勝利だ」


 ルベルクがレイピアを顔の前に構え、一礼する。


 

「――バリアを解除したな?」  

「なっ!? どうして!?」


 確かにファイア・フィラメントは直撃した。

 が、直撃したのは――


「き、金貨!? 金貨だと!?」


 左手の平に乗せられた1枚の金貨。

 それを見てルベルクが驚愕する。


 ”金貨にスキルは使えない”。

 物理攻撃や間接的なものならいざ知らず、直接金貨をスキルで加工することはできない。

 それは俺がコマンドで経験したことであり、アトフの常識でもある。


 ファイア・フィラメントはその性質上、金貨に吸い込まれるように消滅したのだ。


 思惑通りに事が運んでよかった。

 バリアがある限り勝てないなら、バリアを解除してもらう他ない。


「あ……ありえない……」


「悪いがスキル発動の暇は与えない」


 ふらふらと後ろに下がるルベルクの腹を藤娘で突く。


「が、がはっ!!」


 大口を開けて苦しむルベルク。

 そこに俺は追い討ちをかける。

 バリアをもう一度張られれば、今度こそ俺の勝機はなくなってしまうのだから容赦はしない。


 とあるアイテムを実体化し、俺はコマンドでそれをルベルクの口に勢いよく投げ込んだ。

 大口が開いていただけあって、胃の中まで入れるのは難しくない。


「――ぐっ、なにを!?」


「あめちゃんだ。とっておきのな」


「あ、あめちゃん?」


「うむ、冒険者に大人気らしいぞ」


「ふ、ふざけたことを!! 僕をすぐに倒さなかったこと、後悔するといい!!」


 戦意を取り戻したルベルクがレイピアを構える。


「ファイア・フィラ――」


 ルベルクの体が破裂した。



 さらばルベルク。

 さらば自爆玉……。

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