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21.先制攻撃

「で、あれはなんだったんだ?」


 テーブルのサラダを自身の皿に取り分けながら、今しがた去っていった男のことを正面に座るディズに尋ねる。

 

「ルベルクよ」


 模範解答のように簡潔で完璧な答えを俺に教えてくれるディズ。

 しかし、残念ながらそれは既に俺の知っている情報だ。


「確か初狩しょがりのルベルクとか自分で名乗ってたよな。結局、あれはどういうことだったんだ?」


 初心者狩りといえば、中級者以上の実力を持つ者が鬱憤晴らしや戦績稼ぎを目的として初心者をいたぶる行為だったと記憶している。

 蔑称として使われることはあっても、誇れるようなものではないはず。

 その点、ルベルクの自分から名乗っていくスタイルは斬新といえる。


「ルベルクは初狩りの意味を誤解してるのよ。初撃で相手を狩りとるみたいな認識で使ってるらしいわ」


「それであんな誇らしそうにしてたのか……。でもあれだな、初心者狩りをするようなタイプには思えなかったけどな」


「決闘馬鹿なのよね、あいつ。20持ちで30レベル後半のベテランだってのに、相手が初心者だろうと構わず決闘決闘っていってるから周りからはそう見えちゃったみたい。実際のところ誰彼構わず決闘を申し込んでるだけなんだけどね」


 いや、それもどうかと思うんだが……。

 初狩りって言われるのも自業自得だよな。

 

「――って、20持ちなのか」


 ディズの口振りからルベルクが強いということはわかっていたが20持ちとは。


 これでも20レベル越えスキルの恐ろしさはわかっているつもりだ。ディズとパーティーを組んでいれば否が応でも思い知らされる。

 ルベルクもディズと同じく炎属性の魔法使いということもあり、自然とディズのフレイムプロミネンスが脳内で再生されてしまう。

 

「ええ、私のと違って詠唱も短いし、性能もどちらかといえば対人向けね。当然、ルベルクはそれを軸にした戦い方をするわ。言っとくけど、ルベルクと決闘して勝てた前衛は私が知る限りいないわよ」


「ほお、そりゃ面白そうだな」


「そう思っていられるのも今だけなんだから。なんっの面白みもない堅実な戦いっぷりに陸もきっとがっかりするわよ」


 相変わらずルベルクとの決闘の話になるとディズは否定的だ。

 それがかえって俺のやる気を助長させるのだからおかしなものだが。


「まあ、それも含めて楽しみにしとくさ」


「はぁ……相変わらずねぇ」


 なにを言っても無駄だと悟ったようで、ディズの意識がデザートへと向く。


 ルベルクのスキルや装備など聞けば詳しく説明してくれそうだが、それはやめておこう。

 こちらだけ事前に対策を練れるような状況は不公平だし、何より楽しみの前借をするようで気が進まない。


 俺はルベルクの話題をそこで切り上げ、ディズとデザートの好みについて語り合うことにした。




 朝食後、俺とディズはラフォリスの大通りを歩いていた。

 特にはっきりとした目的があるわけではない。明日に決闘を控え、なんとなく狩りに行こうという気分になれなかったのが理由だ。


「お、これとか良さそうじゃないか?」


 露店に並ぶ商品を一つ手に取り、隣に並ぶディズの前へと持っていく。

 

「なによこれ」


「非常食と兼用のアクセサリだってよ」


 

 【アクセサリー】

 ・魔力玉(チョコレート味):MPが僅かに上昇する。

 質:F【級】  重さ:0.05【kg】  耐久度:89 / 100  分類:アクセサリー



 ああ、性能がちょっと微妙だな。

 チョコレート味っていうのもつまらない。

 これは駄目だな。


「非常食として持ち歩く分には構わないけど、アクセとして装備するのは認めないわよ」


「安心してくれ、性能を見て俺もがっかりしたところだ」


 さすがに俺だってアクセサリーに味を求めたりはしない。

 非常食なら他にもインベントリに入っているし、わざわざ高い金を払って買うものではないだろう。

 せめて質がもう二つくらい高かったら考える余地くらいはあったのだが。


 おっ、これはなんだろ。

 

 期待外れのチョコレート味アクセを棚に戻し、他に面白そうなものがないかと物色していると、かごに山積みにされた一口サイズの黒い物体が目に留まる。

 ピーナッツが中に入ってるのではと疑いたくなる形状だ。



 【素材・その他】

 ・自爆玉:胃の中に入れ魔力を込めると爆発する。

 質:F【級】  重さ:0.01【kg】  耐久度:91 / 100  分類:その他

 


 自爆?

 え、どういうことなの……。


「あれ、もしかして自爆玉は初めて見るの?」


 ディズが意外そうに俺を見る。

 俺には用途がいまいちわからないのだが、ディズの反応からしてアトフでは広く知られたアイテムなのかもしれない。

 

「ディズは知ってるってことか。一体何に使うものなんだ? 対モンスター用の罠か?」

「ん、違うわ。食べるのよ、自分で」

「え、そしたらどうなるんだ……?」

「爆発するわよ」

「してどうするんだよ」

「死ぬのよ、そりゃ自爆玉だもの」


 なにそれ怖い。


 しれっと恐ろしいことを言うディズに、俺はますます理解が追いつかない。

 一発芸として使うにはグロすぎるし、度胸試しで使うにしては洒落にならないのでは。

 せめてR指定を設けるべきだと俺は訴えたい。


「どこに需要があるんだ……」


「ふふ、残念ながら人気アイテムなのよ? それ。私も持ってるくらいだし」


「……爆発願望でもあるのか?」

「――違うわよ! なによ爆発願望って」


 珍しく声を張り上げてつっこみにまわるディズ。

 俺の推察はディズにとって心外だったらしい。


 うーん、これが人気アイテムとはな……。

 アトフには俺の知らない謎がまだまだいっぱいということか。


 外を元気に走り回る子供達が『よーし、次は爆発ごっこしようぜ』とか言い出したら、俺は3日くらい寝込んでしまうかもしれない。

 

「はぁ……。いい? 自爆玉は、言わば苦痛への救済措置よ。モンスターや罠で致命傷を負ったり、大量のモンスターに囲まれて絶体絶命だと判断した時に使うものなの。死んでも復活できるとはいっても痛みはあるんだからね」


 「だから陸も持っておきなさい」とディズが自爆玉を強引に押し付けてくる。

 金貨100枚と、缶ジュース感覚で奢られるには気を使ってしまう金額。自分で購入することを提案するが、ディズには断られてしまった。

 しつこくウダウダ言うのも無粋なだけなので、ここは大人しく厚意に甘えるとしよう。


「んじゃ、ありがたくもらっとくな」


「縁起のいいものじゃないけど我慢してね、陸のためでもあるんだから」


「ああ、わかってる。正直、お世話にはなりたくないが、お守り的なノリでインベントリに入れとく――」


 ん? なんだ?


 自爆玉をインベントリに収納し、再び大通りを歩き出そうと視線を先に向けると、進行方向上に人だかりが出来ていた。

 元々、ラフォリスの大通りは活気ある場所だが、人が通れないほどの集まりを見たのは初めてだ。


「なにかあるのかしら?」


 俺の視線を追い、ディズも人だかりを見つけたようだ。

 俺はディズと顔を見合わせ一つ頷くと、走り出した。




「なにかあるのか?」


 ざわざわと騒がしい人ごみ。その後部にいた若い兄ちゃんに声を掛けてみる。

 

「俺も今きたばかりで詳しくはわからねえが、なんでも明日誰かがコロシアムを使って決闘をするとかって話だぜ? 奥の掲示板に張り紙があるらしい」


 お、それは面白そうだ。

 あのでかいコロシアムだよな。

 決闘とはなかなか――

 ん? 決闘?

 コロシアウムで? 明日?


「……ディズ、どう思う?」


「……多分陸と同じことを考えているわ。間違いないでしょうね……」


 ですよね。

 間違いないですよね。


 鈍感主人公にはわからないかもしれないが、俺にはわかる。

 これは奴の仕業だ!


「すまん、ちょっと通してくれ!!」


 人ごみを掻き分け、俺とディズは一気に最前列までやってくる。

 


 【激闘! ~初狩りのルベルク VS 陸~】

 開催日程:6月24日 16:00

 場所:ラフォリスコロシアム

 観戦料:金貨50枚

 それは避けられない戦いだったのかもしれない……。

 宿命に従い導かれた二人の戦士。

 その名もルベルク、陸。

 ――今、戦いの火蓋は切られた!!

 譲れない想いがそこにある……。



「…………」

 

「はぁ……あの馬鹿……」


「これだけ広まったら取り消すのも無理だよな……」


「そうね……」

 

 開いた口がふさがらない。

 決闘をコロシアムでするとは聞いていたが、まさか観客を募るとは。

 ルベルクの行動力には脱帽である。

 

「初狩りのルベルクがこの街に来てたとはなぁ」

「これは一見の価値ありだな!」

「でも相手の陸ってのは誰だ?」

「さあ、そっちは俺もわからないな」

「まあ初狩りのルベルクの戦いが見れるならいいか」

「20持ちだよな」

「他の連中にも知らせてやろうぜ!!」


 耳を澄まさずとも聞こえてくる人々の声から、前評判が好調だということも窺える。

 当日は大盛況になりそうだ。


 はぁ……。

 ディズではないが溜息しかでない。


 

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