15.プロミネンス -移住生活10日目-
【リンククリスタル】
【その他雑談】
フィールド:【ラフォリスの街】
チャンネル:32
24:そういや知ってるか?
またあいつが出たらしいぞ
15:あいつ?
24:デッドイーターだよ、デッドイーター
25:そんなモンスターいたっけ
41:モンスターじゃなくて人だな
16:最近ラフォリスに現れたって奴だろ
和服とかいう服装で、扇子? って武器を使うらしいぞ
25:ほお、初めて聞いたな
20持ちとかか?
24:それはどうだろな
俺が実際に見たわけじゃないからわからんな
4:20持ちではないはず
15:それにしても随分物騒なネーミングだな
16:本当かは知らんが殺したモンスターをその場で食うらしいぞ
15:こわ
25:それでデッドイーターか……
でもモンスターっていっても食えるやつは普通に食えるだろ
そんな変なもの食ってるのか?
41:本当なんでも食うっぽいぞ
24:俺が聞いた話ではレッドスライムを食ってたってよ
41:フォレストリザード、ジャイアントダイアウルフを食ってたって聞いたことあるな
4:俺実際見たけど森でトレント食ってたぜ
なんでトレントの枝なんて持って歩いてるのかと思ったら
歩きながら食べてた
いや、まじで
15:ひどすぎる
25:殺したものを食べる風習でもあったのか?
怖いってかきもいわ
16:でも噂ではあほみたいに強いらしいぞ
24:そうそう、1週間くらい前だっけな
ジャイアントダイアウルフリーダーをソロで討伐したとかなんとか
25:え、まじで?
41:デッドイーターが討伐したってのは嘘くさい気もするがな
ただ誰かがソロで倒したってのは本当らしい
初期防具だったらしいぞ
15:それ凄いな
4:初期防具ってのは確実らしいな。武器は知らん
無傷で倒したとかで一部で盛り上がってたな
25:どうせ誰かが外部ヒールしてたとか、既にボスが弱ってたとかだろ
15:ありえる
24:とにかくデッドイーターが強いってのはガチ
41:ただし実際に見た者はほぼいない模様
16:まあ、デッドイーターって呼び名だって極一部の人間しか知らんし
もうちょい知名度が広がればそこらへんはわかってくるんじゃないか
15:それな
25:気になるから俺も少し調べてみるかな
4:黒髪、紫と赤の変わった格好で目立つから見ればすぐわかると思う
25:把握
んじゃそろそろ寝るかな。おつかれさん
15:同じく
~~~~~~
俺がアトフに移住してから10日が経過した。
この世界にもようやく慣れ始め、精神的にも肉体的にも大きく成長できた。
装備だっていい感じだしな。
アクセは安物だけど、武器と防具はどれも自慢の品だ。
リーズには本当感謝しきれん。
武器はC級『藤娘』。
アトフ移住初日にリーズの店で購入した、藤の花が描かれた扇子だ。
防具はD級『藤景色』。
同じくリーズから購入した鮮やかな紫色の着物だ。片肌脱ぎにより右肩が着物から露出しており、そこから覗かせる赤い襦袢 ――着物用の下着らしい――がこれまた上手く着物の色とマッチしている。藤娘と合わせて一つの作品をイメージしたとリーズは言っていた。
はぁ……我ながらきまってんなぁ。
この緑の帯に差した藤娘がいい味出してると思うんだ、うん。
街を歩いてても結構注目されるようになったしな。
どうしたんだってくらい熱心な視線を送ってくるのもたまにいて困るが。
人気者はつらいねー。
小洒落たカフェでカップを片手に過ごす食後の優雅な一時。
こうして過去を振り返り、有意義な時間を一人楽しむ――
「んだと、こらぁ!! もう一回言ってみろ!!」
――予定だった。
「もう、何度も言わせないでよ。午後の狩りは中止、あんたともここでお別れ。それだけじゃない。今度は理解できた?」
「んなことは聞いてねえんだよ!! なんでそうなるのかって言ってんだろうが!」
「そんなこと初めて聞いたわよ……。まあいいわ。理由なら簡単よ? あんたと組むメリットが私にないから、これでいいかしら?」
「おいおい、さっきまで誰がタンクやってたのかもう忘れたのか? 俺がタンクしてたからてめぇも攻撃できてたんだろうが」
「あらびっくり、あんたタンクだったの? てっきり牽制役だと思ったわ。あっ、もちろん私に対してのね」
「んだと!!」
あー、なんでこんなことになったんだ……。
きっかけは間違いなく、気分転換に普段行かないような店に飯でも食べにいこうと、この店に来てしまったことだ。
かなりの人気店らしく、食事中にどんどん店が混んできて、途中でこの二人組が相席してきた。
そこまではまだいい。
問題は二人が突然言い争いを始めたことである。
俺の思い出タイムがおかげで台無しだ。
「ねえ、あなたはどう思う?」「おい、お前はどう思う?」
――さらに言うと、こうして度々俺に話を振ってくるのが超うざい。
実はこいつら仲良しだろ。
息ぴったりじゃねえか……。
「だから俺は部外者だっての。事情も知らんし、喧嘩するなら余所でやってくれ」
「事情ならたった今聞いてたでしょ? パーティーなんて相互にメリットがあって初めて成り立つものじゃない。だから私は組んでメリットもないこいつと、さよならしたい――」
「だから俺はちゃんとタンクしてただろうが! てめぇの頭ん中は腐ってんのか!?」
「あれはタンクなんて立派なものじゃないわよ。大体、貴重なスキル枠を三つとも必殺系で埋めるとか、あんた馬鹿なの? タンクって言い張るなら防御系スキルの一つでも入れてきなさいよ」
「ああ!? やられる前にやっちまえば、んなもんいらねえんだよ!」
「はぁ……。それが通用するのはレベル20以下の雑魚モンスターくらいよ……。開始30分もしないで死んだ人間がよく言えたものね。どうしてもっていうなら、もう少し小回りの利く攻撃スキルにしておきなさい。あんたの為に言ってるのよ?」
……早くデザートこないかなー。
いつまで経ってもやってこない店員の代わりに、改めて二人組に目をやる。
ありきたりではあるが、美女と野獣という言葉がよく合う二人だ。
男は見るからに前衛というどっしりとした装備、体つきをしている。
ただ正直、ラフォリスを探せば似たようなのがゴロゴロ転がってるのでは、というのが俺の感想だ。
もう一方の女性。こちらは男とは正反対。
軽装に身を包む華奢な体からは後衛をイメージさせる。
燃えるように赤い髪と非凡な美しさが合わさり、街中探したってお目にかかることはできないであろう人物だ。
ショートパンツにブラウンのへそ出しシャツ、その上から羽織るように短めの黒のローブを伸ばしている。
うむ、なかなかのお洒落力ですね。
チラチラ見える肩から二の腕のラインがいいと思います。あとオヘソも。
「ほら、もういいでしょ? 相性的に考えても、あんたは私なんかと組むよりヒーラーと組んだ方が絶対いいわよ」
「ッチ! 人のこと見下しやがって。20持ちだかなんだか知らねえが、調子乗りすぎなんだよ、クソが!!」
そう最後に言い残して男は店を出て行った。
きちんと金をテーブルに置いていったところは評価したい。
一瞬の静寂はあったものの、満席状態の活気がすぐ店に戻ってくる。
俺としては、再度訪れた平穏を祝して誰かと乾杯といきたいものだが、テーブルには俺を除けば先ほど揉めていた赤髪の女しかいない。
「ごめんなさい、迷惑を掛けたわね。私ってああやってすぐに人を怒らせちゃうのよね。でも、あなただって思わない? 嘘なんてつくより本当のことを隠さずに相手に伝えた方が、最終的に相手の為にもなるって」
水の入ったグラスを一口飲み、女がそう話しかけてくる。
「それには同意見だな。ただ、もう少し言い方はあったかもな。もちろん男の方にも同じことがいえるが」
「それよねー……。私も注意しようとは思ってるんだけど、売り言葉に買い言葉ってやつ? ちょっとしたことで、すぐにきつくあたっちゃうのよね」
「まあ、わからなくはないな。さっきの男もかなり喧嘩腰だったからな。別に長いことパーティー組んでたってこともないんだろ?」
「ええ、そうね。1時間くらい前に大通りを歩いていたら、パーティー組んでくれって誘われたのよ。『タンクには自信がある』とか『回復なんていらねえ』なんて言うもんだから、どんなものかと思ってパーティーを組んでみたらがっかりよ」
「そりゃ災難だったな」
なんだ、いい奴っぽいじゃないか。
話も普通に通じるし。
あと、チラチラ見える肩から二の腕のラインがいいと思います。
「それにしても、あなた随分と変わった格好してるのね。着物よね、それ。男が着てるのを見たのも初めてだけど、そんなに綺麗な着物を見たのも初めてかも」
「そうだろそうだろ、自慢の品なんだよ。でも、そういうあんたもかなり決まってるぜ?」
「あっ、そうでしょ!? 私も結構自信あるのよね!」
なんだかんだで会話も弾み、俺は赤髪の女と3皿目のデザートを楽しんでいた。
どうしてそうなったのかは俺にもよくわからない。
なんかもう30分くらい話し込んでいる気がしたりしなかったり。
「そういや、まだ名前も聞いてなかったな。よかったら教えてくれないか? 俺は陸だ」
「そういえばそうね、まだお互い名前も知らなかったわね。よろしく陸。私はディズベールよ、ディズで構わないわ」
「よろしくディズ。俺はまだアトフにきて10日だから、たまにとんでもない見当外れ発言をするかもしれんが許してくれ」
「あら、そうなの? 意外ね、装備だってこだわってるようだし、駆け出しでよくそこまでお金貯められたわね」
「運と勘違いのおかげかな」
それは男Dのヘビーロングダガーであったり、ジャイアントダイアウルフリーダーとの戦いであったり。
色々なドラマが俺の中にあったのだ。
とてもこの場で語りつくすことはできない。
「よくわからないわね……。まあ、いいわ。せっかくだから、このあと一緒に狩りにでも行かない? 午後の予定もなくなっちゃって私暇なのよ」
「パーティー組むってことだよな?」
「ええ、そうよ。私こう見えて結構強かったりするのよ? 後悔はさせないわ」
そう自信満々に言うディズは、既にやる気十分といった感じだ。
まさかの狩りの誘い。
今までずっとソロだった俺にはとてもありがたい。
ありがたいが……
――無理だよな。
ディズと俺では力の差がありすぎる。
紅炎のディズベール。
リンククリスタル内のラフォリス雑談部屋で騒がれていたのを見たことがある。
最近ラフォリスで活動しているという”20持ち”として話題だ。
ディズの右手の甲に刻まれた刻印が、その人物と相違ないことを物語っている。
ディズは、なんかのスキルをレベル20以上まで上げたってことだもんな。
知名度からして相当なベテランプレイヤーっぽいし、俺が足を引っ張るのは目に見えてるんだよなぁ……。
『パーティーなんて相互にメリットがあって初めて成り立つもの』というディズの言葉が俺の中に蘇る。
俺自身、同意見なのでなおさらだ。
「――なに難しそうな顔してるのよ……。足手まといになりそうでやだなぁって顔に書いてあるわよ? 私から誘ってるんだから、そんなことつまらないこと気にしなくていいのに。私の後ろで雑談に付き合ってくれるだけで十分。経験値吸えてラッキー程度に考えてくれて結構よ」
どうやら顔に出ていたらしい。
見透かされたようで少し恥ずかしいが、ディズの言葉は素直に嬉しい。
「ふむ……。そこまで言うなら頼もうかな。実は少しパーティーってのも気になってたんだ」
せっかくのディズの厚意だ。
余計なことは考えず、少しの間、世話になるとしよう。
俺もこの10日間で結構強くなれたしな。
スキルレベルだけでいえば、そこらの冒険者にだって負けないはずだ。
今の俺にどこまで出来るかはわからないが、精一杯やってみるか。
こうして俺とディズはパーティーを組み、店を出た。




