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13.新事実

 俺が倒したモンスターがジャイアントダイアウルフではなく、ジャイアントダイアウルフ”リーダー”だったと?


 男戦士からのまさかの指摘に俺は動揺を隠し切れない。


 え、戦利品にはジャイアントダイアウルフがどうたらって書いてあったよな?

 さっきの取得品表示。


 

 【素材・その他】

 ・ジャイアントダイアウルフリーダーの毛皮:ラフォリス草原に生息するジャイアントダイアウルフ  

  リーダーの毛皮。

 質:C【級】  重さ:8.3【kg】  耐久度:92 / 100  分類:素材


 ・ジャイアントダイアウルフリーダーの牙:ラフォリス草原に生息するジャイアントダイアウルフリー

  ダーの牙。

 質:B【級】  重さ:0.2【kg】  耐久度:96 / 100  分類:素材



 …………。

 やだーもう。”リーダー”ってついてるじゃないですかー。

 誰だよ、さっきのがジャイアントダイアウルフとか言ってたやつ。

 はい、私です。


「……んー、つまりこれはあれだ。ジャイアントダイアウルフリーダーってのは何者なんでしょうか。 ジャイアントダイアウルフのお友達的な?」


「友達ってか、リーダーだな」

「本当に気付いてなかったんだ……」


 呆れた様子で俺を見る男戦士と女戦士。

 さっきから俺のことなんて見向きもしてなかった、ちびっ子女魔法使いなんて、あからさまにお前を見下してますって感じの表情だ。


 くそー、またやっちまった。

 無知な己が憎い……。


「――こほん! で、結局ジャイアントダイアウルフリーダーってのはなんなんだ?」


「この草原のエリアボスだよバーカ」

「あ、こらラッチ! そんなこといったら駄目じゃない! ごめんね? 前にも言ったけど、この子人見知りなんだ」


 だから人見知りとかそんな優しいもんじゃないぞ、そいつのそれは。

 むしろそっちが素だろ。『今日の晩御飯なに?』的な自然なノリで暴言吐いてきたぞ。

 

「いや、あんたが謝ることじゃないし、別にそんなんで傷ついたりするほどナイーブでもないから気にしないでくれ。それよりエリアボスだよ。そのエリアボスってやつに俺は偶然出会ってしまったってことなのか?」


「そういうことだな。いつも沸いてるわけじゃねえし、探して会えるわけでもねえから、偶然以外のなんでもねえよ」


 ちびっ子魔法使いが、いつになく流暢に話す。

 一方、俺は驚愕の事実に返す言葉も見つからない状態だ。

 ちびっ子魔法使いの変貌など気にしていられない。


 そういうことだったのか……。

 初めて戦う高レベルモンスターだったから、まんまと騙されたぜ。

 硬い硬いとは思ってたけど、レベル差もあるし疑問に思わなかったからな。

 

 一発でエリアボスに遭遇する自分の悪運には驚きである。ひょっとすると俺の前世はダイアウルフだったのかもしれない。


「はっはっは! だからこんなに注目を浴びてんだよ。レベル的には24だったはずだぜ。もちろんボスモンスターだから、普通のモンスターの24レベルとは同列には扱えないけどな」


「ボスモンスターのソロ狩り自体珍しいのもあったけど、君の場合は防具がそれだし、戦い方が凄かったからね。注目されないほうが無理だよ」


 持ち上げてくる男戦士と女戦士の言葉に少し気恥ずかしくなる。

 ボスと知って堂々と狩りをしていたならまだしも、勘違いで戦っていたのだ。勝てたからよかったものの、途中で負けていれば、エリアボスにソロで挑んだ自殺志望者として記憶されていてもおかしくなかった。


「本当さっきは凄かったよな。それ扇子ってやつだろ? そんなの持って戦う奴を見たのも初めてだけど、あんな綺麗に攻撃捌きまくってる奴も初めて見たぞ」


「そいつはどうも。まあ、ひたすらパリングしてただけだけどな。本当スキルってのは凄いよな」


 凄いのは俺ではなくスキルだというのは自覚している。俺だってそこまで自惚れてはいない。

 

「そうか、パリングか……って、おい!? パリング!? パリングってあのパリングか?」


「え、パリングってのは種類があるのか?」


「いや、一つしかないはずだけどよ」


「ならそのパリングだろうな」


「いやいや、だってパリングだぞ? メル、ラッチ、どう思う?」


 なにこれ、俺はパリングしたって言っただけだぞ。

 嘘はついてないし、勘違いもなにもないよな。


「……ごめん、私にもわからない。でもあんなの見させられたら後だから、納得したくなっちゃう気持ちもあるかな……」

「……」


 女戦士もちびっ子女魔法使いも釈然としない表情をしている。


「んっと、すまん。話が見えないんだが、パリングを使うってのは変なことなのか?」


「変……その通りっちゃその通りだな。正確にはありえないってことなんだけどよ」


「ありえない? パリングを使うのがか?」


 意味がわからない。

 俺は実際にパリングを修得しているし、何度も戦闘で使っている。MPの消費からもスキルの発動を確認しているし間違いないはずだ。


「アトフにきたばっかっていうならわからないと思うが、毎年年末に発売される『今年のいらないスキルはこれだ!!』って本があるんだけどよ。聞いたことないか? まあ、ないよな……」


「知らないな。滅茶苦茶興味を惹かれるタイトルだけど」


「タイトル通りの本なんだけどよ。自称審査員達が毎年最も使い道がないスキルを選んでトップ20を決めるってやつなんだ。馬鹿げた本だと思うかもしれないが、これが意外と内容はしっかりしてて世界中で信頼も人気も絶大なんだよ」


「そこにパリングの名前があると?」


「ぶっちぎりのトップ……それも毎年ね」


 男戦士の代わりに女戦士が答えてくれる。


 つまりパリングがいらないスキルだと?  


 二人が嘘をつく理由もないし、様子からみても『今年のいらないスキルはこれだ!!!』とやらにそう掲載されていることは事実なのだろう。

 そして、その本が世界中で信頼と人気を集めていると。そういうことらしい。


「俺的にはかなり気に入ってるのに心外だな。他にもっと使えなさそうなスキルくらいありそうなもんだが」


「言っておくが、トップ20に入るなんてよっぽどだぜ? 虫も殺せないような攻撃スキルでも『宴会でネタとして使える』とかで弾かれるし、自分の体を1分間動けなくするとかいう意味分からんスキルでさえ『衝動的な欲望を抑えるのに使える』って理由で除外されたしな。それに、トップ20入りしたとしても、それらのスキルをなんとか有効活用しようと、毎年、血気盛んに頑張る連中が出てきて、次の年には除外されたりするからな」


「なおさらわからないな。なんでそれでパリングが1位になるんだ?」


 個人的にパリングの防御能力は誇張抜きで優秀だと感じている。

 優秀だからこそ、こんな初心者が一人でエリアボスを討伐なんてできたのだ。パリングがなければ、勝てなかったと断言できる。

 だというのに、なぜパリングが選ばれるのか。


「”誰にも使うことができないから”、そういわれてるな。なんでも人間の脳じゃ処理速度が足りなくて発動することさえできないって話だぜ?」


 誰にも使うことができない?

 人間の脳じゃ処理速度が足りない?


「俺は普通に使えてるぞ?」


「だから驚いてるんじゃねえか! 世間一般じゃ、パリングは使い道のないバグスキルって認識なんだぞ」


 使用できないはずのバグスキルと、それを扱う俺の存在か。

 うん、矛盾ですね。

 なるほど、だから3人とも難しい顔をしてたのか。

 出合ったばかりの初心者冒険者と、信頼と実績の人気本のどちらかが間違っているというなら、前者を疑うのは当然だ。

 もちろん、俺は立場上、『今年のいらないスキルはこれだ!!!』の自称審査員を疑うけどね。


「「…………」」

 

 うーむ、なにを言ったもんかな。

 嘘じゃないと証明しようにも方法がわからないしな。

 そもそも弁明する必要性もあまり感じられないから余計な。


「……決めた。私はお前を信じることにしたぜ」

「ラッチ?」「お、どうした?」


 意外な奴から意外すぎる発言。これも人見知りが成せる行動なのだろうか。

 

「おっと、勘違いはするなよ。お前のあの動きを見た自分を信じた結果だからな。それに、こいつらだって別にお前を疑ってるわけじゃねえよ」 


「へ? 疑う? 俺がいつ疑ってるなんて言ったよ。俺は驚いたって言っただけだぜ? 初めから疑ってなんかいねえよ」


「ごめん、私は君がパリングをなにか違うスキルと勘違いしてるのかも、なんて少し考えちゃった……。あ、でも、一つの可能性としてちょっと考えただけだよ?」


 人見知りに突然振られ、男戦士と女戦士が思い思いに言葉を口にする。男戦士と違い女戦士は少しばかり、ばつが悪そうだ。

 どうやら深読みしすぎたらしい。気まずい空気だと感じていたのは俺だけだったようだ。

 

 それにしても、どういう風の吹き回しなんだ、この人見知りさんは。

 嘘つき呼ばわりされるよりかはそりゃいいけど、わざわざ口にして『信じる』とか言うキャラか?

 

「よし、そうと決まればさっさと行くぞ、早く来い」


 え? 来い? なぜ? どこに? 


 この人見知りがなにをしたいのかさっぱりわからない。

 二人にも思い当たる節はないようで、女戦士と男戦士の方を見ても首を傾げるだけだ。なにも答えてはくれない。


「俺をどこに連れて行くと?」


「は? 決まってるだろ。本の関係者のとこだよ」


 人見知りをこじらせると人はこうもおかしくなってしまうのだろうか。決まってもいないことに対して決まってるなどと虚言癖があるようだ。


「いや、まじで意味がわからんぞ。どうしてそうなる」


 本気で誰か教えて欲しい。


「……あー、そういうことか」


 お、ナイスタイミングだドM。

 早く教えろ。

 

「報酬を貰うつもりなんだろ、ラッチ」


「当然だろ。それ以外になにがあんだよ」


 報……酬……?

 あれか、パリングを使える俺を実例に特種として売ろうってことか? 

 

「あっ、そういうこと! ランキングトップ20に入ってる使えないスキルの実用性を証明できれば、報酬が貰えるもんね。例年トップのパリングなら期待できそ――って、駄目だよ!! なに報酬貰う気でいるのラッチ! そんなことしたら絶対大変なことになるし、他人を巻き込んじゃ駄目だよ!!」


「インタビューと検証で大忙しになりそうだよな」


 あ、大忙しになるのは困るな。

 俺にも相応の分け前があるなら、とか少し考えちまったけど、冷静に考えたら相応の対価を貰うのは相手側も同じだもんな。貰った金額分、検証やら色々に付き合わされるのは当たり前か。

 却下だな。


「あー、うるせえな。そんなのは知ったこっちゃねえよ。私は金を貰えるし、こいつは苦労を貰える、それでいいじゃねえか。ウィンウィンだろ」

 

「どこがウィンウィンなんだよ……」


 プラスとマイナスじゃねえか。

 ゼロサムゲームじゃないんだぞ。


「細かいことは後で考えればいいだろ。ほら、早く来――うぉ!! なにすんだメル!! 離せっ、おい!! !」


「ごめんね、何度も言うようだけどこの子ちょっと人見知りなんだ。こうなるとなかなか止まらないから、わっ、こら! 大人しくしなさい!! ……そういうわけだから、ここは私が抑えておくから早く行って!!」


「お、おう……」


 ……な、なんなんだこの状況は。

 俺はこのまま走り去ればいいのか……?


「はっはっは!! まっ、聞いての通りだ。ラッチはしつこいから気をつけろよ」


 どうやら本当にお開きらしい。

 気付けば周囲の観衆もいなくなっていたし、俺の行く手を阻むものはいない。


「んじゃ、一足先に街に戻らせてもらうな。なんだかんだ色々助かったぞ、ありがとな」


「私こそ色々勉強になったよ、ありがと。じゃあね!!」

「おう、楽しかったぜ!! またな!」

「あ、ちくしょう!! 逃げんな!! くそがっ! パリングのこと他の奴らに喋るんじゃねえぞ!! わかったな!!」


 ここは任せた先に行く、そんな感じで俺は3人のもとを離れた。



 あー、人見知りこえー。あれ絶対末期症状だよ。

 ここら辺で狩りしてたってことはラフォリスに住んでるんだろうなぁ。

 どうか会いませんように……。 


 切実にそう願う。

 

 そうだ、エリアボスと戦ってからステータスを見てないんだよな。

 それどころじゃなかったしな。

 ステータスとスキル確認。


  

 【ステータス】

 レベル:19

 HP:1121 / 1121

 MP:1030 / 1030  

 

 【スキル】

 【オリジナルスキル】

 ・コマンド:アイテム

 【修得スキル】3 / 5

 ・危険察知 Lv.14

 ・パリング Lv.16

 ・ブロック Lv.11



 んあ!? なんだこれ!?

 滅茶苦茶上がってるぞ。

 ……やばいな、6レベルから19だぞ。

 どんだけ経験値持ってたんだよエリアボス。

 レベル差が大きかったってことと、ソロで倒したってことが関係あるのか?


 スキルレベルもかなり上がっている。

 上がり方が顕著なのは危険察知とパリングである。ジャイアントダイアウルフリーダーとの戦いで大活躍した二つだ。

 昨日見たリンククリスタルの雑談では、3ヶ月でスキルレベル11というのが平均と誰かが言っていたが、仮にそれが真実だとすれば二日目でこの数値はかなりのものではないか。

 

 でも、いきなり上がらなくなるってこともあるって話だったからな。

 期待しすぎるのは精神的によくないよな。

 極端な話、この先何十年もスキルレベルが上がらないってこともありえるわけだし。

 うん、喜ぶのはまだ早いよな。


 コンソールを閉じ、自身のにやけた頬を手で叩き気を引き締めると、俺はラフォリスへと向かった。

 

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