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11.草原の狩人

 冒険者パーティーと別れて数分。

 ラフォリス草原北東はよっぽど人気の狩場なのか、モンスターの姿がまったく確認できない。


 なんでこんな見つからないんだ……。

 冒険者の姿すら見かけないし、他の冒険者に狩られたってこともないと思うんだがなぁ。


 ラフォリス草原で出合った冒険者といえば、さっきの3人組だけだ。

 とはいっても、3人組を追い越してきたわけなのだから、その3人組がこの周囲を既に狩り尽くしたというのも考えにくい。

 

 場所が悪いとかか? 

 ジャイアントダイアウルフが近寄りたくない理由がこの辺にあるとか。

 進路を少し変えてみるのも――。


 ッ!!


 噂をすれば影。

 草原の緑とは似つかない色を持ったなにかが遠くに見えた。

 むこうも俺のことを認識しているらしく、ゆっくりと確実に俺のほうに近づいてきている。

 こんなに距離が離れているというのに、既に逃げられる気がしないから不思議である。


 

 これがジャイアントダイアウルフか……。


 それが歩みを止めた時、俺はようやく我に返った。

 結局一度も目を逸らすこともできず、ただこうして対峙するのを待っていただけだ。


 なんちゅう迫力だ……。

 これはもうオオカミってレベルじゃないな。


 全身黒に覆われ、赤く濁った瞳が俺を捉えて放さない。

 戯れたいというわけではないのだろう。口からは涎を垂らし、鋭い牙をちらつかせている。

 捕食対象か、あるいは縄張りを荒らす外敵扱いか、あきらかな敵意を剥き出しに唸り声をあげて俺を威嚇してくる。

 今まで討伐してきたモンスターとは一味も二味も違うことが瞬時に理解できた。

 それほどまでに、目の前のジャイアントダイアウルフは異質な存在感を纏っていた。


 ふぅ……。

 

 呼吸を整え、武器『藤娘』を構える。


 他に敵影はない、か。

 こんなのに群れで行動されてたら終わりだったな。


 ジャイアントダイアウルフが強敵なのは、もはや疑いようがない。

 複数体を相手にすることになっては、ただでさえ0に近い勝機が0になってしまう。

 正面の1匹との戦闘中に他のジャイアントダイアウルフが絡んでこないよう、生息地の中心からは少しでも離れておきたい。


 ゴブリンのように瞬殺できる相手なら逆に、突っ込んでさっさと処理したほうが安全なんだがな。

 

 武器を前方に構えることで牽制しつつ、1歩、2歩と後方に下がり距離を開けていく。

 それに伴って、ジャイアントダイアウルフは円を描くようにゆっくりと俺に近づく。

 数度それを繰り返したところで、痺れを切らしたジャイアントダイアウルフが一気に駆け寄ってきた。


 ――なッ!? 速い!!


 20メートルはあった距離が瞬く間になくなっていく。

 一呼吸入れる間もないうちに、もう間合いだと言わんばかりに、俺の顔を喰いちぎりそうな勢いで飛び掛かってくるジャイアントダイアウルフ。


「ブロック!!」


 直撃すれば甚大な被害が予想される。

 回避ではなく防御という選択をとった今、確実に武器で受ける必要がある。

 藤娘を開き、防御の表面積をありったけ広げる。

 そして、持ち手とは逆の手を支えにして衝撃に備えた。


「くっ、うぉっ!!」


 藤娘を通して伝わる衝撃。

 

 ジャイアントダイアウルフを押し返すことには成功したが、あまりの衝撃に俺の体は耐え切れず後ろに突き飛ばされてしまった。

 

 いってー!!

 なんちゅー攻撃だよ!


 車に追突されたかのような攻撃。

 衝撃を受け、がくがくと震える足に活を入れ、急ぎ姿勢を起こす。


 戦闘ステータス確認!



 レベル:6

 HP:228 / 300

 MP:248 / 270 



 おいおい、嘘だろ……。

 HPもMPも全快だったんだぞ。

 ブロックしただけでこのありさまかよ。

 直撃すれば即死コースじゃねえか。


 対して、ジャイアントダイアウルフは当然無傷。

 こちらは手や足の震えが抜け切ってもいないというのに、容赦なく追撃を狙ってくる。


 再び迫りくるジャイアントダイアウルフ。


 こんな状態じゃ避けきるのは無理だ。

 かといって、防御はジリ貧になるだけ。


 ちっ、無茶でも受け流すしかねえ!!


「パリング!!」


 ゴブリン相手に何度も反復した成果をみせるところだ。

 求められるのは決して強引な力業ではない。

 向かってくる対象の力の流れに、自らの力をいかに違和感なく混ぜ合わるかが鍵となる。

 混ぜ合わせたことを相手に悟られないほど自然に、だ。

 それさえできればあとは難しくない。


 最低限の力で最大限ずらす。

 ただ、それだけだっ!!


 藤娘に触れたジャイアントダイアウルフの体が、真正面からやや左にずれる。

 パリングによる軌道修正は大きなものではなく、攻撃範囲上に俺がいることに変わりないが、それも含めて計算通りだ。

 足りない分は、左半身を斜めに傾けることでカバーする。


 俺の体を掠めるようにジャイアントダイアウルフが俺を通過した。


 よし! いけるじゃねえか!!



 レベル:6

 HP:227 / 300

 MP:246 / 270 



 HPの減少は1だけ、MPの消費量もブロックと比べれば格段に少ない。


 勝機がみえたな。


 パリングを成功させ続ければ実質敗北はない。

 全ての攻撃を受け流しながら、隙を狙って確実にダメージを与えていく。方法はこれしかない。

 ジャイアントダイアウルフの体力や耐久力、自然回復量は不明だが、C級武器の藤娘に殴られば少しずつだとしても、ダメージは蓄積されていくはず。そう信じたい。


 持久戦になるかもしれんな。


 俺はインベントリから最下級体力回復薬と最下級魔力回復薬を1本ずつ実体化し、飲んでおく。

 即効性がないため、もったいぶらないほうがいい。


「ぷはぁ!! 相変わらずまずいな」


 舌に残った苦味が後を引く。

 所詮は薬。味を求めるものではないとわかっているが、どうにも慣れない。


 どうせだし、有効活用するか。


 手に残った回復薬の空き瓶にスキル、コマンドを使用する。

 思い描くは、瓶がばらばらに砕け散り、破片がジャイアントダイアウルフに突き刺さるイメージ。

 

「コマンド!」


 ついでだ。

 こいつもくらっとけ!!


 インベントリから石を一つ実体化。

 ジャイアントダイアウルフを対象として貫くイメージ。


「コマンド!」


 ガラス片と石。なんとも地味な攻撃2連続攻撃。

 華がないのは認めるが、こんなのでも数々のスライムとゴブリンを葬ってきた俺の渾身の必殺だ。

 当たれば、そこそこのダメージを期待できるのではないか。


 降り注ぐガラス片の雨。

 拳サイズの頑丈そうな石。

 それらが、俺に喰いかかろうと直進するジャイアントダイアウルフに襲いかかる。


 よっしゃ!! ちょくげ――っな!?


 直撃はした。

 猪突猛進ともいえる勢いで進むジャイアントダイアウルフと、それを迎えるように高速で移動していたガラス片。

 互いの速度が上乗せされ、相対的にとてつもない運動エネルギーを持ったガラス片がジャイアントダイアルフを攻撃したはずだった。


 無傷ッ!?


 突き刺さることもなく、ぱらぱらと力を失い落下するガラス片。

 続いてジャイアントダイアウルフに石が飛来する。

 

「ガァアアア!!」


 ジャイアントダイアウルフが口を大きく開くと、そのまま口で石を受けて噛み砕いてしまった。


 ――そんなんありかよ!?

 

 俺の攻撃などなかったかのように、そのまま突っ込んでくるジャイアントダイアウルフ。

 動揺から一瞬反応が遅れたが、ぎりぎりのところでなんとか体が動く。

 

「パリング!!」


 再び、ジャイアントダイアウルフの身体が横に逸れる。


 速度はあったが、単調な軌道だったため、なんとか受け流すことができた。

 その際、一撃を藤娘で叩き込むことも忘れない。

 どうせ、受け流しを失敗すれば即死だ。

 成功することを前提に動いても問題はない。


 手応えはあった。

 身体が鉄のように硬いということではなさそうだ。


 ただなー。

 なんか倒せるビジョンが見えないんだよなぁ。


 ダメージを与えられているのは間違いないはず。

 それが、微小すぎていつまでたっても倒せないのではという懸念が残るだけで。


 やべっ、ぞくぞくしてきた。

 面白すぎんだろ。

 悪いが、精一杯足掻かせてもらうぞ。

 

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