56 氷結の悪魔熊
ベリーベリーフリーズギュラベアーは俺目掛けて突進してくる。
そして俺はその猛進をするりと回避する。
そして剣を抜き、気合を込める。
そして足にも気を籠める。
そしてグンッと地面を踏み抜いて、氷悪魔熊に一気に距離を詰めた。
その際、剣を斜めに持ち、当てるように通過する。
氷悪魔熊は右手を斬られた。
右手の親指あたりから血が飛び散る。
そのあまりにも痛そうな傷だったので、俺は少しだけ目を瞑った。
だが、氷悪魔熊は直ぐに表情を直して、体勢を取り直して、俺目掛けて突進してきた。
そして破壊的な爪による攻撃を開始した。
荒ぶる爪が迫る、俺は横に跳び、そのまま直ぐにまた左に跳んで剣で斬りつけた。
咆哮をあげる氷悪魔熊。
そのまま俺はまた後ろに跳び、奴を挑発するように言い放った。
「こっちだ鈍間……てめえなんか俺一人で十分だ、こいよ俺がてめぇを細切れにしてやる」
俺は気を籠めた剣にさらに気を籠める。
そしていつもの俺の十八番を放つ。
六連連続斬り――構えは極自然に剣を構えてから、瞬間的に六連を決める勢いで我武者羅に斬りつけるイメージで行く。
俺は駆ける。そして剣を勢いよく振りぬく。
剣が踊り狂うように熊の体を引き裂いていく。
そして俺は氷悪魔熊なんかどうでもいいようにして、ミヤのところまで跳び、ミヤを見る。
出血は止まった。だがまだ意識が戻らない。
俺は彼女の安否を心配した。
そしてマホやリルも近づいてきた。
「当潜様!! ミヤさんは平気なんですか?」
「大丈夫そうだ……それよりもマホ、お前の回復魔法をミヤにかけてくれ」
「わかりましたです……リカバリ!!」
そうしてミヤが全快になるのを待っているとリルが話しかけてきた。
「当潜さん! あんなやつ私が何とかしてやるから、当潜は下がっててください!」
「いや、俺が行く……リルこそ下がっててくれ」
「どうしてですか?? あんなやつ僕の力があれば楽勝だよ……」
「まぁ、そうかもしれないが……今は俺一人でやりたいんだ,わかってくれリル」
俺はリルまでもあいつに痛めつけられたくなかった。
だから俺一人であの氷悪魔熊を叩きのめす。
そう考えたかった。
実際できるかわからないが、なんとかしてみようと思い、俺は一人で奴に向かって咆哮をあげながら突進した。
「おおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!! 熊野郎!! これで蹴りをつけてやるからなぁ!!!!! 行くぞ!! …………秘技、剣王斬!!!!!」
俺は刹那、一番の技を放った。
そして氷の悪魔熊は千切れた。
俺は剣に付着した血痕を拭うように剣を空中で勢い良く振った。
そしてマジックバックから手拭いを取り、残った血を綺麗に拭き取った。
◇◇◇◇◇
そして俺達は雪山を脱出して、次の階、四階に到着した。
ミヤはあのあと暫くして目を覚ました。
幸いほぼ怪我は無く、体力もマホの治癒魔法のおかげで全快した。
ミヤは自分の不甲斐なさに、自らを戒めていた。
「当潜……私は無力だ……こんな大したことのない敵にわたしは負けてしまって……くぅ、いっそのこと……」
と言い、ミヤが自らの剣を自分の喉元に突き当てようとしていた。
俺は超速の反射神経でミヤの腕を掴む。
そしてミヤの手から剣を叩き落とした。
「何を考えているんだ……ミヤ!!!」
俺は迫力のある声で、ミヤを恫喝した。
なんでこんな馬鹿なことを……
ミヤはたじろたじろになり、瞳を闇のような塊でもあるかのようにして、俺に話してきた。
「当潜、私は怖いんだ……もう帰ることもできない国にも、だからもう私には居場所がここしかないんだ。だからもう足手まといになったら……もう私なんて用済みだろ!? そうなんだろ! もう私はお払い箱なんじゃないのか!! …………もうみんなの足手まといにはなりたくないんだよ!! だから、だから死……」
俺はミヤの左頬を優しくだが、厳しくパーで叩いた。
パチンッ!! 鳴り響く衝撃の音。場の空気が凍る。
それでも俺はミヤを甘やかすことができなかった。
ミヤはどんな女の子かまだ完全に知らないが俺は旅の仲間として厳しくすることにした。
「なんで……そんなこと言うんだよ!! ミヤ、お前今自分がなんて言おうとしたかわかってんのか!!! 足手まとい? お払い箱? ああそうだなお前はうちではマホよりも足手まといかもしれない、っでもな、それはこれ、これはそれだ。なんでかなと俺は思うんだよ。そもそもそんなこと言ったらな、みんな足手まといだよ俺自身を含めてだ。だからなそんな悲観的なこと考えるなよ!!! お前はみんなの助けになってるんだよ。だからそんな顔すんなよミヤ……」
俺はミヤを抱き寄せた。そして頭を俺の胸に収めた。
ミヤは驚いたような顔をしていたが、直ぐに安心したように俺に身を委ねた。
マホとリルは空気を読むように、何も言わなかった。
なお周りは大自然に囲まれた渓谷のような感じだ。
魔物は何故か一切出なかった。
そして俺はミヤを抱き寄せたまま、次の階を目指していた。
「ミヤさんってあんな……ちょっと今までの旅の疲れが出たのかな?」
「わからない、僕は最近一緒になったからね。マホこそミヤのこと旅の仲間なのに知らないの?」
「うん。私も知らないです。そもそも過去のこととか一切語らないし彼女は」
「それはマホもでしょ。あんた魔法使いの里出身なんでしょ? なんで詳しく語らないの?」
「それ言ったらリルさんもなんで自分のこと話さないです?? お互い様ですなので」
とマホとリルが二人で内緒話をしている。当潜とミヤを後ろから見つめながら。
そして四階を長々と歩いた結果、やっと遠くの渓谷の頂の方で魔法陣が見つかった。
俺達は直ぐにそこを目指すと、特に魔物には出会わなかった。
そして次の階。五階に到達した。
そこは廃墟のような、町があるがどれもこれも崩れていてはいれそうにない。
そしてそのゴーストタウンの中央のほうで、何かが蠢いていた。
それは大きなカマキリのようなハエのような、いやカブトムシか? なよくわからない昆虫型の魔物が存在した。
「ギリギリィィィィィィリリリリリゴリャァァァァァァアァアアアア!!!!!」
その謎の昆虫型モンスターは俺を見るといきなり物凄い速さで突っ込んできた。
俺はミヤを後ろ手に放すと、直ぐに剣を抜き、臨戦態勢を取った。
そして六連連続斬りの構えをとり、俺は敵の方向に地を瞬足のスピードで駆けて立ち向かった。




