【第二話】僕、ストーカー始めちゃいました♥
「寺田くん、おはよ。」
「・・・・・。」
「ねぇ、京介って呼んでもいい? いいでしょ?」
「マジ、うざいって。」
「あ!喋った! でも僕、京介と友達になりたいか
ら「うざい」って言われても諦めないよ?
だから。友達の第一歩として、今日から一緒に行
動しようと思ってさ。 いいでしょ?」
あ……行ってしまった。ちょっと、いきなり過ぎたかな? 実はテレてるとか?
まぁでも、京介って呼べるようになったし、今日の目標はクリアだね。
しかし。 一日中、京介に付きまとった優太だが進展どころか口さえも聞いてもらえないのであった
翌日。優太はいつもよりも早く登校すると、ある人物を待っていた。その表情からは、緊張の色が窺える。
来た!
気合を入れた優太は、トテテとその人物の元へ向かった。……そう。京介の隣の席をゲットする為に。
そのクラスメイトの席は、廊下側から二番目の一番後ろであった。が、優太の席は窓際の一番後ろであった為、快く代わってくれたのだった。
思い通りに事が進み、機嫌良く席へ戻ろうとした時だ。そのクラスメイトは、有ろう事か「お前、物好きだな。」と鼻で笑ったのだ。
京介の事が気になる前であれば、自分も同じ事を言っていたかもしれない。
しかし、優太はムッとなった。ムッとなったが代わってもらった手前、強気に出る事が出来ない。
「意味がわからない。」と言いたげなクラスメイトを無視して席に着く。そして10センチ程、机を近づけて京介が登校して来るのを待ったのだった。
「あ!京介おはよ〜。見て見て!席代わってもらっ
ちゃった。僕あんまり勉強得意じゃないから、わ
かんないとこ教えてよね。」
京介は明らかにおかしい優太の行動にツッコむどころか、表情一つ買える事なく席に着くと、そのまま音楽を聞き始めるのだった。
イヤホンから音が漏れている事から、かなりの大音量である事がわかる。
これ程までに『俺に構うなオーラ』を放っているにも関わらず、優太は土足でズカズカと踏み込んで行くのであった。
「何、聴いてるの?」
京介は何の反応も示さなかった。大音量で聴いているのだ。そりゃそうである。
優太は少し天然風(KY気味)ではあるが、そこまで馬鹿ではないので、京介の左耳からイヤホンを外すと、もう一度天使のような笑顔で問いかけた。
「何、聴いてるの?」
問いかける優太の方に、顔を向ける事もなくイヤホンを取り上げると京介は再び音楽を聴き始める。天使の笑顔など全くの無意味であった。
優太はそんな事はお構いなしに京介の机に肘を着くと、目を閉じて曲に集中している京介の顔を、
じっと見つめ始めたのである。
普段は狐みたいな顔してるのに、目ぇ瞑ると可愛くなっちゃった。
こういう時は「意外に睫毛長いんだ」とかなるけど、睫毛の長さは普通だねぇ。
でも、唇の形が可愛い。 ぽってりしてもなければ、薄くもなければ、至って普通の唇なんだけど。何か可愛い。
触ってみたいなぁ〜。でも、いくらなんでもそれは早いと思うし。ん〜。………ほっぺだったらいいかなぁ?
ぷにっ♥
ありゃ?出て行ってしまった。怒らせちゃったかな? でも、びっくりした京介を見れたもんね。
京介の新たな一面か。何か、すごく嬉しいかも。
優太が一人『京介への思い』に耽っている頃、
京介は足早に屋上へと向かっていた。
「ふぅ……。」
屋上に着くなり、壁に凭れ掛かると深いため息をついた。
その原因はここ一ヶ月の優太の不審な行動である事は明白であるが、遠くを見つめる京介の心の中には、本人さえも持て余す程のどろどろとした感情が渦巻いている。
それを振り払うかのように、京介は再び音楽を聴き始めるのだった。
そんな事など全く知らない優太は、あと10分後にある昼食の時間をウキウキしながら待っていたのである。
キーンコーンカーンコーン
終わった終わった。京介、午前中の授業出てなかったけど大丈夫なのかな?
てゆーか。京介、何食べるんだろう?今日も親子丼かな?それなら、僕も親子丼にしようかなぁ〜。
優太が食堂に着いた時、京介は既に食事中であった。優太は急いで親子丼を注文すると、当然のように京介の隣に座ったのである。
「授業さぼっちゃダメだよ?」
「・・・・・。」
「 京介って親子丼好きだよね。何で親子丼ばっか
り食べるの?そんなに美味しいの?僕食べた事な
かったけど、京介と一緒のが食べたくて今日は親
子丼にしちゃった。
あ!あとカーテンはした方がいいと思うよ?外
から丸見えだし。僕はその方が嬉しいけど。でも
他の人には見せたくないし。ん〜。複雑♥」
優太の言葉に京介はピタリと手を止め、ゆっくりと顔を上げると優太の方を見た。
その表情は「何で知ってるんだ?」とでも言いたそうだったが、すぐに下を向くと何も言う事なく、再び親子丼を食べ始めるのである。
ウソっ……京介がこっち向いた!
てゆーか、めっちゃ「フーフー」してる。
「京介って猫舌なの?めっちゃ「フーフー」して
可愛いね。」
京介は猫舌である事を気にしていたのか、可愛いと言われた事が気に食わなかったのか、まだ熱い親子丼を一気に口の中へかけ込んだ。
「はふはふ」している京介を、ニコニコしながら見ている優太。
それはまるで恋人同士のようで、傍から見ると微笑ましい光景であった。
しかし、明らかにおかしいという事は、今の優太にはわからなかったのである。『恋は盲目』とは、まさにこの事だ。
親子丼を食べ終わり、さっさと食堂を出て行った京介の後姿を見届けると、優太はゆっくりと食べ始めた。
親子丼の味は、京介がよく食べているだけあってなかなかの味ではあったのだが「京介が好きな物を食べている」というスパイスが、親子丼の味をより美味しく感じさせたのであった。
京介、どこに行ったのかなぁ?
食事を済ませた優太は、京介の姿を捜していた。そして、屋上で寝ている京介を見つけたのである。
カシャッ!
京介は、耳に入ってきたシャッター音に敏感に反応した。勢い良く起き上がり、そして優太を睨みつけたのである。
「消せ。」
「え〜。何で〜?」
「つか、お前何なわけ?」
「ん〜? 京介の友達だけど?」
「お前と友達になる気ねえから。
俺の事はほっとけ。」
京介はそう言って寝転ぶと、優太に背を向けて静かに目を閉じた。
「……僕の最終目的は、京介の彼氏の座だから。
僕、京介の事が好きだから。
絶対、諦めるつもりないから。」
それだけ言うと、優太は頬を真っ赤に染めながら屋上を後にした。
京介は優太がいなくなった事を確認してから、ゆっくりと体を起こすと深いため息を吐く。
そして、誰にも聞き取れない程の小さな声で呟いたのだった。
「俺の事が好き?そんな事はあるわけねえだろ…」
【第三話】へつづく




