第7話「黒い影」
「では、各国も了承済みだという事ですか?」
水無月 小夜子は、端整な唇を少し曲げてそう言った。
「そういう事になるかな。F国に力を奪われるくらいなら、我々の監視がついていた方が良いという見解なのだよ。よく言えば我々の国は信頼されている、悪く言えば舐められている・・・・・そういう事だな・・・・」
「特にキリスト教圏では騒ぎが大きいと聞きますが、それも関係しているのでしょうか?」
「君が詮索するべき問題ではないと思うが・・・・・・ね。」
「は、失礼しました。」
「君のこれからの任務はリューヤ・アルデベータの護衛と監視だ。彼らがF国に行くというならば君も行きたまえ。F国もしぶしぶだが了承している。」
「紫炎・・・・・矢口 涼子は、F国にはいかないそうですが・・・・」
「既に報告は聞いている。そちらの件は問題ない。彼女の監視には他の適任者をあてる。君は、リューヤ・アルデベータの身の安全を守りながら、最悪F国の勢力に彼が取り込まれるようなら彼を抹殺する事だ。・・・・リューヤ・アルデベータに破れたらしいが、出来るかね?」
「同じ目晦ましを再び通用させる気はありません。」
小夜子は凛とした瞳を部長に向け、そう言った。
「ならば、頼むぞ。」
「は!」
「行きたまえ。準備は全部整っている。」
「は!」
水無月 小夜子はそう言って敬礼し、部屋を出て行った。
その直後、部屋の明かりが消える。
部屋に一人残った部長はビクっとした。
「中々の名演でしたよ。山口部長殿。」
部長一人しかいない部屋の中で別人の声がした。
「君に言われるまでもなく、我々も最善を尽くすさ。」
山口は静かに言った。
「私の指示がなくてもあなたは、小夜子をリューヤに同行させたと?」
「そうだ。」
山口は力強く答えた。
「あなたの考えている事は分かっている・・・・・予知を外させたリューヤの力を成長させ、我々に抵抗させようというのだろ?」
「そんな事は考えてはおらんさ。」
「ふふふ・・・・安心するがいい。リューヤには成長してもらう。今の彼では役不足だからね・・・・・」
「お前達は一体何を企んでいる?」
「君達に知る権利があると思うのかね?たかだか、国という概念に縛られる君達に・・・・・」
「どこの国の者でも、多少は国という概念に縛られるものだ。」
「せいぜい協調してみるがいいさ。君達の悪足掻きを楽しみにしているから・・・・・・・」
その声を最後に、山口の周りから気配が消えた。山口はハンカチを取り出し、額に流れる汗を拭った。




