第6話「4人目のα能力者」
「仮に俺達があんたについて行くと言ったところで、そうすんなりとここを出れるかな?」
リューヤは静かで力強い声でそう言った。ビルヘルミナ・レイナードは輝かせた瞳を閉じ、軍人らしい冷めた目付きに戻った。
「問題はそこだわ。あなた方が自国以外のどこかの国と接触を持てば、ここを見張ってる連中の一部は過激な行動に出るでしょうね。」
「いや、あんたが俺達に接触する事で、既に他の連中も動き出しているさ。特に日本人ならこの教団に入り込む事もたやすい・・・・そうだろ?紫炎?」
リューヤは意味ありげに紫炎の方に目を向けた。
「・・・・そうですね・・・・今も物陰からここを盗聴している者もいます。」
「それで、どうするつもり?返事を聞きたいわ。」
ビルヘルミナ・レイナードは、軍人らしい厳しい目を二人に向けた。
「ビルヘルミナさん。我々もF国の思い通りにする訳にはいかないのですよ。」
開け放たれた講堂の扉の向こうに、20歳くらいの日本人の女性が立っていた。
「誰?」
ビルヘルミナがそちらを向いて言い放った。
「水無月 小夜子・・・・表向きはこの紫炎教の信者、本当の身分は内閣調査室特別部隊の、部員よ。」
水無月 小夜子と名乗った女は漆黒のロングヘアーをたなびかせ、凛とした表情を3人に向けた。
「只者じゃないとは思っていた・・・・・紫炎は知っていたんだろうが・・・」
「泳がせて置いた方が実害が少ない。そう判断しての事でしょう。」
小夜子は静かにそう言い、紫炎は沈黙で答えた。
「我々が接触を持つ事を聞いて、あなた達も黙っていられなくなった?そういう事かしら?」
ビルヘルミナは刺すような視線を小夜子に向けた。
「こういう事は早い者勝ちという訳にはいかないもの・・・・彼らを今日本から出すわけはいかないの。」
小夜子はあくまで冷静な口調だった。
「俺は、好きな時に好きな所へ行く・・・・・止めたければ腕ずくでやるんだな。」
リューヤはあえて挑発するように言った。小夜子の体から滲み出るオーラが、リューヤを挑発的にさせていたのだ。
「そうさせてもらう・・・・」
小夜子が懐から短剣を抜き出した。
「殺してでも止める?そういう事か?」
リューヤも懐中から銃を取り出した。護身用の銃の為、口径も小さく装填できる弾数も少ない。今、銃に装てんされている弾の殺傷力は小さかった。模擬弾に近く、人を殺す程の殺傷力はない。
「知ってるかもしれないが、この銃の殺傷力は低い。当たっても死ぬ事はないだろうさ。」
小夜子は静かに短剣を構え、ゆっくりと口を開いた。
「こんな実験を知っているかしら?発射された拳銃の弾と日本刀では日本刀の方が強い。そこそこの刀で、3〜5発の弾を受けれるわ。同じ場所で受けなければ、耐久力はもっと上よ。」
「それも、拳銃の弾を見切る腕と、それを支える筋力があっての話だろ?そんな人間は多くはいない。」
リューヤと小夜子の間に緊張感が走る。静謐な空気が二人の殺気を受けて放電をはじめる。意を決した小夜子の口が開く。
「でやああ〜〜〜」
小夜子がまっすぐリューヤの方へ向かって走った。リューヤが銃を放つ。
信じられない事に、小夜子は拳銃の弾を切って弾道をそらした。破片が小夜子の頬をかすめ、血が流れ落ちる。
やはり、能力者か
リューヤがそう思った時には、小夜子はリューヤの懐に入り込み、短剣をリューヤの首筋にあてていた。
「チェックメイトよ。」
どこかで聞いた台詞だった。ミハエル・コーターと最初にあった時に聞いた言葉だ。だが、あの時とはリューヤも違っていた。小夜子は、左から来る弾丸の気配を感じ、サッと飛びのいた。
「α能能力者か・・・・・一体、世界に何人こんな能力者がいるってんだ!!!」
リューヤは叫び、また、弾丸の気配を小夜子に向けた。小夜子がかわす方向へリューヤは移動し、小夜子の後頭部に銃口をあてた。
「チェックメイトだ。」
リューヤが口にし、小夜子が剣を捨てる。
「私の負けだ・・・・だが・・・・日本から出国は出来ないよ・・・・」
「あんたが、見張りでついてくればいい。俺は、この世界で何がおこっているか知りたい・・・・リーンにとりついていた存在の事も、俺達、α能力者が何故この時期にこんなにいるのかも・・・・・」
「それを知ってどうするの?」
「リーンの裏にいた、あいつらをこの地球から追い出すのさ。」
リューヤは静かで力強い口調で言った。