第5話「静かな声」
「紫炎・・・・あんたはリーンが死ぬと言った・・・・それは、あんたが関与したからこそ・・・・・そういう事か?」
リューヤは静かな視線を紫炎に送った。紫炎は相変わらず無表情のまま、リューヤの視線を受けている。
「私の調べた限りでは」
紫炎の答えを待たずビルヘルミナが口火を切った。
「他国の「予知者」達も、リューヤ・アルデベータの死とリーン・サンドライトの暴走を予知していたわ。違うのは紫炎・・・・あなたの予知だけ・・・・そして、あなたの予知だけが当たったわ。世界の破滅が予言されている中で、この事は凄く重要な意味をもつわ。」
紫炎は相変わらず、静かに聞くだけで、何も答えようとはしなかった。
「世界の破滅なんて俺にとってはどーでもいいんだ。あんたが、俺にリーンを殺させるように仕向けた。それが事実か、俺は知りたい。」
紫炎が顔を上げ、掲げられた明かりの方を見詰め、静かに口を開いた。
「あなたが行かなければ、リーン・サンドライトは自分の意思を持たない「闇の物」の操り人形となっていたでしょう。それを生きていると言うのならば、あるいは私が関与したせいでリーン・サンドライトは死んだのかもしれません。」
ビルヘルミナが間に入って言った。
「そうね。私が知る限り、リーン・サンドライトは恐ろしい破壊の使者になるところだったわ。こう言ってはなんだけど、リーン・サンドライトのせいで何千何万の命が失われるところだったわ。それを僅かな犠牲で止めれたのだから、文句を言うのは筋違いだと思うわ。」
「そうだな・・・・あの時点ですら死者は50名を超えていた。重軽傷者に至っては1000名を超える。例えリーンが元に戻った所で、ろくな結末は待っていなかったろうさ・・・・・・だが・・・・・俺の手でリーンを殺させたのなら、それは許せない。」
「無茶を言わないで、リーン・サンドライトは核以上の能力を手に入れていたのよ。特殊な能力を持ったもの以外、誰が止めれたというの?」
ビルヘルミナは紫炎をかばった。だが、紫炎は落ち着いた様子のままリューヤに応えを発した。
「よいのです。リューヤ様が、私を責めたくなる気持ちは充分すぎる程分かりますし、私ももっと出来た事があるはずだと、悔いています。」
「分かってるさ。誰にもどうしようもなかった。あんたはあんたで最善と思える事をやったんだ。俺が記憶を失った事。それが致命的だった。そうなんだろうさ。」
「私から申し上げれる事はありません。リューヤ様も出来る限りの事はやったはずです。最善に近い選択肢を選んだとしても、運命を変えるなどという大それた事はやはり難しいのかもしれません。私には分からない・・・・・。」
紫炎は明かりを見詰めながら静かに答えた。
「そうだな。誰が誰を責めようとも過去は変わらない。そして死んだ人間は決して生き返らない。それだけは事実だ。あんたも責任を感じている。それは俺にも分かってるんだ。」
リューヤは少し落ち着きを取り戻し、強い口調でそう言った。
「いい覚悟ね・・・・・。さすがはα能力者。そこで本題に入りたいのだけど・・・・」
ビルヘルミナはまた、一拍置いた。もったいぶった喋り方をするのが癖になっているのだろうか?リューヤはそう考えた。
「あなた達に我々の国にきてもらいたいの。」
ビルヘルミナは透きとおった青い目を輝かせ、リューヤと紫炎を交互に見詰めた。