第3話「予知者」
「その力を狙う連中がいるって事か・・・・・」
「それだけではなく、あなたと協力し合おうという人達、あなたを利用しようとする人達もあなたに接触を求めてくるでしょう。」
リューヤの呟きににた声に、紫炎は静かに答え、続けた。
「既に、私の所にもあなたと引き合わせるようにと、幾つかオファーがありました。」
「俺を売る気か?」
リューヤは疑い深げに言った。
「そのようなつもりは毛頭ありません。ですが・・・・・あなたに必要であると思われる人物には引き合わせます。」
「俺は、そんな面倒な事はしたくない。」
紫炎は目を伏せ、静かに力強く言葉を発した。
「前にも言ったかもしれませんが、あなたは世界に関わる非常に強い運命の中にいます。リーン・サンドライトの時のような悲劇は繰り返されるべきではない。そうは思いませんか?」
「それはそうだが・・・・・俺が世界の命運に関わるというのがどうしたって信じられない・・・・アレクシーナ様ならば分かるけど、俺の三文能力を当てにする連中がいるとはどうしても信じられない・・・・・・」
「ならば、御自分の目と耳で確かめられるといいでしょう。」
紫炎がそう言うと同時に、リューヤの後ろの扉が開いた。鈴と鋼がおり、その間に一人のブロンドの髪の女が立っていた。
「このお嬢ちゃん達が扉を開けてくれたけど、お邪魔してもよろしいのかしら?」
ブロンドの髪の女は鈴と鋼に一瞬目をやり、その後に紫炎に目を向けた。
「どうぞ・・・・今話していたあなたに接触を持ちたいという人の一人です。名は・・・・」
「ビルヘルミナ・レイナード、F国所属の仕官よ。」
ブロンドの髪の女はそう言った。目鼻立ちの筋がクッキリとした彫りの深い美女だった。
「俺は、リューヤ・アルデベータ・・・・」
「知っているわ。リーン・サンドライトの暴走を止めた男・・・・違うかしら?」
「暴走したのはリーンじゃない・・・と言ってもあんたには信じられないか・・・・」
「いえ、信じるわ。リーン・サンドライトにおこった現象はあなたの国だけのものではないわよ。世界中で「悪魔」や「天使」という存在が動き始めているわ。私の国でもね・・・・・・・・・・」
「どこもかしこもβ能力者の研究をやってるって訳か・・・・・・それは天罰でも降るだろうさ。」
「お言葉だけど、実害が出たのは今の所あなたの国だけよ。」
ビルヘルミナは、取り澄ました顔でそう言ってリューヤを少し苛つかせた。
「それは結構な事だ。うちの国も俺個人もその爪跡でボロボロさ。用件があるならまた今度にしてくれないか?」
リューヤは冷たくそう言い放った。だが、それには嘘も含まれていた。クライ王国はアレクシーナの善政により、前にも増して栄えている。
「ビルヘルミナさん、何故あなたを含め多くの機関がリューヤ様やアレクシーナ様に関わらなければならないか・・・・・・それを説明して差し上げてははもらえませんか?」
紫炎が少し大きめの声で割って入った。
「俺は聞きたくないんだが・・・・・・・」
リューヤが拗ねたような素振りで言う。
「いえ、聞いてもらわないと困るわ・・・・・・最初はどこの国でも正確な予言をする奇妙な予知者が生まれたと喜び、また、その予知にも悲しんだりしていたわ。正確な予知者を持った時の普通の人間の普通の反応ね。もっとも、どこの国にとってもトップシークレットだった為、お互いの予知をすり合わせる事がなかったの・・・・・ところが・・・・・実はそれらの国の全ての予知者・・・・・厳密には悪魔憑き?天使憑き?かしら?は、近い将来の世界の滅亡を予言している事が分かったわ。」
リューヤの背筋をスッと冷たいものが走った。