第15話「小夜子の意思」
「日系でも我々の組織に入れるのだな・・・・・」
白人の男がそう言った。
「そういうな、我々の活動を支援して下さってるアルフレッド家のたっての頼みだ。」
「元、軍人だそうだ。この国の体制が嫌になったんだとさ。それで、グループを立ち上げたがうまくいかず、我がグループに入り、現体制派に天誅を下したいのだそうだ。」
「我々のバックアップが目当てか・・・・・理想的なのは我々優良種族のみで支配階級を築く事だが、その為には現体制派を切り崩さなければならない。その為には劣等種族であろうと利用すればいい・・・・・」
「ザルマ様の受け売りか?」
「そうだ。あの方の言われる事は理に適っている。」
「連中が政府の手先って事はないのか?」
「その為に三人の面通しだそうだ。」
「政府の手先ならそこで始末される。そういうわけか・・・・」
「まあ、あの方にはどんなに訓練を積んだ者でも無力だからな。」
白人二人はそう言って笑った
・・・・・こんなに早くチャンスが来るとはな・・・・・
「こんなに早くチャンスが来るとはな。」
リューヤの考えを読んだ様に西城が言った。廃墟となった病院の待合室でリューヤ達は待たされていた。
「余程の自信家か、ザルマの能力というのが偽物か・・・・・どちらかだな。」
小夜子は油断しない目でそう言った。
「高レベルα能力者二人を相手に勝てるという計算か?ありえねーだろ。」
「さあな、リーン・サンドライト並みの力が使えるなら・・・・・」
「それでもリューヤは勝ったぜ。」
「・・・・・油断は禁物だ。」
小夜子は鋭い目で下を向いたまま言った。
「まあな。」
「し!来るぞ・・・・」
一人の彫りの深い男がコツコツと足音をたててリューヤ達三人の前に現れた。
「ザルマ様の準備が出来た。入れ。一号診察室だ。」
「三人一緒なのか?」
小夜子が不審気に聞いた。
男は見下すように鼻で笑い。口を開いた。
「三人一緒でなければ意味がないそうだ。」
・・・・・罠か・・・・・
「分かった。すぐに行く・・・・・」
小夜子が先頭に立ち、西城がリューヤの後に続いた。前方後方から不慮の事態が起こってもリューヤを守れるようにだった。
小夜子が扉を開け、最初に入る。続いて、リューヤと西城が入る。
「ドアを閉めたまえ。」
暗闇の奥から声がした。西城が用心深く扉を閉める。いざという時に逃げれるように鍵はかけない。
「さて、君達の死刑を始めよう。」
先程、前方から聞こえていた声が突然背後から聞こえた。
三人は、バッと前方に飛び転がって、構えた。
リューヤの足元に何かがあたる。感触に覚えがあった。
「とりたまえ、君達と私の技量がどれ程差があるか、教えよう。」
男はそう言った。小夜子の前には刀、リューヤと西城の前には拳銃が置いてあった。
・・・・・我々の転がる方向を予測していた?・・・・いや・・・・・・分かっていたのか・・・・・
小夜子の背筋に寒気が走る。それを払うように小夜子はザルマと思しき影に切りかかった。刀は空を斬る。
・・・・・・消えた・・・・・・
人が動く時に発される気の走りすら見えない。
「あんた、ザルマさんか?」
リューヤの声が部屋に響く。
「そうだ。私がザルマだ。この世の悪しき種を破滅させ、優良たる種を生かす使命を負った者だ。」
「今やってる事がか?」
「ふふふ、さすがリューヤ・アルデベータ。少しは分かっているようだな。」
「本当の望みはなんだ?」
「優良種を残し、劣等種を排除する事。これ以上の望みが生物にあるというのか?」
「アルネシアはその為の駒か・・・・・・」
「何言ってやがる、そんな事はアルネシアのやり口見てりゃ分かるだろうが、今更何言ってんだリューヤ。」
西城の言葉に小夜子が答えた。
「こいつの目的は人類の進化・・・・・・ようするに、能力者による新世界の構築だ・・・・・・アルネシアの構成員ですらこいつにとっては始末するべき存在なのさ・・・・・リューヤはその事を確認したのさ。」
「さすが、日本の誇るα能力者エージェント水無月 小夜子。見事な解答だ・・・・・。どうだね、真の意味での我々の仲間にならないか?」
「我々?」
リューヤが声をあげた。
「・・・・・ふん・・・・・誰がお前らの仲間になどなるか!・・・・・人類が進化しなければならない定めと言うなら、自然が淘汰する・・・・・我々能力者の感知すべき事じゃない。」
小夜子は吐き捨てるようにそう言って、剣を握る手に力を込めた。