第13話「リューヤの断罪」
「何がなるほどなんだ?」
リューヤが目ざとく西城の言葉尻を捉えた。
「いや、お前らがそういう考え方をするのを聞いてそうかと思っただけだ。他意はねーぜ。俺は超能力だの悪魔だのなんてオカルトはどーも苦手だ。お前らみたいに、科学的には考えねーで全部いっしょくたにしてたんだよ。インチキか恐ろしい力か、一般の人間にゃその程度の認識しかねーもんだ。」
西城は悪びれずにそう口にした。
「実際にある物を、常識とかいう物に縛られて存在そのものを否定するのは馬鹿げた事だ。少なくとも私やリューヤはそれらの能力を実在するものとして捉えざるをえない。実在するのなら、証明できないまでも論理的仮説は立てられるはずだ。」
小夜子の目線あくまで下げられたままだった。
「西城、それとは別に・・・・・・俺はお前に聞いときたい事がある。」
リューヤが全ての作業をやめて西城の瞳を見据えた。リューヤは西城に聞くべき事を思い出していた。小夜子とビルヘルミナの視線がリューヤに向く。
「想像はつくがな・・・・・・恐らく答えられんぜ・・・・・・・・」
「それは、小夜子やビルヘルミナがいる場所では無理という事か?それとも俺には言えないという意味か?」
西城は困ったといった表情をして腕を組み、リューヤの鼻の辺りに視線を移した。
「そのどちらでもねーな。いや、まあ、そういった事情も加味されるかも知れないがそれ以前の問題だ。」
「聞きたい事が分かるのか?」
「俺達の記憶の喪失の事だろう・・・・・・違うか?」
「俺達?」
「違うんならいいが・・・・・」
「俺達って事はお前もあの宝珠の山の事を覚えていないのか?」
「そういう事だ。アレクシーナ様に正確な報告をする時には綺麗さっぱり忘れてたのさ。その前日までは覚えていたはずなんだ・・・・・・だが、きちんと報告しようと思った時にはきれいさっぱり忘れていた。手紙がなけりゃ夢だったって訳だ。」
「A−3に残した俺への手紙は覚えているのか?」
「ああ」
「心配いらないと言っていたが・・・・・・・」
「そうだな。その時はそう思ったんだ。」
「リーンは死んだ。」
リューヤはそう言ってから、唇を噛んだ。
「残念だったな・・・・・本心からそう思うぜ。」
リューヤが西城に飛び掛り、西城の背広を破れそうになる程強く掴んだ。
「何が心配いらないだ!お前らが泰然と構えてる間に、事は進んでリーンは死んじまった!」
リューヤの目には涙が浮かんでいた。
「すまない。」
それが八当たりだと分かっていても、リューヤは自分の感情を押し留める事が出来なかった。紫炎の言葉によれば、記憶に封鎖を掛けたのはリューヤ自身であり、その結果にもっとも重い責任を持つのが自分自身である事を頭では理解していた。だが、最愛の者を失った悲しみと怒りは行き場を求めて常にリューヤの中を駆け巡っていた。
西城にもその悲しみは痛いほど分かった。だから、西城はあえて反撃にうつらなかった。
リューヤはスッと西城の胸元から手を引いた。
「あんたに謝ってもらっても仕方ない・・・・・これは、俺と「ヤツラ」の問題なんだ。」
リューヤは西城から目を逸らし、残る2人とも目線の合わぬ方向に視線を移した。
「だが、リューヤ、俺達に関与してるのは「悪魔」だけじゃねーそれも事実だ。俺達の記憶を消した存在。いや、お前は別かも知れんが、俺達に何かを教えた存在。そういった存在もいるって事だ・・・・・・・・」
西城は襟元を正しながら静かに言った。リューヤを励ますつもりだった。
「神か・・・・・・・」
小夜子が呟いた。リューヤはその言葉に過剰に反発する。
「 「神」だと?「神」がいるなら、何故リーンは死んだ。何故、連中の存在を許す・・・・・・俺達人間をおもちゃにしてるってのかよ!」
「「神」が全能でないか、他になんらかの意味があるか・・・・・・私達に知るすべはないわ。定められた運命の中で必死に足掻く以外、私達に出来る事なんてない。」
この部屋に入ってビルヘルミナが初めて口を開いた。
「あんたらも薄々気づいてるんだろ。予知が出来るって事がどういう事か。」
リューヤが吐き捨てるように言った。
「全ての未来は決まっていて、我々はその上をなぞっているに過ぎない。そういう事だろ。」
小夜子が静かに言った。「神」とやらがあざ笑っているようだった。いや、少なくともリューヤにはそう聞こえた。
「上等だ!俺はリーンを死なせた存在を許さない。「神」だろうが「悪魔」だろうが絶対に償わせてやる!」




