第12話「物理限界」
用意さた部屋はスイートルームで、ベットは四つ用意されていた。
「引き受けるつもりなのか?」
荷物を置くリューヤに小夜子が静かに言った。
「分からないな。言われた通り一週間は観光して考えるさ。」
「引き受けるべきだと、私は思わない。」
ビルヘルミナもいるにも関わらず小夜子は続けた。
「連中はザルマとかいう男が、「悪魔」と手を結んだと言った。俺はその「悪魔」とやらの正体が知りたい。そう言った筈だ・・・・・」
「調査を続ける気なら、もっと安全な「悪魔」とやらに憑かれたβ能力者を相手にした方がいい・・・・・・」
そう言った小夜子の言葉に西城が続けた。
「俺もそう思うぜ。言っちゃ悪いが、リューヤ、お前は人類にとって重要な駒だ。出来れば危険な目にあわせたくねーな。」
ビルヘルミナは自国に不利になる二人の言葉を黙って聞いていた。
「お前らの方こそ勘違いしてる。β能力者は前みたいに安全なものじゃない。一瞬で本来のβ能力以外に、α能力、それも通常では考えられないような能力を発揮する危険な存在に変わってるんだ。安全に見えるのはみてくれだけだ。最初から危険と分かってる方がやりやすい。」
「リーン・サンドライトに関する報告書を見たが・・・・・・」
小夜子がベットに腰掛、視線を床に落としたまま言葉を発した。
「あれを、本来の意味でのα能力と呼べるのか?」
「α能力は、銃弾を避けたり手も触れず物を動かしたりする物理限界を超える能力を指すんだから、α能力でいいだろうが、それがどんなに巨大でもな・・・・・・・」
西城が言った。小夜子が続ける。
「だからおかしいのだ、今までのα能力と言えば、あくまで、人間その物の動きを補佐する物に留まっていたはずだ。あんな爆発的な力を発揮できるのはどう考えてもおかしい。人間の肉体に蓄積されているエネルギーを大きく超えてる。ありえない・・・・・・」
「それは、悪魔とやらが力を貸してるからだろ?別に不思議な事じゃねえじゃねえか。」
「つまり、こういう事か・・・・・」
リューヤが荷物を纏める手を止めた。
「リーンが兵士を吹き飛ばしたり銃弾を弾いたりするエネルギーは、あくまでも物理的エネルギーだ。にも関わらず、リーンがそれによって酷く衰弱した様子はない。リーンは「核よりも恐ろしい力を手に入れた」と言っていたらしい。そこまでの物理的エネルギーをどこからどうやって調達しているのか分からない?そういう事か?」
「そういう事だな、β能力の本来の意味は予知や透視などの時空限界を超える能力のはずだ。にもかかわらず物理的法則に従ったエネルギーを放出している。仮に「悪魔」が協力しているとしても、エネルギーの供給がなければ不可能だ。「悪魔」正確に悪魔と呼ばれてきた存在かどうかは知らないが、連中がそこまでの物理的エネルギーを持っているならば、なぜ、あくまでβ能力者にとりつく形をとる?やりたい事があるならば、自らの物理的エネルギーを利用し空気を振動させ実音・・・・・声を流し、自ら神をきどってやりたい事をやればいい。」
「β能力者にとりつく意味がないと・・・・・・・?」
「そういう事だな。」
「それだけの力がありながら、何らかの事情があって出来ないのか・・・・・・「悪魔」にとってはゲームに過ぎないのか・・・・・」
リューヤはそう言った後、リーン・サンドライトの最後を思い出した。
リーンはゲームの為に死んだと言うのか・・・・・・・
「その謎を解く鍵がお前なんだ。そして紫炎・・・・・・・・」
リューヤが悲壮な考えにとり憑かれているのを打ち破るように小夜子が言った。
「・・・・・そういう事か。なるほどな。」
西城は一人分かったように頷いた。