第1話「不穏な気配」
過激な表現等があります。あしからず
あれから3ヶ月が経ち、リューヤの心は少しだけ回復していた。リーン・サンドライトを失った悲しみがあまりに大きかった為、リューヤの心はそれを奇妙な形で受け入れ始めていた。
リューヤは、リーンが死んだという事実を受け入れてはいたが、それを実感として感じれない状態が続いていた。いつかひょっこりと帰って来て笑顔を見せるのでないかと、そんな気持ちのまま、リーンの死を中途半端な状態に置いていた。
食事はとるようになり、紫炎教の信者に混じって訓練を行うようにもなっていた。一人でいればリーンの事を思い出し、堪らないきもちになるので、多人数の訓練に混じって気持ちを晴らしていたのだ。
戦闘訓練の中で面白いと思ったのは「合気道」という日本特有の武術だった。相手の力を利用しそれによってダメージを与えるというその技術体系は素晴らしい物だった。その技術を実戦で使うには、凄まじい技術と能力が必要である事は見てとれた。余程LV差が無い限り不可能と思える技も数々ある。それでもリューヤは、それを必死で覚えた。リーンの事を忘れようという気持ちもあったが、紫炎教本部を取り巻く異様な気配が、リューヤに一段高い技術を身につける事を強要していた。
合気道の上級の技は、その殆どが約束事のうちにしか出来ない(LV差が大きければ別だが)ようなものばかりだった。だが、リューヤには事前に相手の動きや気配を読めるという強みがあり、それを実戦レベルで身に付ける事に成功した。
「リューヤ様」
「紫炎様が」
「お呼びです。」
訓練に明け暮れるリューヤに唐突に鈴と鋼が言った。その声を聞いて、 リューヤは訓練を止めタオルを取った。
「すぐに行く。」
リューヤは汗を拭きながらそう応えた。
「クライ王国のα能力者リューヤ・アルデベータは日本の紫炎教本部に潜伏している模様です。」
ブロンドの髪の長い女が、大仰な椅子に座っている軍服姿の男に対してそう言った。男の胸には幾つもの勲章がぶらさがっている。男は将軍といったところだろうか?代わって女の軍服には、少尉を示すバッチが輝いていた。
「ふむ。それで、リューヤ・アルデベータとは接触出来そうかね?」
老境に入ろうとする将軍は、物静かな調子でそう言った。
「は!可能であるとは思われますが、我々以外にも紫炎教を監視している機関がおります。その機関の目を盗んでは難しいかと・・・・」
「構わんよ。我々の目標の第一段階としてはリューヤ・アルデベータと接触する事だ。どこにも知られぬに越した事はないが、シエンやリューヤ・アルデベータ、リーン・サンドライトの事を既に知っているものに知られた所で大局に変化は無い。」
「は!」
「ついては、君に日本へ直接飛んで欲しい。」
男はあくまで落ち着いた調子で言った。
「は!」
「私の意を知る者にリューヤ・アルデベータと接触してもらいたいのだよ。君は私の秘蔵っ子だ。頼むぞ。」
「分かりました。お任せください。」
ブロンドの髪の女はそう言って敬礼した。