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入り乱れる策謀 ザイラス

アトラスの側近ザイラスの視線で、物語がややさかのぼる。

 寡黙だが周囲の変化に良く気がつき、性根も父親譲りで肝っ玉がすわっている。アトラスの傍らに侍り、将来の王をもり立てる人材としては申し分がない。

 ザイラスはルージ王リダルが自分にそんな期待をかけていることを自覚している。ただ、その期待の大きさの割に、ザイラスには見るべき家系はなく出自は卑しい。リダルが遠征している時代にリダルに付き添った従卒の一人が勇敢さで比類が無かった。その男がある戦でリダルを守って戦死した。リダルはその男の息子ザイラスを取り立てて今の身分にした。平民から一挙に貴族に出世したことを妬む人々は、彼の出自の卑しさを密かに笑っている。

ザイラスはリダルの命を受けて、アトラスを伴い、リダルの居室の簾を開けて、アトラスを王の部屋に導いた。そのまま護衛の任を果たすように、周囲を窺いつつ入り口に立ちつくした。その姿に変わらぬ忠誠心を見るようだった。

 居室に足を踏み入れたアトラスの声がした。

「ただいま参じました」

「よぉ、来た」

 リダルは機嫌良くアトラスを迎えた。その声は大きく、居室の入り口で護衛に当たるザイラスにも届いている。

「儂がリネを后に迎えたのは、お前より1つ下の時であった」

「母上の事ですか?」

 アトラスは意外に思った。父親が本当に愛している相手の名をあげれば、アトラスの母親でリダルの正后であるリネの名ではなく、戦線の地から連れ帰った蛮族の娘の名ではないかと考えたのである。口ごもるアトラスをしりめに、リダルは言葉を続けた。

「シュレーブ国にエリュティアという王女が居る。見目麗しいだけではないぞ、評判の素直で気だての良い姫だ。我が国の力を増すことも出来る」

 リダルの言うとおりである。このアトランティスで平和を保つために、力関係の片寄りは排除せねばならず、各国はアトランティスを統率する神帝の元に同格である。各国は神々の神託を神帝を通じて賜り、その神の命に従う。この関係を保つために二国間の同盟は許されてはいない。ただ、その裏では政略結婚による血縁関係を軸に、第三国と関係を強化し、自国の勢力を増やそうとする。事実、ルージの王族貴族は海を挟んだ対岸のヴェスターと血縁関係が深い。

「アトランティス議会など腰抜けよ。しかし、シュレーブと手を組んでみよ。シリャードのアテナイなど蹴散らして、海を渡って押し寄せる蛮族の軍など、我がルージの海軍が海の藻屑にしてくれるわ」

「その折には、先鋒の一角を賜りたく」

 リダルの息子としての模範解答である。リダルはアトラスの返事に答えず、にこやかに息子の肩をたたいた。

「とりあえず、件の姫と会うてみよ」

 この場合、アトラスにとって、エリュティアと会ってみろというのは、后として迎え入れる心づもりをせよと言われているに等しい。 

 居室の入り口に立つザイラスは耳を澄ませたが、王の言葉にアトラスの返事がなかった

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