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エピローグ(第一部:混沌の大地 終了)

「ロユラス。船はフェイルムの港に。ここの山の中は早く抜けねば」

 市場を気ままにうろついていて好奇心を満たして帰途についていたロユラスに声をかける者があった。

「お前と俺が居る。それで何が物騒なのだ」

 腕の立つ二人がいれば、どんな敵が襲ってこようと撃退してみせるというのである。確かに、フローイ国の都カイーキから北に延びてフェイルムの港に至る道は両側を切り立った崖に挟まれて大勢の兵を動かせる場所ではない。少数の敵なら二人で何とかなるだろう。

「ここいらは、反乱を起こした半蛮族ジェ・タレヴォーどもの巣窟だ。いつ山賊に襲われるか」

 そう言いかけたミドルが口ごもったので、ロユラスが脣を歪めて苦笑いをした。ミドルが口ごもったのは、ロユラスの前で半蛮族ジェ・タレヴォーという差別的な呼称を使ったことである。タレヴォーとはアトランティナ(アトランティス人)以外の異邦人を意味する蔑称である。このフローイには銀鉱山や良質な石切場が数多くあり、過去の遠征で連れてこられた数多くの捕虜たちが奴隷として長年働いている。その奴隷とアトランティナ(アトランティス人)との間に出来た子どもを半蛮族ジェ・タレヴォーと呼んで蔑視しているのである。ただ、異邦人との混血という意味では、ロユラスも半蛮族ジェ・タレヴォーに違いない。ミドルはそれに気づいて口ごもったのである。


「しかし、興味深い。ずいぶん半蛮族ジェ・タレヴォーの多い土地だ」

 彼はその理由を見抜いている。フローイは奴隷や半蛮族ジェ・タレヴォーの安価な労働力があれば、鉱山から価値のある鉱物を採掘することが出来、奴隷が多いほど産出量も増えて、鉱山の持ち主や国は富む。対照的なのは彼が生まれたルージ国で、資源と言えば南部のザイガル山で産出する硫黄ぐらいのもので、人々は漁業と農業で身を立てている。奴隷がいたとしても、奴隷を養ってあまりある収穫が得られるわけではないから、ルージでは誰かに所有される奴隷身分の者などほとんど存在しないのである。

 ロユラスという青年の面白さは、この時代に軍事や経済の仕組みに興味を持って居ると言うことである。彼はアトランティス各地を旅しながら、人や土地に接して好奇心を満たしていたのである。

「ふぅーん。この地で半蛮族ジェ・タレヴォーどもをまとめあげて、乱を起こすのも面白いかもしれぬ」

 この辺りの地形は、攻め込んできた大軍を防ぐのに防ぐのに丁度良く、その故に、いくつかの砦に少数の兵が配備されているだけである。この少数の兵が守る砦を3つばかり破りさえすれば、フローイの都に直接攻め込めるのではないかと考えたのである。

「一度、半蛮族ジェ・タレヴォーどものかしらと会ってみたいものだ」

「何をいうか、危険にもほどがある」

 幸いにも山賊の襲撃にも遭わず、二人は港町フェイルムにたどり着いた。海を眺める二人の目が輝いていた。海に生活の場を求める二人に、陸地は狭すぎる。五日の航海で彼らは故郷のルージに帰る。

 ミドルの脳裏に浮かぶのは、ロユラスに思いを寄せる妹のタリアの顔である。ただ、親友でありながらどこか本心を隠しているロユラスの横顔を眺めたときに首をかしげざるを得ないのである。ロユラスが思い描いているもの何だろう。ロユラスは口元に笑みを浮かべていた。

 実のところ、ロユラス自身は具体的な展望やイメージがあるわけではない。ただ、アトランティス各地で眺めた光景が混じり合って、自らの運命が大きく動き出しそうな興味がわき上がってきている。

 この時、このロユラスがアトランティスの命運を最も感じ取っていたかも知れない。人々の運命は急激に動き始めていた。


 

 第一部 了

最後まで読んでいただいてありがとうございました。

第一部で物語を織りなす若者たちが運命の出会いを果たしましたが、第二部:戦乱の大地では、いよいよ戦に継ぐ戦の物語となります。初戦はネルギエ峡谷にてフローイの王子グライス(リーミルの弟)が、ルージ国のリダル王と剣を交わして初陣を果たし、続くリシア平原の戦いでアトラスが、フローイ軍、シュレーブ軍相手の初陣の時期を迎えます。


第二部はある程度書きためて、4月頃から始める予定です。第一部の登場人物たちとの再会も今しばらくお待ちください。

でも・・・

第二部の初めの辺りから少しだけ

*****************

「あら、花婿が美しい花嫁の側にいないでどうするの?」

 リーミルの優しく叱るような口調に、グライスは少し黙っていたが、やがて決意を口にした。

「姉上、私はアトラスを討たねばなりません」

「グライス、優しい弟」

 そう言ってリーミルは優しく弟の肩を抱いた。グライスはシリャードでの姉とアトラスのいきさつは聞き知っている。そして弟として、帰国してからの姉の様子を眺めれば、アトラスに対する好意ともつかぬ感情をにじませていた。ただ、自分はフローイ国の武将として、たとえ姉の思い人であろうと討たねばならないというのである。


2014年4月6日。第二部を始めました。

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