アトランティス分裂 フローイ国
リーミルが宮殿に呼び戻されたのは、六神司院が発した詔のせいである。シュレーブから二日遅れて到着した。その内容はシュレーブ国に当てた物と同じく、「フローイ国はシュレーブと共に、反乱国のルージとルージに荷担する二カ国を討て」という詔である。
国王ボルススは国の主だった者を館の会議室に招集した。王は普段は男ばかりの会議に、孫娘リーミルを加えたのである。
「いかがしたものか」
ボルススは居並ぶ諸侯に意見を問う素振りを見せたが、その心の底では既に次の行動を決めているのかも知れない。
「神帝を殺害したのは、あのザイラスという男なの?」
リーミルはそう尋ねた。父親がルージ王リダルに殺された復讐にフローイに内通していた男という記憶があった。ただ、あの男は妙に冷静で律儀で、復讐の動機になる怒りを外に出さない男だった。その男が、リダル王、或いはアトラスの手先として神帝を殺害するというのは想像がつかない。リダルにたいしてあれほどの敵意を持った男なら、暗殺計画を知れば、その手先として荷担するどころか、リダルを反逆者として六神司院に告発し彼を破滅に追い込むことを選ぶだろう。
そして、リーミルは虚飾のない素直なアトラスと接していた。ひょっとしたら、この時期の本当のアトラスの姿を知っているのは、彼女だけかも知れない。素のアトラスもまた神帝殺害を企む人物ではないと思った。
「その詔、信じられない」
リーミルの言葉に、某臣マッドケウスは頷いた。
「確かに、ここは腰を据えて考える必要があります」
「さすればどうする?」
「聖都には弔問の使者を差し遣わして、様子を探らせましょう」
「弔問とな」
「左様です。我らは、シュレーブから迎えた大事な姫子と、グライス様との婚礼の儀がございます」
「なるほど。しかし、この詔を無視することになりはすまいか」
「神帝崩御の後は、各国国王が聖都に参集するのが決めごとのはず。その決まりを破って我らに密使を出すなど、後ろめたいことでもあるのでしょう」
「さすれば、今はグライスと姫子の婚礼を盛大に執り行うとするか」
「御意」
マッドケウスはボルススの言葉に頷いた。リーミルの弟のグライスは、自分の婚礼の事ながら、いつものように、王の命令には全て従うとでも言うように、王の言葉に無言で耳を傾けていただけである。
グライスが未だ出会ったこともない将来の妻フェミナは、侍女団を連れて行列を仕立てて王都にやってくる。次の王の婚礼ということで数日にわたる壮麗な結婚式をする準備は出来ているが、男たちの時間稼ぎのために式典の期間は更に長く伸びるだろう。
グライスがちらりと姉のリーミルを眺める視線に、婚礼ではなく、戦への決意がこもっていた。ここにおいて、アテナイ軍ではなく、アトランティス人同士が争う状況が整ったのである。




