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失意のザイラス

 各国の王が集まる議会の終了とともに、各国の王の館から主が姿を消して留守を守る留守居役ばかりになる。このシリャードは政治的中心地から解放されたかのように静けさを取り戻す。荘厳とした宗教の中心地へと都市の雰囲気は変貌する。

 再び慌ただしさを取り戻すのは、来年のターアの月からである。アトランティス議会は春が深まったターアの月から始まり、一年の不浄が集まるとされるミッシューの五日の休会を夾んでマーゴの月に続く。この月になると、春の装いは終わりを告げ始め、陽は時折肌を焼くほどの強さになり、ロイトと呼ばれるアトランティスの夏を象徴する大輪の花が香りを放ち、水辺には多くのトンボが飛び交うのを見かけるようになる。


 日は過ぎて先に帰国の途についたルージ国王の一行などは、風に恵まれれば海を越えてルージ本島に到着する間際だろう。

(初めての任務が重すぎるのか)

 ルージ王の館の留守居役を務めるウルススは、アトラス王子の側近の任を解かれ、留守居役に就いた若いザイラスをながめてそう考えた。思慮深く同時に剛胆さも兼ね備えていると考えていた青年が、妙に覇気を失って悩んでいる様子なのである。


 ロゲルスリンからの使者がルージ国王の公邸に遣わされたのはそんな時である。神帝スイーンから密命を下す故に、参内しろと言うのである。

「どうすれば良いかの?」

 留守居役のウルススはザイラスに尋ねた。当然、求めには応じるつもりだが、密命という大事な内容なら、リダル王にその内容を告げて判断を仰がねばならない。しかし、リダル王一行は既に帰国の途について、今は海上にある。あと数日でルージ島に着くだろうというタイミングだった。大事な事なら王がシリャードに居る間に願いたいと言うのがウルススの率直な思いだった。

「私が代理で参りましょう」

 ザイラスがそう提案した。リダルから宝剣を託されて王家に準じる身分にしてもらっていたし、留守居役の補佐という肩書きなら、参内するのに身分が低すぎると言うことはあるまい。

 そして、その場で神帝スーインの名に基づく不条理な命令が出たとしても、ザイラスには受ける判断をする権限がないと突っぱねて時間稼ぎをすることもできるだろう。

(この人の下で、もう一度やり直そう)

 ザイラスはウルススの補佐についてそう思った。そうすれば、裏切りの罪を償う機会もあるだろう。ウルススという老人は武人ながら周囲に気遣いを欠かさない男で、何より亡くなったザイラスの父に敬意を抱いており、その息子のザイラスにも息子にかけるような愛情を注いでいた。

 その点、ザイラスは人物に恵まれた。もし、リダル王やアトラス王子と共に帰国していれば、罪の意識に苛まれ自害していたかも知れない。死は恐れないが、ただ無為に自害するのではなく、罪をあがなって死ぬ機会を与えてもらったと、ザイラスはウルススに密かに感謝している。

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