六神司院謀反
その神帝の元に駆けつける僧兵が居た。名をマレヌスという。神帝が腐敗した最高神官を政治から除く手配をさせたイドロアス直属の部下の一人である。.ルージ国が蛮族討伐の兵を挙げると宣言した今、最高神官どもの目は新たな戦に釘付けだろう。その隙に早急に事を進めるつもりである。
マレヌスが息を切らせて言った。
「神帝よ。大変でございます。僧兵長イドロアス様が亡くなられたとのことでございます」
「何事だ」
「ルードン河の四ゲリア(約3km)下流の北の岸部に死体となって発見されたとのことです」
「間違いはないのか? この時期になんと不運なことだ」
「背に深い刀傷があり、何者かに殺害されたものと」
「殺害だと? 他に誰が知っておる」
「行方不明になっていたイドロアス様を探索していた者が知らせて参りましたので、即座にお知らせに参りました。まだ、他に知る者はおるまいと存じます」
神帝は沈痛な面持ちで考え込んだ。腐敗しきった最高神官の者を除くつもりで、イドロアスに探らせ、排除の手はずを整えるつもりだった。そのイドロアスが誰かに殺害されたとなれば、最高神官の手の者に違いない。ここは、一刻も早く計画を実行に移して、最高神官の者どもを、僧兵たちを使って排除せねばならない。
「トロイアスを呼べ」
神帝は、イドロアスの直属の部下の名を指定した。イドロアス亡き今、イドロアスに次ぐ地位におり僧兵部隊の指揮を執る男である。マレヌスが神帝が命を実行しようと、部屋を駆けだそうとしたときに、そのトロイアス本人が姿を見せて大声で呼ばわった。
「最高神官の皆様がお越しになりました」
「誰だ?」
六神司院の者は、神官たちに占わせた神託の結果などを、神帝の元に上奏に来る。ただ、通常は順番に誰か一人が代表してやって来るのが通例で、複数で来ることはまれである。その為に、来た者は誰かと尋ねたのである。
「それが、クジースス様、ガークト様、ブクスス様、グリポフ様、クレアナス様、クイールトス様、そろっておいでです」
顔を見せた六人は大仰に礼をし、最高神官の一人、ガークトが進み出て言った。
「イドロアス様、ご不幸の連絡を得て、取り急ぎ参りました」
「それは大儀。しかし、最高神官が顔をそろえて謁見など珍しいことを」
神帝の皮肉のこもった言葉に、最高神官の一人クレアナスが答えた。
「剣の達人のイドロアス様が背後から一刀のもとに切り伏せられていたとのこと、早くその危険な犯人を捕らえねばなりませぬ」
この者どもは、まだ知るはずのないイドロアスが殺された事を知っているばかりではなく、犯人がイドロアスの背後から剣でおそったと言うことも知っていた。その不自然さに、マレヌスは神帝と顔を見合わせた後、最高神官の者たちに問うた。
「何故、イドロアス様が亡くなったことをご存じなのですか?」
トロイアスはやおら剣を抜き、目の前でそんな疑問の言葉を発したマレヌスを背後から切り捨てた。床に倒れたマレヌスに駆け寄った神帝は、既に彼の息が絶えているのを確認すると、トロイアスを睨んで怒鳴った。
「何をするか」
「この国を害する者を、忠義の神の名の下に誅殺しただけでございます」
マレヌスの死体を抱き起こして跪く神帝を、血まみれの剣を下げたままのトロイアスとロゲルスゲラたちが囲んで見下ろすように眺めた。その異様な笑顔に神帝はこの者たちの意図を知った。
「お前たち、謀反を起こし、この儂を殺害するつもりか」
神帝の言葉にトロイアスは最高神官の者どもの意向を伺うように顔を眺め回して言った。
「いいえ。役に立っていただける間は、殺害などととんでもない話。しばらくは神殿の奥にお隠れいただくだけでございます」
アトランティスの中央から腐敗の根本を取り除こうとしていた神帝は、逆に最高神官の謀略の前に敗れ去ったのである。この時からルージ国、シュレーブ国、フローイ国を互いに争わせようとする謀略が活発化する。




