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開戦への決意

 履き物を脱ぐというのは、履き物さえ持たない下賤の者どもと同様に身をやつして、神を敬えと言うことで、王家に連なる者に対する侮辱に近い。アトラスはその物言いに興奮した。

「不敬ではありません。神が見守る存在だというなら、我が手で運命を切り開く姿をご覧に入れるまで。我らが運命に神が介入する余地はない」

「なんと愚かな、王子よ」

 そんな言葉に続いて、神帝スーインを補佐する最高神官(ロゲルスゲラ)の一員クレアナスがアトラスを糾弾した。

「ルミリア神を始め、この大地を守る神々に対する信仰こそが、このアトランティスを支えるもの。王子はそれを否定されるのか」

(この者どもは、アトラス王子を意図的に挑発しているのか)

 老獪なボルススは、神帝スーインを補佐する最高神官(ロゲルスゲラ)の者どもの言葉の意図を正確に見抜いた。その目的までは分からないが、本来は神を侮辱する意志のない王子に、彼を興奮させる言葉を的確に吐きかけている。神帝スーインが、そんな者どもを制するように口を開いた。

「まぁ、よい。勇敢と臆病、忠誠と反逆は表裏一体とか、それは私が神々に問うこと。そなたたちが軽々しく口を挟むことでは無かろう」

 黙っていたリダルが口を開いた。

「神々の御子たる神帝スーインよ。我が息子を神に逆らう反逆者として糾弾する最高神官(ロゲルスゲラ)の者どもよ、これまででございますな。ただいま以降、我がルージの忠誠は、我が剣の切っ先のみにあり。我が剣で蛮族どもを平らげ、神々への忠誠をお示し申そう」

 リダルは兵を挙げてシリャードに巣くう蛮族(タレヴォー)を除くと宣言したのである。

 聖都シリャードに駐留するアテナイ兵は二千。ルージの動員兵力にルージに賛同する国々の兵士を加えれば一万数千の兵力になり、確かに蛮族の兵を圧倒するに違いない。しかし、この美しい都市国家シリャードは戦場となって破壊されるに違いない。そして、勝利するアトランティスに、海の向こうからアトランティスの兵を遙かに上回る蛮族の兵士が押し寄せて、このアトランティス全土は戦火で荒廃するだろう。そして、アトランティスをまとめていた聖都シリャードの崩壊は、再びアトランティスの大地を各国の覇権を争う場に変えて、血なまぐさい歴史へと導くかもしれない。


 神帝スーインを補佐する最高神官(ロゲルスゲラ)の者どもはそれを危惧しているはずだった。しかし、ボルススが見るところ、神帝の左右に控える六人の神帝スーインを補佐する最高神官(ロゲルスゲラ)の者どもの表情に不安な影はなく、むしろ、リダルの発言を心密かに喜んでいるかのような様子がうかがえた。

(いかなる所存か?)

 ボルススは彼らの心底をいぶかったが、リダルは周囲の者たちを気にする様子もなく、息子のアトラスを伴い会議室を去り、リダルに賛同するヴェスター国王、グラト国王が席を蹴って立ち上がりリダルの後を追った。アトランティナの意志を統一するというアトランティス議会は、その数十年の歴史の後、再び分裂の時を迎えたのである。

 会議場から退出するリダルは、シュレーブ王ジソーの元で足を止めて、短く言った。

「倅のこと、事が成就した後に願いたい」

 進みつつある倅のアトラスとエリュティア姫の婚礼を、これから始まる戦の後に日延べしてくれと言うのである。確かに情勢は大きく変わった。シュレーブ王ジソーはその言葉に頷いて同意を伝えた。

 多くの人々の運命が変わり始めた。ただ、この日アトラスが不用意に発した「神であろうと私の敵です」と言う言葉は、神帝スーインを補佐する最高神官(ロゲルスゲラ)の者どもはそれを危惧の者どもによって喧伝され、アトラスは神への反逆児としての汚名を広めることになる。


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