神帝(スーイン)オタール
物語は神帝の館に移る。神帝の座にあるオタールという人物は、優しい叔父というエリュティアが抱くイメージが一面を表しており、もう一方、アトランティス議会において並み居る個性豊かな王たちを統べるという所に、この人物の行政手腕が表れていた。
しかし、最高位とはいえ実質的な権威はない。すべて、六神司院が神の神託を伺い、その神託を各国の国王に指示をするという役割である。平和な世であれば名君と讃えられたに違いない。しかし、皮肉な時の流れは、大地が最も混乱した時期にこの人物を最高位に据えた。
神の意志が、人徳と手腕を兼ね備えた王によって反映されるなら、理想的な社会と言えたかもしれない。ただ、神の意志をくみ取る六神司院が、彼らの欲によって腐り果てていた。神のお告げと称して自らの欲望を満たす施策が神帝に上奏されており、その影響力につけいる者どもの賄賂が横行して、真理を司る最高神ルミリアの威光に、この神殿を中心に陰りが射すという状態である。
オタールはこの状況を変えようとした。腐敗の中核である六神司院を排除するのである。議会は順調に推移しており、六神司院も油断しているに違いない。アトランティス議会も明後日には日程を終了し、三日後には閉会の式典がある。アトランティス九カ国の王が集まる最後の日である。その場で近衛兵を動かしてロゲルスゲラどもを排除し、過去の悪行を暴いて六神司院の再編成を宣言する。アトランティスの汚濁を取り除くことが出来るはずだった。
「では、期待しているぞ」
「お任せあれ」
僧兵長イドロアスが周囲を注意深く伺いつつ、右の拳を胸に当てて、神帝オタールの命を受けた。この神殿でオタールの元で神に忠誠を誓う者は多くはない。計画は慎重に進めなくてはならない。イドロアスが王の間を立ち去り、一人になったオタールは何故かエリュティアを思い起こした。あの娘が信じるもののために。




