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フェミナ登場

 アトラスは館から去り、ドリクスはうつむき加減に歩くエリュティアに寄り添いつつ、彼女の心理を窺った。エリュティアがぽつりと呟いた。

「本当にあの方が、真理の女神ルミリアに遣わされたレトラスなのでしょうか?」

 救世主が自分の目の前に現れる。そういう期待は裏切られていた。エリュティアうつむきながら発したそんな問いかけは、独り言だったのだろうか。しかし、ドリクスはその独り言に介入した。

「それは、まだ分かりません。ただ、抜き身の刃という自らの姿に気づかぬうちは、触れる者を傷つけましょう。剣を振るう目的に気づかぬうちは、その切っ先が思いもかけぬ方向に向くこともございましょう。ですから、刃には鞘が、力にはそれを正しく使う意志が、必要なのです」

 ドリクスはそんな表現でエリュティアの疑問を制したあと、思いついたように付け加えた。

「そうそう、今日、アトラス王子にお越し頂いた返礼に、こちらからも王子を訪問せねばなりませんな。手みやげは何がよろしいでしょう」

「また、あの方と会わねばならぬのですか?」

「早いほど、お二人の気持ちは高まりましょう。いかがでしょう、今から宝物庫で王子への手みやげを選んでは?」

 ドリクスはエリュティアに問うという形を取ったが、すでに返礼の贈り物はフェルムスの剣と決めていた。シュレーブ王家に伝わる宝刀である。剣の前でさりげなく、そのすばらしさを説けば、エリュティアはドリクスの意志に沿って剣を選択するだろう。

 日当たりの良い庭園から館の出入り口が見える。その出入り口の門のように2本の樹木があって葉を茂らせていた。ドリクスは驚いたように目を見開いた。樹木に向き合うように背を見せている少女の姿がある。


 傍らにいるエリュティアが元気を失って存在感がない。ドリクスにはその彼女がいきなり別の場所に現れたかのような気がしたのである。その新たな少女の後ろ姿は、それほどエリュティアとよく似ていた。背後の人の気配に気づいて振り返った少女は親しげな声を上げた。

「エリュティア様」

 エリュティアも親しげに彼女の名を呼んだ。彼女の表情は一転して明るくなったところに二人の少女の関係が窺われる。

「フェミナ」

 エリュティアにそう名を呼ばれた少女は、王家の血筋を引いて現国王のアルトオ家に次ぐ格式の高い家柄の貴族の娘である。年齢が近いことがあり、幼い頃から仲が良い。エリュティアは許可を求めるようにドリクスの顔を振り仰いだ。

「先生」

 幼なじみと二人で話し合いたいというのだろう。ドリクスはそれを察して笑顔を浮かべた。

「エリュティア様。私は急用を思い出しました。後はお二人でお過ごしください」

 ドリクスはそう言って足早にその場を立ち去った。ドリクスは自分たちが意図的に操作した二人の少女の運命を考えた。フローイの王家に嫁ぐフェミナと、ルージに嫁がせる予定のエリュティア。姿形の似通った二人だが、もし、エリュティアがフローイ国に嫁ぐようにし向けていたら、この二人の少女の運命はどう変わったのだろうと。

 ドリクスはその足を彼の報告を待っているジソーの元に向けた。


「首尾はどうであった?」

シュレーブ国王ジソーは、執務室に戻ってきたドリクスに面会の様子を問い、ドリクスが答えた。

「上々かと存じます」

「王子の左の手首を見たか」

「気がついておられましたか」

「儂の目は節穴ではないわ」

 細やかな作りの銀細工がフローイを連想させた。装飾品に興味を示すことがないルージ国の男が、あれを身につけていたと言うことは、フローイがアトラスに接近を図っているということに違いあるまい。油断はならない。ジソーは言葉を続けた。

「さすれば、アトラス王子への返礼の日取りも、早いほうが良いの」

「さようでございます」

「その日取りと、返礼の品を決めておいてくれ」

「いえ、返礼の宝物も、日取りも、エリュティア様のご意志にて」

「なるほど」

 当事者のエリュティアの意志を尊重しようという言葉の裏で、意味深に微笑みあうジソーとドリクスの表情は、エリュティアを意のままに操って誘導すればいいと語っているようなものだった。結論は決まったとでも言うようにドリクスは話題を変えた。

「さきほど、フェミナ様のお姿を拝見いたしましたが」

「フローイに嫁ぐ前の挨拶に参ったよ。あと数日は滞在するとのことだ」

「それは、ようございました。エリュティア様にとってもいい話し相手、よい気晴らしになりましょうな」

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