六神司院(ロゲル・スリン)
物語はシリャードにおける政治の中心組織として、六神司院に触れねばならない。アトランティスは長い戦乱の世を終わらせるために、九つの国家が共通して信仰する神々を利用した。太陽神ルミリアの神託を受ける最高神官の元で、九つの国が平等に神に仕えようと誓いを立てたのである。
当然のことながら、アトランティス内でも強大な国力を誇る3カ国が、神帝と名付けられた地位の候補者を出した。ルージ国王で若き日のアトラスの父リダル、フローイ国王で、その後の遠征で異境の地で戦死したリーミルの父、シュレーブ国王でエリュティアの叔父オタールであった。
そして、ヴェスター、レネン、アルム、グラト、ゲルト、ラルトの六カ国から各一名づつ、王家と関わりのない神官が選び出され、六人の神官は真理の女神の神託を受けて神帝を選び、オタールがシュレーブ国王の座をエリュティアの父に譲って初代神帝の座に就いた。六人の神官は神帝の補佐役になる諮問機関として六神司院を構成した。
アトランティスを統べる神帝は、神殿の奧で祀られる実権のない名誉職にすぎないとも言える。ただ、ロゲルスゲリンは各国の利害を調整する職務を背負うため役得が伴う。付け届けや賄賂が横行し、様々な権力が集中した。そして、今や、ロゲルスゲラと呼ばれるロゲルスリンの構成メンバーは、神職という立場から堕落し、権力欲に囚われている。そして、その地位を脅かす者どもを暗殺しているともささやかれていた。
アトランティスは、九カ国を平和に統率する手段として聖都シリャードを作り上げた。いまはその聖都も発展し、一万人近い人口を抱え、独自の統治能力と僧兵集団という兵力も抱える都市国家になった。
そして、アトランティナは彼らが作り出した宗教国家シリャードの元に集うことで、1つにまとまったが、その平和は当初から虚栄だったと言える。今は、この大地に平和をもたらすべき聖都シリャードの内部で、組織を改革しようとする神帝オタールと、現在の体制を維持しようとする六神司院の間で密かだが、熱く激しい争いが始まろうとしている。
各国の力のバランスを維持するために、国家間の政略結婚は禁止されていた。しかし、神帝は裁定するのみで、強制したり罰したりする権力がないために、決まりは存在しつつ形骸化している。例を挙げれば、アトラスの母リネは、海峡を挟んで存在するヴェスター国王の妹として、ルージ国のリダルに嫁いだ。
ただ、表だって神に逆らうことを避けて、政略結婚ではなく男女の自由恋愛という形を取っている。真理の女神が国家の権力拡大を禁止していても、真理の女神の娘で愛を司る女神リナシアや恋を司る女神フェリンは、男女の恋の成就を妨害するはずがないいう理屈である。