表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マールの日常  作者: スイ
6/11

6.衝撃の事実

 コールリッジ先生は、一言『了解。』と言い残して苦笑いと共に病室を去っていった。

 本気で呆れられたね。


 それよりも驚きの展開がここに。


 セミドライフルーツのチョコがけ情報にゴア夫人が食いついて来ております!隊長!

 私の力説に感化されたのでしょうか!

 それとも罠?

 ゴア夫人に翻弄されっぱなしの私ですが、”二度あることは三度ある”という格言を胸に慎重に回答してみます。



 菓子店の名前?

「『花の小路』です。」

 首都にあるお店にしては、ベタな店名よね。


 住所?聞いてどうするのかしら。まず首都まで馬車で十日もかかるし。

「確か首都の『碧区三番街』だったと思います。部屋に戻れば、お店の案内札を取っておいてあるからハッキリしますけど。」

 『三番街ね』と復唱する表情は何故か先ほどよりも真剣みが増している気が…、そして私の胃の痛みも増してきた気が…。


 続く尋問。セミドライフルーツのチョコがけは、その三種類だけなのか?

「今回は友人が私の好きそうなものを選んでくれたので、私も他は食べてないんですけど、果物はイチジク、林檎、梨、ちょっと変わったところでは生姜もありましたよ。チョコは、ビターとミルクだけでホワイトチョコは無かったはずです。」

 『組合せを考えると、全種類制覇したくなるわね。』というつぶやきには、心からの同意として深く頷いておく。


 お店の他の商品?

「確か前々回発行の情報誌、夜の上月かみつき号のチョコレート特集ではチョコレート菓子専門店って紹介されてましたよ。」

 そう伝えると、キリリとした表情で私に質問を浴びせていたのが嘘のように、ゴア夫人は椅子に座ったまま上半身をぐったりとベッドの上に投げ出した。




「グレイス先生、病人相手に何してるんですか。」

 おっと、コールリッジ先生再登場です。張りつめた空気が、その何かで山盛りのワゴンで押し出されたようです。


 が、ちょっと待ってくださいましね。 

「グレイス、先生?」

「自己紹介してないんですか?」

 私の質問に被せるように質問を返してきたコールリッジ先生に、グレイス・ゴアというお名前だけは伺ってます、という意思を視線で訴えてみた。


「グレイス先生はここ、中央南局の薬局長ですよ。」

 カランカランカラン、大当たりー!只者じゃないという私の勘は大当たり!強者に対する野生の勘?

 でも、名将兼裁判官改め薬局長は薬衣を着てませんけど。


「今日は休日だし非番のつもりだったのよ。」

 と体を伏せたままのたまう。

 どうしちゃったんでしょうか。


「グレイス先生ショックなのは分かりましたから、ちょっとそこどいてください。お薬渡せませんよ。」

 今までのやり取りのどこに薬局長に衝撃を与えるような事項があったのでしょうか。

 私的には、ワゴンから取り出された小瓶に入った液体の色の方が衝撃的なのですがね。



「グレイス先生は美味しいものに目がなくてね。あの雑誌のグルメランキングと特集を毎回楽しみにしてたのに、その号だけ買えなかったらしいんだ。」

「夜の上月号といえば、新進気鋭の画家の表紙絵と独占インタビュー目当てに、いつもは購入しない層の人達が買ったせいで品薄だったんですよね。」

 学園の購買へはいつもどおりの数が入ったし、しかも数少ないバイト特権”取り置き”発動で私は手に入れたけど、納入のおじさんがそんな事を言ってたな。


「だから、半年前に逃した情報の大きさに打ちひしがれたんじゃないかな。ね、グレイス先生。」

 そんなに欲しい情報だったんですか?

 コールリッジ先生の声掛けにも、無反応ですが大丈夫でしょうか。

 グルメランキング愛好家を発見した喜びより、戸惑いの方が大きいのはどうしてでしょうか。


「あの、良かったら今度持ってきましょうか?半年前の情報誌で、回し読みしてるからそんなにキレイじゃありませんけど。」

 コールリッジ先生が小瓶に何かを混ぜてシャカシャカと片手で振るのを横目に、私の伸ばした足の膝辺りに力なく伏したままの薬局長に声をかけてみる。


 その瞬間、薬局長はパッと起き上がりクルッと私へ顔を向け、ガシッと両手で私の右手を掴み、眼光鋭く

「是非!さすが美食同好会ね。心が通じるわね。」

 とおっしゃいました。

 いつの間にか、また薬局長の手のひらの上で躍らされていたようです。



「グレイス先生、非番なら邪魔しないでくださいね。続きは患者さんの具合が良くなってからお願いします。」

 またしても、助け舟はコールリッジ先生から出されましたよ。薬局長は椅子に座ったまま横移動。


「先ずは、これ飲んでね。」

 渡されたのは、横目で見ていた小瓶。泥色だったはずが、何かを入れてシャカシャカしたら透明に。不思議。


 変な匂いは無し。

 よし!ここは気合を入れて一気にね。



 ……………水?



「すごいでしょ。コールリッジ先生の改良品なのよ。胃腸の過剰反応を抑えるその薬は、本来ものすごく苦いのだけど、成分はそのままに飲み易く改良してあるの。」

 甘さで誤魔化す飲み方はしたことあるけど、味がないって画期的かも。

「それなら子供でも、甘いものが苦手な人でも楽に飲めるでしょ。」


「コールリッジ先生すごいです。」

 その若さで局次長なのは、伊達じゃなかった。


なかなか終わらない薬局編。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ