第12話 魔力、法技
「がはぁ!」
腹の中にするどい痛みがはしる。寝ているところを攻撃されたらしい、ケルスはまだ頭がはっきりしていないようなので自分が対処しようとベッドから飛び起き、先ほど寝ていた場所見る。そこにいたのは昨日、ケルスの弟と紹介されたダーディであった。
「兄様、おはようございます!」
さすがに会ったばかりのダーディへの普段のケルスの態度がまだよく分からず、ケルスを起こす事にする。
『ケルス、起きろ! さすがに俺が相手にしたらまずいだろ? はやく!』
『・・・あー? ふぅー・・・なんだよ朝なのにうるさいぞ―――――』
「それにしてもずいぶん起きるのが早くなりましたね兄様」
その声を聞き今まさに頭の中で会話していたケルスがピシッという効果音が鳴ったかのように固まる。そしてあわてて意識をしっかりさせたケルスが目の前の人物を見つめ
『状況説明!』
『寝ていたケルスの体にお前の弟が会心の一撃を入れた。んで俺が緊急事態だと思って、だれか確認しようとしてベッドから抜け出して―――――』
『長い! 短くまとめろ!』
『・・・・・・起こされた』
『最初からそういえ!』
『・・・・・・』
「おはよう、ダーディ」
「はい。兄様、それにしてもずいぶん今日は起きるのが――――」
「さて、庭にでよう。"あれ"をするぞ!」
今の出来事に話題を戻らせてはいけないとケルスはすぐに言葉を被せる。
「はい、そうですね。久しぶりにするので楽しみです。それにしても昔と比べて今日は――――」
「楽しみだな! さて、ひさびさの"あれ"だ! 兄として負けられないな」
啓の事を誤魔化すのがめんどくさいので露骨に先ほどの出来事を語らせないようにする。その兄を見て、ダーディはその話題に触れて欲しくないのかとようやく察して聞くのをやめる。そのままケルスはダーディと同じ服装に着替え、庭に出る。空は日が出たばかりなのか寒く、風が少し吹いていた。
『啓』
『・・・なんだい?』
さきほど寝起きに怒鳴られたのが原因か啓はふてくされたような声で応じる。
『魔闘試験のあの闘い・・・・・・本当にすごかったよ。自分の体か疑ったぐらいだ』
『・・・今頃? なんだよ突然。気持ち悪い、大体予想ついてると思うが俺が動かせるのはあくまでもケルス、お前でも動かせる範囲なんだぞ? 俺が操作すると強くなるとかそういうものじゃないんだ』
『なんとなく今言っておかないと、って思ってな。今からする事、今度は啓がよく見てくれよ』
『何をするか知らないが黙って見てればいいだろ?』
『ついでに絶対に体を動かしたりしようとするなよ気が散るからな』
『もちろんだ。ケルスが望まないならケルスが死ぬ事になっても手を出さないよ』
『・・・啓はそれでいいのかよ』
そういうとケルスはダーディと、庭の線が引いてある中央でお互いに向かいあった。
「兄様、ルールは昔のままでいいですか?」
「・・・あぁそれで」
たった一年、だがとても長く感じた一年だった。今年で15になる目の前にいる弟を見据える。大きくなった、本当に・・・。お互いがお互いを一番知り尽くしている相手だ。想像する、どれだけ強くなったか・・・一年前はまだ手加減が出来ていた。だけど知っている、人が一年でどれほど変わるのか。これから始まる事を考え、後に啓からいやみを言われる事を想像し思わず苦笑いがこぼれる。
「それでは兄様、いきます」
「あぁ・・・来い」
互いに無言。ダーディが魔法を腕に纏わせ、それを見て自分も纏わせる。啓は魔力を見ただけで何処に放たれるのかが分かると言っていた。もし事実だとすれば魔力が見える類の能力だと予想する。だが恐らくこれから行われる事は理解できないはずだ。そうでなくては困るのだ。初めての試合にあれだけ自分を驚かせてくれたんだ。今度は自分が驚かせなきゃ気がすまない。
「・・・ふ!」
力を込めダーディが思いきり腕を振る。学園ではディスチェや、ファークの火球すら避けるのは精一杯だった。だが目の前に迫る火球はまったく別だ。たとえそれはディスチェが放った火球より、より早く、より大きく、より正確に自分に迫るものだとしても。
「・・・ふ!」
全く同じ動きで腕を振り迫る火球を迎撃する。通常の火球であればお互いにぶつかれば極小さな爆発が起こり相殺される。だがそうならないと知っているケルスは二歩ほど後ろに下がり、両手に炎を纏わせる。その瞬間お互いの火球がぶつかり合い"爆散"し小さい四方に飛び散る炎が自分が先ほどいた場所を通りすぎる。相殺されるとあらかじめ予想していたダーディも、ケルスと同じように両手に炎を纏わせ今度は距離を詰めながら、火球を放つ。変わらず迎撃するケルス。庭はすぐに"爆散"する火球で惨たらしい惨状になった。それでもお互いにどんどん近づき、放ちあい、最後は拳に火球を纏わせての格闘となった。ぶつかり合えば"爆散"する火球での殴り合いは当たればどちらとも、ひとたまりも無いが全く体に当たる気配がない。お互い相手の攻撃が読めるようにすべて避ける。しばらく続いてお互い諦めたのか今度は拳同士をぶつけあう。ぶつかり会うたびに炎が爆散し四方に飛び散るがお互い飛び散る火炎には目もくれず、すべて避け、またぶつけ会う。そしてしばらくしてダーディが後ろに下がった。
「兄様・・・相変わらず勝たせてはくれませんね」
すこし汗をかきながら荒い息遣いで愚痴るダーディ。
「当たり前だ。お前に負けたらお父さんに説教されそうだからな」
そういいながらもダーディと同じように荒い息遣いで返すケルス。
「兄様・・・そろそろ"あれ"っていうのやめませんか?」
「そうだな。もう"あれ"っていう理由もないし"練習"でいいか」
もともと"あれ"といい始めたのは別に啓を驚かせたくて言い始めたのではなく、幼いころダーディが魔法に興味を持ち、親に隠れて練習をしたいが為に言っていた隠語のようなものだった。・・・正直ケルスは微塵も隠し通せているとは思わなかったが、ダーディがずっと使い続けていたため合わせて"あれ"と言っていた。
「もう、こんな朝早くから庭で魔法の練習? お食事にするわよ」
どうやら練習で大分時間が経ちお母さんもお父さんも起床したようだ。
「どうだ? ダーディ、ケルスには勝てたか?」
「だめでした、ってお父様知ってたんですか? 庭で魔法の練習してる事」
「・・・・・・本気で隠し通せていると思っていたのか・・・庭を毎回あれだけむちゃくちゃにして」
どうやらばればれだったらしい。食事をしながら学園での事を話す。
『ケルス、今度はあの肉と、あの野菜。まだ食ってないぞ』
『・・・空気を読んでくれ。てか本当に練習中も無言だったな。お前』
『ん? まぁ練習前に黙ると言ってしまったからな。それに大切な事だったんだろ? あとあの"爆散"ちゃんと説明してもらうからな』
『・・・あぁ』
「ケルス、学園ではちゃんと"法技"を使わないようにしてた?」
「お母様、安心して下さい。それに法技なんて使ったらすぐに先生にばれて怒られるよ」
「ならいいのよ。庭をあんなにめちゃくちゃにして、今度から練習で使うときも注意しなさいよ?」
「ごめんなさい」
「まったくだぞ? ダーディ。俺はあれほど反対したのに」
「兄様、ひどい!!」
すべての罪を弟になすりつけ(もちろんばればれできっちり怒られたが)食事を終え今後の予定を考える。
『啓』
『ん?』
『なにかしたいことあるか?』
食事が終わってからケルスはとりあえず休むといい自分の部屋に引きこもった。
『・・・おいおいおいおい、折角家に帰ってきたのに・・・家族と語らえよ』
『無理だって。6日だよ? 6日間ずっと家にいるなんて無理だ』
『はぁ・・・とりあえず朝のあの技、説明しろよ』
『あれ? 法技っていうやつだよ。例えば火球を作るときに魔力を込めて作るのは知ってるよね?』
『無論だ。使ってるしな』
『その魔法に "特性を付加する事" が出来るように、魔力そのものに手を加える方法だよ』
『なんで試験で使わなかった?・・・ってもしかして使っちゃダメなルールでもあったのか?』
『そうそう、行く前にしつこく言われてたからね』
『ルールがある・・・って事はもしかして学園の生徒全員が"法技"を使用できたってことか?』
『どうなんだろう? 貴族の家にはだいたい幾つかの法技が伝わってるらしい。んでこの家には"爆散"があるけど、他の家がどういった"特性"を持っているかはわからないからね。あまり公にはしないらしいし』
『あとさ、朝のアレ。特性が無くてもディスチェより強い火球だったよな? 学園でもあれぐらいやりゃ、成績かなりよくなったんじゃないか?』
『ムリムリ。ダーディって目とか仕草で次やってくることがわかり易いんだけど学園の相手にはとてもね・・・』
『なんだよその無駄な弟殺しって名づけられそうなスキルは・・・』