第11話 自宅 家族とのつかの間
「おかえり、兄様!」
「おかえりなさい、思ったよりも早かったわね」
と母さんからはおっとりとした声がかかり、弟のダーディが走りながら飛びついてくる。
「・・・部屋に早く入りなさい。二日とはいえ、ずっと馬車の中にいたんだ。夜風は寒かろう」
『お前のお父さん、・・・声が渋すぎる。』
『家族の団欒を邪魔するな。しばらく黙っとけ』
久しぶりにあった家族に、以前と変わらず接する。弟から学園の様子を聞かれながらリビングの椅子にかける。部屋に飾ってある過度に絢爛ではない調度品や、貴族として仕方なくおいている陶芸品などを見渡し懐かしむ。弟の成長、父さんのわずかな老いた顔が一年の時を感じさせてくれる。
「本当に変わらないね。この部屋」
「あらあら、知ってるでしょ? お父さんがあまり散財しないこと。はい、お茶よ」
「ありがとうございます。お母様」
『・・・ククククク、お母様、ハハハ、お母様!! ハハハ!!! どんな返事だよお前! 学園じゃあ、あんな口調なのに―――――――――』
『俺、我慢強くなったな・・・・』
啓の笑い声を聞きながしながら無視する自分の沸点が低くなった事自画自賛する。
「兄様、学園はいかがでしたか? 魔法が得意な兄様のことですから試験じゃずっと一番じゃなかったんですか?」
「あーそれはなー。いやクラスのみんな強かったしなかなか難しかったよ」
痛い・・・弟の無邪気な羨望が痛すぎる。言いづらい、一年間ずっと学園で下位を彷徨い、最後の試験ではまさかの最下位を取った事など。
「ケルス」
不意に父さんから声がかかる。成績の事を聞かれたらまず間違いなく説教されると思い覚悟を固める。
「はい」
「・・・道中、なにもなかったか?」
「昨日、ランヤの群れに襲われましたが、無事ホルンさんに撃退して頂けましたので大丈夫でした」
「む? ここ最近魔物の発見が報告されていなかったから護衛を一人にしていたが、ランヤか・・・何匹だった?」
「見かけたのは三匹でしたが、一匹を始末し、二匹は森の中に逃げていきました。」
「・・・やはり、そうか。安心しなさい。次の出発は護衛を二人つけよう」
「やはり? 御者の人はここ最近魔物は出ていないと―――――――」
「二日前まではな。御者が出発した二日目に魔物が出たとの噂を、よくこの家に立ち寄る商人に聞いてな。あくまでも噂だと思っていたが・・・」
「そうだったのか・・・」
しばらく父さんから領地の状況、ダーディの魔法の学習の成果などの話をする。どうやら今年は豊作だったようで税収も大いに潤っていたそうだ。
「ほら、もうこんな時間ですよ? 久しぶりでつもる話もあると思いますが明日にされてはどうですか?」
「はーい、では兄様。明日朝に」
「む? それもそうか、よく眠って疲れを癒せ。 あとダーディの先生には8日間休みを出してある。お前は久しぶりに兄に挑んでみろ」
「もちろんです。おやすみなさい」
「あぁ、おやすみなさい」
そういって自分の部屋に踏み入れたが家を出たときの変わらなかったように整理されていた。
『そういえばさっき弟の先生?とか言ってたが この近くにも学校があるのか?』
『ない。個人的に家に呼んでいる、あれだ、なんだったか・・・そう家庭教師だと思ってくれていい』
『なるほど』
『じゃぁ寝るぞ! 明日朝は愛する弟との"あれ"があるからな』
『・・・・・・!』
『・・・お前なんなんだよ!! 自分から冗談よく言うくせに俺の冗談を真に受けるなよ!』
『・・・そんな事ないさ。あれだろ? あれ! わかってるさ』
『何も知らないくせに。明日朝楽しみにしてろ!』
そういってベッドの中にもぐる。明日、聖魔法学園に行く前の自分とダーディの毎朝の日課である"あれ"のイメージトレーニングをする。兄としての尊厳を賭けた一大事である。