第10話 不穏な気配
二人と分かれたケルスは食べ物が売っている市場を見回っていた。啓から見れば珍しい物だらけだったがケルスはあまり興味なさそうだ。
『ケルス、自分でここに来たわりにあまり興味はなさそうだな』
『ないさ、元々啓が見たいかもしれないと思って来ただけだしな』
自分の為という言葉に啓は軽い感動を覚えながら、ありがたく市場に売られているものを観察する。
『金は確か持ってなかったよな?』
『残念ながらな・・・俺の父さんは倹約家だったから、無駄遣いをさせないためだと一切持たせてもらえなかったよ。学園でも必要最低限のものしか送ってくれなかったし』
『じゃぁ眺めるしかないんだな・・・この売られているものは』
『我慢しろ。家につけば食べられるものをもある』
『こういう所で買って食べるのがいいんだろ? 風情をわからないやつめ』
よほど期待してたのか啓から出た不満の言葉にケルスは苦笑いで応じる。
『いい父さんだろ? 今まさに無駄遣いが省けたぞ』
緑や黄色、紫の果物、未知の肉、様々な野菜が並んだ市場をみながら啓は本当に残念そうに肩を落とす。
市場をしばらく歩き、抜けるとそこには大通りがあり道の隅には、食材の市場とは違い、細かい雑貨、アクセサリー、武器防具、その他さまざまな露天商、また立派な店を構えているところも見受けられた。その中で一際にぎわうお店らしきものを見つける。
『お? もしやあれは!』
『なにか気になるものでもあったか?』
『あぁ、あそこに行こう。予想通りならこういう町にはよくある定番のものが見れるはずだ』
そういいながらケルスを目的の店に急かす。店の前には堂々とした看板がありでかでかと
<スゥイジンギルド>
と書かれていた。
『中に入ってみようか』『戻ろうか』
二人が声を出したのはほぼ同時だった。もちろん入ろうとしたのは啓だ。
『なぜだ! ここまで来たら中まで見たくなるのが人情だろ!!』
『16歳の俺が入ってみろ! 絶対に冷やかしだと思われるぞ!』
意見の対立からお互いすぐにどなりあう。
『・・・わかった。俺が譲歩しよう。我慢して店の中に入るだけでいい』
『・・・・・・その意見の何処に譲歩がある? 真顔でときどき冗談を言うのはやめてくれ』
そう返すとあきらめたのか啓は深くため息をしながら
『外からちょっと眺めるぐらいならいいだろう?』
『あぁ、それならだいじょうぶだろう』
外から中をのぞくと屈強そうな人間や少数だが見慣れない種族たちがそれぞれの立派な武器と防具を身につけながら、仕事を受注しているようである。
『いつか使ってみたいものだな』
『無理言うな、啓はもとは20歳だったらしいが俺は16だぞ? ギルドが使えるようになるのは早くても18からだ。』
『年齢の制限があるのか・・・それは残念だな』
『それにしてもあの種族はなんだ? 学園では一度も見たことが無いが』
目を細めてケルスは店内の啓が示すところを見る。
『あぁ・・・あの鱗がある人か。あれは亜人だな』
『おぉ、わかるのか。以前見たことでもあるのか?』
『いや一度も無いよ。人種は3種類にしか分かれないからな。人間、獣人、そしてそれ以外の亜人だ。見たこと無いのだから亜人にきまってるだろ』
『・・・・・・感心して損したぞ』
『よかったな。これで一つ賢くなれたぞ? そろそろ時間だし戻るか』
そういいながらケルスは周りからの視線を感じながら来た道を戻る。
「遅くなりました」
戻ってみると御者とホルンさんが待っているところだった。
「いえいえ、ちょうど修理が終わったところでございます。それでは早速出ましょうか」
御者が馬車を走らせた所で、歩き回った疲れも出て馬車の中で横たわる。
『ありがとよ、楽しめたぜ!』
『結局なんだったんだ? お前が欲しかったもの』
『女』
女といった瞬間にケルスが恐ろしい勢いで言葉を発する。
『うぉい!!! なんだよそれ!! ムリだからな? この世界にも奴隷はあるがムリだ! 絶対に無理!! 何があっても無理!!!』
『・・・えー』
『なんだよその"えー"は! その不満の目は! 大体金があって買ったとしてもムリだからな! お父さんが厳しいって言ってるだろ!!!』
『あぁ・・・あきらめたよ。その言葉で。下手に買っても悲惨そうだしな』
『あきらめてくれ! そして今すぐその考えをどぶに捨ててくれ。忘却の彼方に封印しろ!』
『なにをあわててるんだ。子供じゃあるまいし』
『お前の世界の基準がどうかは知らないが俺は間違いなく子供なんだよ!! もう疲れた! 寝させてもらうからな!!』
『りょうかいー』
今朝とは違いホルンさんが起きている事もあり安心出来たのかケルスはすぐ眠りについた。
そして起こされたのは辺りが暗い夜、自宅の玄関前だった。
「ケルス様、つきました」
「んじゃ、俺は報酬ももらったしこれで失礼するぜ?」
「はい、今までありがとうございました」
そして馬車を降り、玄関前で待っていた家族に告げる。
「ただいま」